支援課でねこの日の話 2022この日、キーアは朝からずいぶんご機嫌で。
一体どうしたのかと尋ねても内緒と言われたため、ロイドたちはいつも通り別れて支援要請をこなし、その後全員が揃ったのは夕方の事だった。
食事当番が夕食の支度をしている間、ミーティングルームではそれぞれ今日の要請についての報告を兼ねた雑談になり、今日はノエルとワジもいたためいつもに輪をかけて話に花が咲く。するとそこへ、キーアが何やら大きな箱を抱えて下りて来た。
「キーア? それは一体何なんだ?」
「いいものだよ、ロイド! ではここで問題です、今日はなんの日でしょうかっ!」
「え?」
突然の質問にその場にいたメンバーは顔を見合わせる。
今日は誰かの誕生日でもなければ何かの記念日でもない、はずだ。
そのためしばし考え込んだ面々だったが、何も思いつかず降参すれば、にこにこと満面の笑みを浮かべたキーアは、箱の中から何やらごそごそと取り出しながらこう言った。
「今日はね、ねこの日だよっ!」
「は?」
「キーアちゃん?」
「なるほど。222でにゃあにゃあにゃあ、という事ですね」
「あ、ああ、そういう事ですか」
「いやそれより問題なのは、キー坊が持ってるアレだろ。正直嫌な予感しかしねえ」
「まあなんとなく予想はつくよね、この話の流れからすると」
ワジだけは楽しそうだが、他の面々、特にロイドやランディは顔をひきつらせる。中でもロイドは以前自身に猫の耳と尻尾が生えて一騒動起きた時の事を思い出してしまい、また猫耳なのか? とぼそりと呟いた。
どうか予想が外れていて欲しい。そう願うロイドやランディだったが、その祈りは女神には届かない。
「ねこの日だから、みんなでこれ、つけない? ほら、コッペとお揃いだよ!」
そう言うと、まずは自分からとばかりにスチャッと手に持った物を着けたキーアは、箱の中から取り出した黒いねこみみつきのカチューシャを全員に配り始めた。
「はい、ロイド! エリィ、ティオ、ランディ。それからノエルにワジも!」
「え、ええと。これ、着けなきゃダメか?」
「キーアちゃんやティオちゃんはともかく、20歳を過ぎてコレはちょっとキツいわね……」
「私は自前の物があるので大丈夫です、キーア」
「あ、ずりぃぞ、ティオすけ!」
「わ、私も着けるんですか?」
「いいじゃないか、みんなお揃いって事で」
「なんでそんなに楽しそうなんだ、ワジ……」
一部を除いてげんなりとした顔になる一同だったが、キーアの笑顔に逆らえるはずもなく。渋々とねこみみを着ければ、みんなで記念撮影しようよ! とキーアが言い出したため、それだけは勘弁してくれ、と情けない顔でロイドが言い、なんとか阻止したものの。結局その後2時間ほど、それを着けたまま過ごす事になったのだった。
「……これは一体、どういう状況なんだ?」
「あ、かちょーだ、おかえりなさい!」
「あ、ああ、ただいま。……おいロイド。状況説明」
「は、はい。その。今日は猫の日だそうで、キーアがコッペとお揃いにしたいと、コレを準備してまして」
「で、押しきられてお前らみんなソレを着けたと。……その場にいなくて良かったぜ」
「それは、どうでしょうね……」
「ん?」
「ねえねえかちょー! かちょーもこれ、着けよう? そしたらみんなでお揃いだよっ」
「いやおい、キーア。……って、よく見りゃツァイトまで着けてる、のか? チッ。……ほら、それ寄越せ」
「あ、課長も負けたな」
「キーアちゃんに勝てる人なんて、ここにはいないわ」
「だな。ティオすけだけちゃっかり逃げたが」
「いいじゃないですか。これも黒いですし、お揃いですよ」
「当のコッペはどこかに行ったけどね」
「もう、そんな事言わないの、ワジ君!」
「えへへ、今日もみんな仲良しだね!」