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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    ご+う

    対処 庵が男たちに声をかけられたのは、宿から駅前に出て、夕食はどの店に行こうかなと歩道の隅に立ってスマートフォンをいじっていたときだった。
     男たちの言葉は「どこ行くの?」から始まり、「俺ら、この駅で遊ぶの初めてなんだ」「おすすめ教えてほしいなって」「せっかくだし相席しようよ」などとエスカレートしていった。何が、せっかくだし、だ。庵も「どこでもいいでしょう」「あっそう」「知らない」「しない」とテンポよく打ち返していたのだが、男たちは一向に退く気配がない。向こうがどかないのなら自分がこの場を離れてやればいいのではないかと庵がひらめいた瞬間、声が割り込んできた。
    「随分と早く着いてたんだね。そんなに僕に会いたかった?」
     背後、いや上からと言った方が正しかった。ヒールを履いた庵のさらに頭上から声が落ちてくるだなんて、限られた人間にしか覚えたことのない感覚だ。すぐに見当がつく。
    「僕も会いたかったよ」
     畳みかけられた言葉に、急に何言ってんだアンタは、と嚙みついてやるつもりで勢いよく振り返り、背後に立つ声の主——五条に向き合う。しかし庵に声を上げる隙を与えないとでも言うように、気づけば五条の腕が庵をぐるりと捕らえていた。まるで庵が五条の胸に飛び込んで、ふたり抱きしめ合ったような流れになった。庵の背中へ回された手のひらが、ぽんぽんと宥めるように優しくリズムを刻んでいる。
    「待たせちゃったから、埋め合わせね」
     ぎゅう、と抱きしめてくる力が増した。五条がしゃべるごとに、彼の鎖骨やら喉元やらがじりりと震えるのを庵の頬が感じとる。つむじのあたりには何やら柔らかなものにすりすりとされているような感触を覚えて、いよいよ庵の脳みそはオーバーフローを訴え始めた。
     胸筋って柔らかいんだな……案外体温高いな……違う、何をしているんだこの男。
     庵は五条の体にいましめられた腕をなんとか動かした。目の前の胴体と自らの胴体の間に空間を確保しようと腕を突っ張る。気分はジャッキだ。
    「で、おまえらは何?」
     頭上で響き続けていた五条の声が、庵ではなくその背後に向いたのを感じる。見られているというのか、この恥ずべき状態を。「見せ物じゃないんだけど。しっしっ」と言いながら五条は、庵が腕の筋を痛める勢いで確保した空間を、なかったことにしやがった。誰が庵を見せ物状態にしていると思っているのか。万死。
     口元を肩口に押さえつけられた状態で歯嚙みしていると、ふいに五条の腕が緩んだ。
    「いなくなったよー」
     庵の首に腕を絡めて、五条が覗き込んでくる。
    「何してくれちゃってんの」
    「うそも方便、てね。あの程度ちゃっちゃとあしらえないでどうするの。雑魚も雑魚でしょ」
     庵の手際に苛立ってか、五条の声には少し棘がある。庵があの連中の対応に手こずりかけていたのは事実だ。返す言葉もない。
     無理やり連れて行こうとするとか、体にいやらしく触れてくるとか、動きがあればそれ相応の対処をする心づもりはあった。呪霊を相手にするのに比べたら、成人男性といえども一般人ならば制圧する程度は朝飯前だ。しかし悪目立ちはするので、できる限り避けたい。結果として庵は、口先ばかりでちょっかいを出してくる輩に対しては効果的な対処法を持っていない状態だった。
    「歌姫っていちいち丁寧に反応するから、ちゃんと相手してくれてるなー押したら行けるかもなーって、ああいうやつらが調子に乗るんだろ」
    「悪かったわね!」
     悔しさに庵の顔がゆがむ。悪目立ちしたくないなんて考えずに、迅速に動くべきだったのだ。己の不甲斐なさが情けなくて、五条の視線から逃げるように下を向いた。
    「……マジで悪いのは勘違い野郎どもの方だけどさ」
     言いながら、五条が腕を下ろした。庵の首元が軽くなる。
    「ま、今回はたまたま僕が居合わせてよかったねってことで」
     僕カルビ食べたいんだー付き合ってよ、と五条がスマートフォンをかざして見せてくる。画面には地図アプリ。現在地からさほど離れていない場所にピンが立ち、焼肉屋の名前が添えられていた。
    「……タン塩食べたいから付き合ってやるわよ」

    (2110310809)
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