事の起こりは用事があるとかでクロスベルを訪れ、支援課に顔を出したリィンの、自分の生徒たちを自慢するような一言だった。
それを聞いたロイドたちが、キーアだって、と負けじとあれこれ言い始めた結果、両者ともヒートアップしていき、収拾がつかなくなってしまったのだ。
「ユウナはいつでも元気いっぱいで可愛いし、アルティナは時々はにかむ様があの小柄な体躯と相まってとても可愛い。それにミュゼは頭が良くて小悪魔的だけど実は意外に純情な所もあって可愛い!」
「キーアだって、健気で料理も出来て端末の扱いだってお手のものでナビゲートも出来て凄いし可愛いぞ!」
「くっ。なら、クルトは真面目でストイックに剣術に打ち込んでいて、強いし頭も良いのに決して驕らなくて格好いい!」
「んならロイドだって、実力は充分あるし頭の回転も早いし、それぞれの個性を引き出しながら上手いこと纏めてるが、それでも自分はまだまだだって研鑽を積んでてすげえぞ?」
「え。ちょっと、ランディっ!?」
「ロイドを引き合いに出すのはズルいですよっ!?ランディさんっ!」
「うっせー。そっちは5人いるのにこっちは1人なんだから、良いじゃねえか!んで?後1人残ってるだろうが。言えよ、リィンっ」
「ぐ。アッシュは、悪ぶってるけど案外優しくて面倒見がよくて、生徒会長だって立派に務めている。実力はいわずもがな、これでどうだっ!」
「なら、ランディだって」
「おいこら、ロイドっ!」
「俺を引き合いに出したんだからいいだろう?…ランディだって、一見チャラそうだけど面倒見がよくて案外真面目で、とても強くて格好いい!」
ロイド(+ランディ)とリィンはお互い一歩も譲らず、ゼーハーと肩で息をしながら言い合い、その様子を時に援護射撃を出しながらはらはらと、あるいは面白がりつつ他のメンバーが見守って(なお、渦中の人物の一人であるキーアはシズクと遊ぶからと留守だった)いれば、そこへ一人の来客が現れた。
「あら?今日はずいぶん賑やかね。一体どうしたの?」
この日は休みで実家に帰って来ていたセシルが、可愛い弟の顔を見たいとやって来たのだ。
そこで周りのメンバーが説明をすると、セシルは仕方のない子たちね、とため息をつき、ロイドとリィンの間に割って入ると、こう言いはなった。
「ふたりとも、喧嘩はだめよ?……めっ!」
その、まるでおいたをした幼い子供に言い聞かせるような口調に、一気に脱力して我に返ったロイドとリィンは、罰の悪い思いで互いに顔を見合わせると、すまなかったと謝罪しあい、その様子をにこにこと見守るセシルに周りの面々は、彼女はやはりただ者ではない、と思うのだった。
「めっ、てセシル姉、子供じゃないんだから……」
「あら。幾つになっても貴方は可愛い弟だもの、いいじゃない」
「セシル姉……(ガックリ)」
「…諦めろ、ロイド。多分何を言っても無駄だろうから」
「ふう、そうだな。……ん?けど、君もさっき俺と同じ扱いをされてたような」
「いやまあ俺は一時的というか、今回限りだろ」
「そうか?案外この先も……」
「や、やめてくれ、ロイド。洒落にならないから」
「なあに?どうしたの?えっと、リィン君?」
「いえ、何でもないですっ」
「そう?……貴方確か、ロイドより一つ下だったわよね?ふふ、何だか弟が増えたみたいで、嬉しいわ」
「え」
「……諦めろ、リィン」
「うう。何でこんな事になったんだ……?」