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    はまおぎ

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    はまおぎ

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    五と歌+モブ
    ※モブ視点
    ※五歌の幼少期その他諸々をふわふわ捏造しています

    正体「さとるくんには会えた?」
     私に尋ねたのは黒い髪を二つ結びにしたお姉ちゃん——うたねえだった。
     小学校からの下校グループが一緒で、私のことをかわいがってくれた三つ歳上の女の子。ひとりっ子の私は彼女のことが大好きだった。
     いろんなことを気さくに教えてくれたし、知らないことも一緒に考えてくれた。気が強くて悪いことは悪いと怒るけど、頑張ったりいいことをすれば目いっぱい褒めてくれた。歌が誰よりも上手で、彼女の歌を聞いていると嫌なことやつらい気持ちがスッキリするような気がした。
     手をつないで学校から帰りながら、その日あったことをお姉ちゃんに話すのが毎日楽しみだった。
     その彼女が言うさとるくんは、私のクラスの子の名前だ。入学式も含めて一度も学校に来たことがないから、誰も顔を知らない。クラスの集合写真にもいなかった。
     いないのが普通な彼のことを、お姉ちゃんは何日かおきに話題にした。
    『さとるくんは来た?』
    『先生、さとるくんのこと何か言ってた?』
     聞かれるたび、いつも私は首を横に振った。振りながら、全然知らないさとるくんのことを気にかけるお姉ちゃんは、やっぱり優しいなあと思っていた。
    「うたねえ、優しいね」
    「優しいとか、別にそんなんじゃないわよ」
     このやりとりもいつものことだった。
    「さとるくんは学校来なかったけど、神様はいたよ!」
    「神様って」
     歩きながら飛びついた私を、お姉ちゃんはびっくりした顔で受け止めてくれた。
    「渡り廊下にね、まぶしい男の子がいたんだ」
    「まぶしい?」
    「髪が白くって、きらきらして、目がビー玉みたいできらきらで、だからまぶしかった」
    「そんなにまぶしかったの」
    「あのね、神社のキツネさんって白いんでしょ」
     それを教えてくれたのもやっぱりこのお姉ちゃんだ。学校の近く、通学路の途中に神社がある。どうして石のキツネがいるのかと指さして聞いた私に、お姉ちゃんは言った。
    『あれは、ただのキツネじゃないんだよ。神様のお手伝いをしている白いキツネさんなの』
     白いキツネを見たことはない。それでも想像はできた。雪うさぎみたいな白。シロクマみたいな白。白鳥みたいな白。お姉ちゃんの話を聞いて私が頭の中に思い描いた白い毛並みのキツネは、とてもきれいな生き物だった。
    「最初、あの子は白いから、キツネさんが変身したのかなって思ったんだけど、でも、もしかしたら神様の方かもって思ったの。神様っておじいちゃんじゃなくても髪が白いんじゃないかな」
     きれいな生き物がお手伝いをしている神様なんて、きっととんでもなくきれいだろう。毛並みのいい白キツネを従える神様。真っ白い髪で、汚れのない服を着て、ちょっと気難しい顔をしたおじいちゃんの姿でずっと想像していた。
     休み時間にちらと見かけた男の子の姿には、おひさまの光がきらきらと透ける髪からまず白キツネを連想した。けれど、そこからさらに神様という存在を思いついてしまったらもう、間違いないと思ってしまったのだ。
     神様ってのは歳なんか関係なくずっと、特別な見た目をしてるんじゃないかな、と。
    「おひさまと男の子がまぶしかったから、ちょっと目ぱちぱちってしたら、いなくなってた。きっと神様の術なんだよ。どろん!」
    「それ忍者じゃん」
     お姉ちゃんは笑いながらツッコんだ。そして笑いが収まってから、言った。
    「その子、目は青いんじゃない?」
    「青かった! もしかして、うたねえも神様知ってる?」
    「神様は知らない」
     お姉ちゃんは返事にふくれた私の頭をなでた。
    「話しかければよかったのに」
    「えっ無理! だって神様だよ、何話せばいいのか分かんないもん」
     んー、としばらく何かを思い返すような時間をとってから、お姉ちゃんは答えた。
    「今日食べた給食のこととか、休み時間にドッジボールしたこととか、リコーダー吹けるようになったこととか、五十メートル走のタイムが縮んだこととか」
    「そんなんでいいの?」
     隣を歩くお姉ちゃんを見上げて首を傾げた。お姉ちゃんと目は合わない。彼女はまっすぐ前を見ていた。
    「うん。そんなんでいいの」
    「ほんと? くだらん!って呪われたりしない?」
    「なあに、その喋り方」
    「だって神様って、じゃ!とか言いそう」
    「アイツはそんな喋り方しないし、そもそもこんなことで呪ったりなんて絶対しない」
     お姉ちゃんが首を横に振る勢いは強かった。絶対、と言う声もちょっと大きかった。
    「うたねえ、神様のこと、怖がったから怒ってる? やっぱり神様のことよく知ってる?」
    「知らない。だって分かんないとこばっかりだもの」
     ムカつくわよ、とお姉ちゃんがぼやいた。
    「次は声かけてごらん。マジで普通に悪ガキだから」
    「えー……」
     渋る私を見てお姉ちゃんは、大丈夫だからと呆れたように笑う。
    「アイツはおんなじ人間だよ」

        ◇

     二十年以上前のことを思い出したのは、混乱した人々がごった返す渋谷駅の中で〝ゴジョウサトルを連れてこい〟という声を聞いたからだ。
     聞き覚えのある名前だと思った。記憶をさかのぼり、そして行き着いた小学校時代。一度も教室に現れることのなかった同級生のさとるくんは、確かそんなフルネームだったような。そして同級生たちより教師たちより、誰よりも頻繁に彼のことを気にかけていた面倒見のいいお姉ちゃんのことも思い出す。
     ぼんやりと記憶に沈んだ私の回想は、何度か肩をたたかれて中断した。一緒に夕食を食べようと連れ立っていた友人だ。
    「何、どうしたの」
    「見てアレ。浮いてる」
     友人が指さした先、吹き抜けの上に人影が浮いていた。ロープに吊られている様子はない。そこに見えない足場があるように、空中に、男が一人いる。
     遠巻きに見ても分かる長身は黒ずくめの服を纏って、目元も黒で覆われていた。ただ、髪だけが差し引いたように真っ白い。
     そしてふとした拍子に、彼の姿は吹き抜けを降下していった。
    「——かみさま」
     ついさっきまで浸っていた記憶のせいだろうか。非現実的な発想が口を突いて出た。
    「何だったのアレ……。もしかして、ゴジョウサトル?」
     友人の言葉に、私は唐突に二十年越しの答えにたどり着く。
     白い神様の子。一度も会ったことのないさとるくん。神様を知っているお姉ちゃん。さとるくんを気にかけているらしいお姉ちゃん。
     あの神様が、さとるくんだ。
     そしてもしかしたら、あの人外ムーブをかましたゴジョウサトルもさとるくんではないのか。
    『アイツはおんなじ人間だよ』
     あの日、お姉ちゃんは彼のことをそう言い切った。
     彼女が今どこで何をしているのか、私は全く知らない。義務教育を終えたあと、どの高校に進学したのかすら耳にしたことがなかった。
     誰もが聴き惚れる歌声と、心をほぐす笑顔と、うたねえ——いおりうたひめという名前の記憶だけがある。
     うたねえと、さとるくん。二人は何者だったんだ?
     疑問がうっすらと脳裏に浮かぶ。けれど次の瞬間、どこかから聞こえた悲鳴の波に疑問なんて押し流されて、それどころではなくなった。

    (23.02.08 21:14)
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