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    そらお

    2021/08/06 雑伊(左右固定)に沼った 成人済み 土井尊は読み専
    タソ保 文字を書く。@masakanootiran

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    そらお

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    雑伊版深夜のワンドロワンライ
    10/3 お題「笑顔」
    本当に本当の初めての雑伊

    #雑伊

    「笑顔」 雑伊+保「……え!?」

    その日、保健委員委員長、善法寺伊作を迎えたのは、下級生たちの戸惑いの叫びだった。

    「いや……集中してたら足元がおろそかになって」
     照れたように笑う伊作に五対の幼い瞳がじっと注がれている。みな声を出すのも忘れて驚いているのだ。
    「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
     最初に我に返ったのは、二年の川西佐近だ。
    「先輩の運の悪さは承知しております。けど――」
     伊作の運の悪さは折り紙付きだ。保健委員である以上、その事実は自分たちにもつきまとっている。伊作の惨状は、ちょっと山へ入って少なくなっている生薬の種を見つけてこようとして落とし穴に落ちたか、罠にかかったかしたに違いない。そんなことは説明されなくてもわかっている。
     小さな体を少しでも大きく見せるためか、精一杯つま先を立てて伊作に向かって大声をあげた。
    「みんなが困ってるのわかってるよ……僕だってこんなことになるとは思いもしなかったからね」
    「……」
    「これ、いったいどういうことです!?」
    「僕が落ちたときに、ちょうど雑渡さんがいらっしゃって助けてくださったんだけど。そのとき足をくじいているのがわかって」
     それ以上は言われずともわかる。伊作ほどではないが、同じような目に一度はあっている保健委員たちはいちように肩を落とした。
    「運が悪いにもほどがあります!」
     佐近の甲高い声が医務室へこだました。
     
     善法寺伊作は人に担がれたまま医務室へ運び込まれていた。それがたとえば、伊作と同室で最近とみにその運の悪さが目立ってきた食満留三郎だったり、ほかの六年であれば問題はないのだ。
     その人が――保健委員であれば見知った――タソガレドキ忍軍百人を束ねる忍び組頭の雑渡昆奈門であれば話は変わってくる。
     慌てている保健委員たちの戸惑いもどこ吹く風か、雑渡は無言で伊作を背負って部屋に突っ立ったままだ。
    「あああ、先輩が汚い!外で土を払ってくるか、装束を脱いでください……草履もそのままじゃないですか~!」
    「ああっ、ごめんね」
     次に声を上げたのは三年の三反田数馬だ。土と草でべっとりと汚れ、所々すり切れてほつれている装束から道中で乾いた泥がぽろぽろと落ちていくのを見とがめたのだ。
    「雑渡さん、すみませんが先輩をそのまま縁側のところへ持ってってください」
     先ほどまで戸惑っていたことも忘れ、数馬が雑渡を部屋から追い立てた。またも無言でそれに従い、音もなく移動する雑渡の動きをなんとはなしにじっと見つめるのは一年生の猪名寺乱太郎と、鶴町伏木蔵だ。
    「あ、雑渡さんのお背中が」
     最初に気がついたのは乱太郎だ。
     雑渡は縁側で伊作を下ろし、その装束の汚れた部分の手の届かない場所を払ってやっている。しかし、その雑渡の背中がちょうど伊作の形に泥で汚れているのがはっきり見えた。乱太郎と伏木蔵は顔を見合わせてぱちぱちと大きく目を瞬かせた。
    「乱太郎と伏木蔵は水を汲んできて。できればあまりこぼさないようにね」
    「はい!」
    「佐近はお茶を入れてきて――くせ者だけど、伊作先輩を送り届けて頂いた方をただ追い出すわけにはいかないだろ?」
    「……はい」
     数馬の矢継ぎ早の指示に、にわかに医務室は慌ただしく動き出した。
     乱太郎と伏木蔵は井戸に向かうために、伊作と雑渡の脇を通り抜けた。下級生の間に狂騒を持ち込んだはずの二人は、のんきにお互いの背中を見せ合ってははしゃいでいるふうにも見える。

    「なんだか伊作先輩は楽しそう」
    「落とし穴に落ちたのに?」
    「だって――あれ見てみなよ」

     乱太郎は振りかえって縁側の二人を見た。伏木蔵もそれに習うように足を止め、振りかえっている。

    「伊作先輩だけじゃないみたい」
    「うん」
    「雑渡さんも、すごく楽しそう……」
    「だねぇ――それって、すごいスリル~!」

     乱太郎と伏木蔵がたっている場所から見えるのは、伊作の背中と向かい合っている雑渡の正面だ。お互いに汚れた場所をはたき合っているのか、ぱたぱたと手を動かしてはゲラゲラと笑い合っている。
     表情なんてわからないはずなのに、なにが面白いのか伊作が涙とよだれと鼻水まで垂らしながら笑っているのが分かるし、包帯に覆われて片目しか見えていない雑渡がその目だけで本当に楽しそうに笑んでいるのが乱太郎の眼鏡越しにもはっきりと見えた。

    「雑渡さんって、あんなに笑う方だったんだね」

     乱太郎のしみじみした声に伏木蔵がこくこくうなずいた。保健委員の中では伊作の次くらいに、雑渡をよく知る伏木蔵が反論してこない。相当に珍しいことなのだろう。雑渡の持つ、落ち着いた大人の忍びの威厳がどこかにいってしまったようだ。
     
    「なんだか二人ともぼくたちより年下の子どもみたい」
    「だねー。楽しそうだからしばらくほっとこうか」
    「うん!」
    「ゆっくり水を汲みに行こう」
    「こぼさないようにね」

     雑渡と伊作の笑顔が移ったみたいに、乱太郎と伏木蔵はにこにこ笑い合った。
     縁側には雑渡と伊作の笑い声が響いて、その場を離れてもなかなか途切れることはなかった。
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    Replies from the creator

    そらお

    MAIKING雑伊の人が書いてる。設定ねつ造、勝手に忍術学園の依頼受けちゃう伊作くんがいます。
    その他諸々、かって設定してます。雑渡さんがモブと結婚させられそうなピンチ 
    お心の広い方向け


    ここからラブコメになるはず なるだろ? なってくれるよな???
    ラブコメというか、両思いになって欲しいと思います。



    「ねえ、伊作くん」

     保健委員会委員長、善法寺伊作がひとりきりで医務室にこもって薬を煎じていると、真夜中すぎに不意の客人が訪れることがあった。
    「はい、雑渡さん。今日はどちらからおいででしょう」
     勝手知ったる相手なので伊作も起ち上がったりはしない。作業を続けながら返事だけを返す。
     相手の声は聞こえるけれど姿は見えない。気配だけが少し感じられる程度だ。
    「ねえ、伊作くん」
     答えの代わりに、天上の板が少しだけぐらついたのが目の端に見える。はっと顔を上げると、そこにはもう闇で染め抜いたような大きな姿があった。音もなく床に降り立ち、そのまま伊作のすぐそばへと寄ってくる。
    「――はい」
     ほんの少しだけ、返事をためらった。見た目も気配もいままでやってきていた雑渡昆奈門とまったくおなじだけれど、わずかに伊作を慎重にさせるなにかを感じたのだ。
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    そらお

    DONE #雑伊版深夜のワンドロライ
    お題「ハロウィン」
    オチが行方不明。かっこいい雑渡さんはいません。
    猫耳しっぽの伊作くんがいます。名前のないモブ忍が出ます。
    ワンライ、遅刻はするわ時間超過はするわでなにひとつ成長できていないのですが、とりあえずお題を頂いて頑張って書こう!というモチベーションになっています。
    いつもありがとうございます。チャレンジできてうれしかったです。
    「ハロウィン」そらお@masakanootiran「なんでこうなっちゃったんだよ~」

     伊作は頭を抱えて部屋の隅にうずくまっている。
    「なんでって、君が突然こんなところまでやってくるからだよ」
    「雑渡さん~」
    「辛いならやめてもいいけど、任務どうするんだい」
    「だって――まさか、こんなことするなんて思わなかったんですよ~」
    「大丈夫。よく似合ってるよ」
    「なんの慰めにもなってません!」
    「言っておくけど、今回わたしはなにもしていないからね」
    「分かってます~~!」
     うずくまったまま嘆く伊作を横目に、雑渡は雑炊の入った竹筒を軽く振って、ここに伊作を連れくるまでを思い返した。

     
     忍術学園の六年である善法寺伊作がうずくまっているこの場所は、タソガレドキ領内の一角にあるタソガレドキ忍軍の拠点のひとつである。
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    MAIKINGようやく伊くん編 冒頭のみです。
    いずれ雑伊になる話 その3四 善法寺伊作と私
     その少年が、かの大川平次渦正が創設した忍術学園の生徒であると知った時、雑渡の中に生まれたのは奇妙な落胆であった。以前から忍術学園の存在とその評判自体は耳にしており、その在り方に疑問を抱いていたからだ。城付き忍者の息子として生まれ育った雑渡からすると、忍術とは秘匿の術であり、決してもののように金品で購うものではない。それを学校という、ある種おおやけのものとして門戸を開くというのがどうにも理解ができなかった。忍術を――人を欺き命を奪うためのすべを、なかよしこよしの道具にするなどと、正直に言って舐めているとしか思えない。
     理解できないといえば、いくさ場で出会ったあの少年であった。部下によれば名を善法寺伊作というらしい。忍術学園の生徒がいくさ場にいること自体は、授業の一環であろうと察することができる。だが、そこでの彼の行動はまったくもって不可解であった。本当に偶然のこととして、雑渡は善法寺がいくさ場に入る様子を見ていたが、彼はまずざっと状況を観察してひとまずの安全地帯を確保すると、そこにひとりのけが人を引っ張り込んだ。何をやっているのかという疑問は浮かんできたが、その行動が戦況に影響を与えるわけでもなし、雑渡はとりあえず彼を放っておくことにしたのだ。別段、こどもがいくさ場に入ってくること自体はさほど珍しくもない。おおかた見物か、どさくさに紛れて物取りでもするのだろうと思って、雑渡は一度忍軍への指示のためにその場を離れた。
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