特務支援課のリーダー、ロイド・バニングスには悩みがある。
近頃ようやく仲間との距離は縮まってきたと思うのだが、その仲間の食事について少し悩んでいるのだ。
ロイド自身とエリィは全く問題はない。休みの日でも規則正しい生活をし、食事もきちんと取っている。
課長とランディは少しばかり難がある(課長はたまに朝を食べずに出ていくし、ランディは休みの日は起きるのが遅くて朝昼一緒になる事が多い)が、まあまだ良い。
問題はティオで、業務のある日はほぼ一緒に行動するため、少食気味ではあるものの3食ちゃんと食べている。だが、休みの日ともなれば、何かに熱中する余り1食や酷い時には2食抜いたり、あるいは栄養補助食品で済ませてしまうのだ。
注意した事もあるのだが、水分と塩分さえ取っていればそう簡単に死にはしないからほっといてください、という愛想もなにもない返事が返ってきて、ガックリと項垂れるしかなかった。
エリィも気にかけてはいるのだが、休みの日はずっと支援課ビルにいる訳でもない。なので2人してどうしたものかと悩んでいるのだ。
そんなある日、試してみたいことがあるの、とエリィが言い出し、ロイドは首を傾げた。
「試してみたいこと?」
「次の休みの時に、少し手伝ってもらえない?」
「それは構わないけど、一体何をする気なんだ?エリィ」
「それは内緒。…よろしくね、ロイド」
「あ、ああ…」
何だか少し浮かれた様子のエリィにますます疑問が膨らむが、問い詰めてもきっと言わないだろう。
仲間の性格はおおよそ把握したため、そう結論付けたロイドは、当日になれば分かることだし、と考えるのをやめ、本日の業務へと意識を切り替えたのだった。
そしてやってきた次の休日。
肝心のティオだが、朝は食べに下りて来たものの、やはりまた何かに熱中してしまっているのか昼を過ぎても自室から出てくる様子がない。
そこでエリィは考えを実行に移す事にしたようで、ロイドに揚げ物を手伝って欲しいと頼んできた。
「揚げ物?まあ良いけど、何を作るんだ?」
「一口サイズのコロッケよ。それを櫛にさせば食べやすいかなと思って。揚げるのにも時間がかからないし」
「なるほどな。それは名案かもしれない」
「少しバリエーションもつけようかなって思ってるの。ただ、私、その…」
「ああ、揚げ物はあまりしたことがないのか?…大丈夫、慣れればどうってことないよ。せっかくだし、エリィも一緒にやってみないか?」
「ええ。コツを教えてもらえると助かるわ」
「了解だ。それじゃ、まずは中身から作ろうか」
タネはシンプルに、だがその中に小さく切ったソーセージやチーズを入れたり、コーンを混ぜたりして、バリエーションをつける。
そしてそれをどんどん揚げていけば、やがて辺り一面に美味しそうな匂いが漂う。
その匂いにつられたのだろう。自室から出てきたランディに幾つかつまみ食いをされるが、多めに作ったためまあ良いか、とロイドはため息をつき、バットで油を切ったコロッケを櫛に差して皿に盛る。
それを抱えてふたりしてティオの部屋へと行くと、少しこちらを見たもののまたすぐ端末へと視線を落とされて。
礼儀には厳しいエリィがにこやかに切れた。
「…ティオちゃん?人が来た時くらい、ちゃんとこっちを見ましょう?」
「私には別に用はなむぐぅっ!?」
「貴女になくても相手にはあるかもしれないでしょう?」
そしてティオの口にコロッケを突っ込むというらしくない暴挙に出たため、皿を抱えていたロイドは慌てるが、エリィは聞く耳を持たない。
「エ、エリィ!?落ち着いて…」
「あら、ロイド。私は落ち着いているわよ?…ねえ、ティオちゃん。私たち、心配なの。確かに少しくらい食事を抜いたからって、死にはしないかもしれない。でも体には良くないわ。特に貴女は成長期なのだから」
「むぐ」
「…ティオ、とりあえず口の中の物は飲み込んでから喋ろうな。ほら、エリィ。あんまり詰め寄っちゃティオも話しづらいだろう?」
「え?…あ、そ、そうね。………ごめんなさい、私としたことが」
「ごくん。……全くです。おふたりはお節介ですね」
「あ、はは…。でも、やっぱり共同生活をしている仲間のことは気になるよ。だからさ、なるべくご飯は食べてくれると嬉しいな」
「………分かりました。また口に突っ込まれてはかないませんからね」
「そうか」
この場は収まったか、とロイドはほっと一息つき、皿のコロッケを差し出す。
「これ、エリィと一緒に作ったんだ。良かったら食べてくれ」
「これは、何ですか?味はコロッケみたいでしたが」
「コロッケよ。一口サイズにして、中身も少し工夫してみたのだけど、どうかしら?」
「…悪く、ありません」
「それは良かった。…ってエリィ?」
「ほら、ティオちゃん。あーん」
「じ、自分で食べられます!」
「そう?残念ね」
「エリィ…。それじゃ、俺たちは下に下りるけど、夕食の時には呼びに来るから」
「……了解です。食べに行きます」
二人の熱意に負けたのか、はたまたもう口に突っ込まれるのはゴメンだと思ったのか。
ティオの了承を引き出せたことに満足した二人は足取りも軽く出ていき、部屋に残されたティオははあ、とため息をつくと皿のコロッケをつまんでパクリと口に入れ、おいしい、と小声で呟いたのだった。
それからしばらくして、警察犬としてツァイト、そして謎の少女、キーアと住人が増え、賑やかになった頃。
休みの日でも比較的食事を取るようになったティオだが、やはりたまに熱中していて他のことが目に入らない時もある。
そんな時には、ロイドが食べやすい物を作り、それをキーアがティオの口に突っ込む、という光景が見られるのだった。
「ティオ。はい、あーん」
「う。またですか…」
「ねえ、あーん」
「………あーん」
「可愛いわ、ふたりともっ!」
「そのカメラ、どこから出てきたんだ?エリィ」
「まあそこは突っ込まなくても良いだろ。…しかし、さすがのティオすけもキー坊にゃ勝てねえのな」
「あはは。でも、ちゃんと食べてくれるようになって良かった」
「最初の頃、随分悩んでたもんな、お嬢とふたりして」
「何だ、知ってたのか。…本当はランディにも言いたいことはあるんだけど」
「うげっ!?…勘弁してくれ、ロイド」
「ふふ。今は気分が良いから言わないでおくよ」
「ソイツはどうも。…はあ、お前の世話焼きも大概だな」
「そうか?うーん、やっぱり余計なお世話かな」
「それは状況にもよるんじゃねえの?…俺は嫌いじゃねえぜ?お前にあれこれ言われんの」
「そうか。なら、今後も遠慮はしないぞ?」
「ああ(それが嬉しいんだ、なんてさすがに言えねえな)」