九尾の日和と人の子ジュン失礼な日和の物言いが聞こえなかったのか、聞こえた上でフル無視しているのかはジュンには分からなかったが「それでは早速、村を案内させていただきます!」という茨の申し出を「きみよりもぼくの方が詳しいね。」というひと言でバッサリ断った日和の間にバチバチと火花が見えたのは気のせいではなかったように思えてならない。「行くよ」とだけ呟き席を立った日和を追って立ち上がると、あれよあれよといううちに村に連れ出されてそこから十五分ほど歩いただろうか。社の近くにあった村は小さなものだったようで田畑や里山を除いて既にその殆どを見終えてしまった。
とは言っても、いつもなら五分と黙っていられない日和がただ静かに歩き、時折足を止めて辺りを見回すものだから、ジュンは日和の様子ばかりが気になり、村の景色など殆ど目に入ってこなかったのだが。
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