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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    ご+う

    逃げられない「悟くんはパスタを食べに行きます」
     五条がそう言って両手のひらを合わせれば、パチンといい音がした。庵は眉をひそめて問う。
    「それと今アンタが私の目の前にいるのと、何の関係があるの」
    「悟くんは歌姫ちゃんと、パスタを食べに行きます」
    「キャンセル!」
     残念なことに、キャンセルは不可だった。今時クーリングオフもできないだなんて、相当な悪徳ぶりである。
     二の腕をがっとつかまれた庵は、更衣室の前にいたのが気づけば高専敷地をさくさくと歩かされていた。さらに高専を出て坂道を下り、大通りにたどりついたところで、五条はタクシーを拾った。自動でリアドアが開いたそれに、五条が乗り込む。腕はつかまれたままだったので、庵も当然、後部座席に引きずり込まれた。
     何するんだと庵が抗議する間も与えず、五条が行き先を運転手に告げている。その間にドアは無情にも彼女の左でバタンと閉まった。ハッとしてドアに取り付いても、ドアハンドルにはカバーがかけられている。開閉はおろかロック解除もできない。しまった、と庵の背筋が冷えた。左は開かずのドア、右には五条。——軟禁状態だ。
    「歌姫、ベルト」
     頭を抱えているところに何やら言われた。運転手がお願いしますと言葉を重ねたのを聞きながら、庵は恨みを込めた視線を五条に向けた。誘拐犯が「僕が掛けてやろうか」と、自分は装着済みのシートベルトに指をかけて笑んでいる。
     不本意に連行されている今、出発のための支度を手ずから整えるのは業腹だったが、法律を遵守しているだけの運転手に迷惑はかけられない。五条を睨み据えながら、ぐいとストラップを引き出し、怒りをのせてプレートをバックルに差し込んだ。
     乗客乗員すべてのシートベルト装着をもって、タクシーはついに発進してしまった。
    「……パスタって?」車窓を見ながら、説明を要求する、と庵が水を向けた。
    「ミートソースがおいしいんだってさ。嚙むごとに肉の味がじゅんわりしみてくるって評判の店」
    「その心は」
    「服にミートソース飛ばさないように気をつけて食べたのに結局ちょっと汚しちゃって悔しさとおいしかった満足感の狭間でぐぬぬってする歌姫が見たい」
    「正直でよろしい。でもそれ聞いたら、なおさら行きたくねえ……」
     右側から、アハハ、とぺらっぺらにわざとらしい笑い声が届く。庵は窓を見続ける。
    「汚さない自信はないんだ?」
    「基本的には汚さないわよ。でも万が一があるから、アンタとは行きたくない」
    「替えの服くらい買ってあげるから心配いらないのに」
    「そこじゃねえよ。からかってくる材料を、アンタにこれ以上与えたくないの。あと、服はいらない」
     運転手に配慮して、怒鳴りそうになるのをなんとか抑え込む。力のこもった声は少し震えた。
     車窓に何かがちらついていることに気づく。ヒラヒラと手を振っているそれをさらに辿れば、そこにあるのは視界からオミットしたはずの五条の笑み。この男からは逃げきれないのだと、庵は妙に実感してしまった。

    (2111040140)
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