砂原からの帰還「こりゃあどういう事だ。」
「コイツがクエストで依頼されたティガレックスでいいのか?」
「やっこさん、手練れが集まって仕留めたとしてもこんなキレイに倒せるもんかね?」
「どこのハンターでもこんな倒し方はしないわ。剥ぎ取りするはちょっと考えましょう。」
多少は涼しい夜のうちに標的を全力で倒して気温が上がり始めるだろう早朝前には退散する予定だったパーティーは、目の前に横たわる頭の無い轟竜をどうしていいものかと困り、血の臭いに誘われた大小のモンスターに鉢合わせするのを避ける為、ひと先ず間近のサブキャンプに向かった。
四人はそれぞれ一人で請け負うには面倒そうな依頼を受ける為に集会所で即席パーティーを組んでからまぁまぁ気が合い、集会所で四人並んで笑顔でうさ団子を頬張る程には仲が良かった。
今回の依頼内容は砂原でのティガレックス一匹の狩猟であったが標的を探していたら先刻の轟竜の異様な死体を発見した為、こうして四人は崩れた遺跡の壁に囲まれたサブキャンプのテントの外で焚火を囲んで出発から一切消費していないアイテムポーチを無駄に点検している。
「ラージャンをうっかり起こしてあのえげつないビームで頭を焼かれたんじゃねぇ?」
「ビーム攻撃を喰らったんなら断面は焦げてるだろうからあんなに血を流してないわ。」
「いくら鋭い爪を持つドデカいモンスターがいたとしても首以外は手つかずってあるもんかね。首と片足の切り口以外に体にやりあったような新しい痕が無い。」
「ハンターが片足をスッパリ切り落として歩けなくして首を刎ねた…んだろうが切り口といい色々とおかしい。」
戦ってすらいない轟竜の死体から剥ぎ取りを行うのも、自分達で倒した事にして依頼主に報告するのも躊躇うほど四人は人が良かった。念のため首無し轟竜の死体の写真を撮りに戻り、半刻だけ他に生きている轟竜がいないか探して、見つからなかったら件の写真を見せて依頼主とギルドに報告しようとの方向に意見がまとまる。
「サブキャンプに来てみたが、そもそもメインキャンプからやっこさんを見つけるまでケストドン一匹見ねえし、やっこさんの死肉を狙って適当なモンスターに出くわすかと身構えてりゃ静かなもんで、真夜中の遠足かってぇの。」
リーダー格の男の胸元に赤い3つの点が浮かび上がる。
「ハハハッ違ぇね…ぇ?」
三角形に並んだ赤い点が左胸にスッと動く。
ライトボウガンの使い手二人が照準を合わせる動きに似ていると無意識に悟る頃には赤い点はリーダーの額に移動していた。
ライトボウガン使いの女が短く謝りながらリーダーを蹴り飛ばした刹那、白く細い閃光がリーダーの座っていた位置の奥、テント横の遺跡の壁を直撃した。砕かれるように貫通した壁の穴に目を向けたら閃光が今度は違う角度から飛んできて焚火をうち消した。急な暗闇に飲まれ見た事のない攻撃への驚きと恐怖を振り払うかのようにテントを背に武器を構える…が、ギャアアッと笛使いの男の悲鳴が聞こえた。
「おい!笛の!」
暗闇に眼が慣れて星空とヒトダマドリや虫の灯りで周りがそれなりに見えるようになったが、目に入ったのはおびただしい血飛沫に染まった遺跡の壁と狩猟笛だけだった。
暗闇に潜む奴らとも音もなく飛んでくる奴らと一味も二味も違う、そしてこいつはどうやら戦いの流れを作り俺達を狙っている。そもそもこれは戦いなのか?手口は違うがきっと首無し轟竜をこしらえた奴に違いない。カカカカカカカという唸り声が聞こえる気がする。そんなに近くにいるのか?三人は目を見開き歯を食いしばり武器を握る手に力を込める。
ふいに景色の一部が小さく波打つようにヒトの形に盛り上がり、赤い光の点を伴って動いた。
「「「いたぞぉぉぉぉ!いたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
絶叫と乱射が始まる。漸裂弾リロード電撃弾リロード貫通水冷弾リロード散弾リロード徹甲榴弾リロード竜撃弾リロード麻痺弾リロード拡散弾リロード種類も属性も考えず持てる弾を砂原にぶち込み続けたが手応えがわからない。三人とも残弾が通常弾しかない事をそれぞれ射撃音で悟った頃、ひゅっと空を斬る音がライトボウガンの女の胸を刺し、勢い衰えぬまま女を遺跡の壁の頭一つ高い所に縫い付けた。ライトボウガンの男はまるで竜の尻尾に横から殴られたように打ち飛ばされ、全身を焼くような打撃の痛みと折れた骨が身を刺す痛みに意識を沈めた。リーダーは虚空へ向けて再度ヘヴィボウガンを構えたがその虚空に首を掴まれた。
ヘヴィボウガンが地面に落ちた音と悲鳴が重なり、引きずる音と肉を引き裂く音がサブキャンプに響くと、静寂と夜明けがカムラの砂原に訪れた。