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「ねえ、伊作くん」
保健委員会委員長、善法寺伊作がひとりきりで医務室にこもって薬を煎じていると、真夜中すぎに不意の客人が訪れることがあった。
「はい、雑渡さん。今日はどちらからおいででしょう」
勝手知ったる相手なので伊作も起ち上がったりはしない。作業を続けながら返事だけを返す。
相手の声は聞こえるけれど姿は見えない。気配だけが少し感じられる程度だ。
「ねえ、伊作くん」
答えの代わりに、天上の板が少しだけぐらついたのが目の端に見える。はっと顔を上げると、そこにはもう闇で染め抜いたような大きな姿があった。音もなく床に降り立ち、そのまま伊作のすぐそばへと寄ってくる。
「――はい」
ほんの少しだけ、返事をためらった。見た目も気配もいままでやってきていた雑渡昆奈門とまったくおなじだけれど、わずかに伊作を慎重にさせるなにかを感じたのだ。
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