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    はるのぶ

    なにかをかきます

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    はるのぶ

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    羽風薫さん誕生日おめでとうございます。
    付き合ってる薫(アイドル)×晃牙(一般人)です。

    #薫晃

    ずっとここで待ってる「おそいなぁ」
     誰かに届くはずもない言葉をそうして空に呟くと、手に持っていた携帯の液晶を触る。何度もメッセージアプリを開いても彼からの返事は来ていなくて、もう1時間以上そこにある豪華な料理たちは誰の口にも入らないまま冷たくなっていた。
    『ごめん、今日帰れないかも』
     最後に彼から受け取ったそのメッセージを何度も眺める。いいよ、と返事をしたもののそれから彼の既読はついていない。仕事が忙しいのだろう。けれどこうして彼と繋がれるアプリがあることを嬉しく思いながら、このアプリがあることが恨めしい。こうして彼が俺のメッセージさえ見ていないことを実感しなければならないのだ。それは俺を苦しめるための一つになりえた。
     諦めて仕舞えばいい。テーブルの上にあるものを全て冷蔵庫へ入れて布団の中で眠り、朝になったら申し訳なさそうにした彼の顔を見ながら頭を撫でる。レンジで温めたものをもう一度テーブルに出してそうして食べればいい。普段ならきっとそうしているだろう。
     だけど今日はどうしてもそんな気にはなれなかった。
     こんなことなら、事務所の飲み会断らなきゃよかった。
     生配信をしてしっかり今日の俺をファンに見せた後、そのまま飲み会をすると言ってたのを断り、今日はなんとか早上がりをすると言っていた恋人が待つ家に帰宅したのと思ったのに。タクシーへ乗った瞬間に『仕事が入ったから。ごめん、会社に行ってくる。飯あるから先食べて』なんて一番みたくないメッセージだった。
     どんなときでもご飯は美味しい。彼が作ったものだし、その腕を十分に信頼している。けれど今日は、今日だけは1人で食べたくはないのだ。

     まだ実家にいた頃、誰も俺の誕生日なんて祝ってくれなかった。朝起きて、誰に会ってもたくさんのプレゼントと言葉を贈ってくれた。綺麗に包装紙を包まれたそれらを受け取った時、確かに嬉しく感じた時もあった。けれど、言葉では「おめでとう」なんて何度も聞いたけど、それを心から祝っている人なんて1人もいなかった。そう気づいてから花束を貰ってもシェフが作ったコース料理を食べても高級な靴のプレゼントを貰っても、決して俺の心が満たされることはなかった。

    「晃牙くん」
     明日は朝早く撮影がある。今日生配信のために仕事をあまり詰めなかったせいでその皺寄せがあるのだ。コンディションのために長く起きているわけにもいかない。本当は彼を待っていたいけど。
     この生活を壊したくない。彼にとって自分が負担になりたくない。彼がいて、そばで笑っていてくれるだけで十分だと、俺が彼に触れられる距離を許されていることが、それだけで息ができないほど幸せであると。だから正直な話、この行為に意味はないのだ。彼を待っていたところで俺が寝ていなかったことに罪悪感を抱くだろうし、それでもやっぱり彼は一緒にご飯を食べてくれるから。きっと、どこかで彼に許されたいと願っている俺のことを見抜いてしまって、そうしてこの料理たちを食べながら泣いてしまう俺をみて彼は笑うだろうから。
     だから、俺は今日も彼のことをここで待ってる。
    「晃牙くん」
     カチャリ、と控えめな鍵の回る音をきいてやっぱりメッセージアプリがどれだけ信用できないかを思い知ったし、もう秋が近づいた夜道を歩いた少し頬の赤い彼に早く触れたくて、抱きしめてしまいたくて玄関へ走ってしまったのだった。
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