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    電話バレ。
    電話から少し後の明星。初期アンカーの願いを叶えに行ったその帰りです。
    宇津木シロウ青年をちょっとお借りしました。

    咲かせや咲かせある金曜日、城戸明星は久々に生まれた街にやってきていた。
    直接訪れるのは何年ぶりだろうか。
    さすがにいくらか知らない建物が増えたりしてたが、以前とあまり雰囲気は変わっていなかった。
    別に里帰りのためにやってきたわけではないが、ついマジマジと観察してしまう。
    「ねぇ、明星さん。あのサンマー麺ってなんですか!?秋刀魚が乗ってるんですか!?」
    隣を歩く白石サクラが道ばたの中華料理屋を指差して声を上げる。
    先日の事件の関係者で、今は亡き師匠の愛娘。そして、現在は弟子でもある。
    明星自身は弟子を持つ気などなかったのだが、相談した恩師のエリオットが助けてくれないどころか『君も人に教える大変さを学ぶいい機会じゃないかな』とサクラに援護射撃を飛ばしたため、結局押し切られる形になった。
    普段頼りになる援護射撃が自身に向けられるとは思わなかった。
    今日も一人で行くというのに『弟子なので!』と言い張り、勝手に着いてきた次第だ。
    「簡単に言うと、あんかけが掛かってる肉野菜ラーメンですね。醤油ベースが基本ですが、他の味もあるそうで」
    だんまりを決め込んでも良かったが、いつまでも騒いでいそうなので仕方がなく解説する。
    「へぇ、なんでそんな名前なんです?」
    「サンマーは生に馬と書きます。広東語で生が『新鮮』とか『シャキシャキした食感』、馬は『上に載せる』という意味です」
    「なるほど、広東料理なんですね!」
    「いえ、発祥は横浜の中華料理屋のまかないです。だからこの辺のご当地ラーメン扱いなんですよ」
    「あれー?」
    「ほら、謎は解けたんですから行きましょう」
    「せっかくだから食べていきましょうよー」
    「この店は駄目です」
    「えっ、美味しくないんですか?」
    「店主が顔馴染みなんです」
    「あー……」
    明星は魔法使いになった当時から姿が変わっていない。
    もう三十年近く前の話だから、さすがに店主も覚えていないかもしれないが、念のため顔を合わせないようにしている。
    「よく来てたんですね」
    「まあ、なにせすぐそこがうちの道場ですから」
    そう言って、明星は向かい側の建物を指差先にあるのは、周囲の建物よりいくらか大きい古めかしい木造の建物だ。
    引き戸の上には「清心館」と太字で書かれた看板が下がっている。
    「はえ~、ご実家の目の前だったんですね」
    「道場に住んでいたわけではないので実家は別ですが……まあ、似たようなものです。どちらにせよ近くなので」
    道場も変わっていなかった。明星が魔法使いになった段階で既に結構な築年数だったと記憶しているが、堂々とした風格は依然健在だ。
    「そういうわけで、あまり長居は出来ないんです。だからそろそろ……」
    明星がサクラを促そうとしたとき、道場の引き戸がガラガラと音を立てて開いた。
    一瞬、身を固くする。
    今道場は明星の兄が継いでいるはずだ、見られたらマズい。
    だが、その心配は杞憂だとすぐ分かった。
    出てきたのは長身の若い男性と中学生ぐらいの少女だった。兄ではない。
    男性は竹刀袋、少女はそれよりもだいぶ長い、恐らくなぎなただろう。
    「今日は惜しかったですね~」
    「惜しかったと言うには押されっぱなしだったと思うが……」
    「いえ、伯父相手にあそこまで粘った人はシロウさんが初めてです!次は白星です!」
    ぎゃーぎゃーと主張する少女に苦笑しながらシロウ、と呼ばれた男性は少女の頭にポンと手を置く。
    「そう簡単じゃないのは、櫻子だって分かってるだろう?」
    櫻子と呼ばれた少女は曖昧に頷くが、納得していないという顔だった。
    「そうですけど、それぐらいの気持ちで挑もうってことですよ」
    「わかったよ、努力する。ほら、そろそろ行こう。お茶するんだろう?」
    「はっ、そうでした!早くしないとケーキがなくなります!」
    「夕飯のことも考えて頼もうな」
    「甘い物は別腹です!」
    「それは食事をした後に言う台詞じゃないのか……?」
    二人はそんな話をしながら、賑やかに道場を後にして駅の方へと歩いて行く。
    明星はなんとなく、二人の姿が見えなくなるまで見送る。
    「櫻子、ですか」
    「あの子、明星さんにどことなく似てましたけど」
    「……どうやら魔法使いにならなくても、私は騒がしい桜から逃れられない運命だったようですね」
    「明星さん?」
    「ああ、すみません。私たちもそろそろ帰りましょうか」
    「はーい。あ、エリオット先生にお土産買っていきましょう!シュウマイとか」
    「自分が食べたいだけでしょう……?好きかどうか分かりませんし、横濱ハーバー辺りが無難でしょう」
    「あっ、私も食べたことないです!」
    「はいはい、うちの分も買いますから」
    「やった!」
    「こら、騒がない!」
    はしゃぐサクラを落ち着かせつつ、ちらりと道場を振り返る。
    まだ多くの門下生が残っているようで、中からは気合いのかけ声や竹刀がぶつかる音がひっきりなしに聞こえてくる。
    どうやら、次の世代も順調に育っているらしい。
    「さて、不肖の身ながらも私も次の花を咲かせるため頑張りますかね」
    明星は向き直ると、既に先立って歩き出していたサクラに追いつくため小走りで駆け出した。
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