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    うすや

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    @usu_6458

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    ひめ巽。百合の花束を貰ってきた巽の話
    多分2人は付き合ってる

    似合わない花 今日の仕事をつつがなく終えた夜、HiMERUは星奏館の廊下を自室へ向けて歩く。全盛期に比べれば小さく、知名度アップには対してならなそうな仕事ではあったが、今は選り好みなど出来ない身分であることはHiMERU自身重々承知していたからユニットとして引き受けることにも苦言を呈すことはしなかったし、現場でも一切不満は漏らさずに求められる仕事をこなした。
    しかし、規模も知名度も今ひとつな仕事相手だったせいか、機材トラブルは頻発するしスタッフも少人数の上ろくな連携も取れていなかったことが災いして終了時間が予定の時間よりも大幅に押してしまった。こちらが求められているものを提示出来ていないせいでストップがかかってしまったのなら非は全面的にこちらにあるけれど、機材やスタッフ側のミスはHiMERUたちにはどうすることも出来ない。
    結局解放されたのは夜もだいぶ更けた時間となり、そこから寮に帰ってきた頃にはとっくに明かりは消え、皆既に寝静まった後だった。
    共に帰ってきたメンバーとは先程別れ、なるべく足音を立てないように長い廊下を歩いている。明日は終日オフとはいえ、本来ならば夕飯時には帰れたものをこんな時間になるまで拘束されるとは思っていなかったHiMERUは、やはりあんな仕事断れば良かったと疲れ果てた頭で後悔した。もう今すぐにでもベッドに横になって寝てしまいたいと少しだけ歩幅を大きくしたその時、向こう側から誰かの足音が聞こえてきた。
    暗がりのせいでよくは見えないが、相手は顔がすっかり隠れてしまうほどの大きな花束を抱えてこちらに歩いてくる。この時間にこんな場所にいるのだから同じく仕事終わりのアイドルに違いないのだが、いかんせん顔が見えないので誰だか分からない。とにかくぶつからないようにと廊下の端の方を歩くと、花束が動き持ち主の顔が顕になる。
    「おや」
    花束からひょっこりと顔を出したのは、風早巽だった。HiMERUの存在を確認した巽は「こんばんは」と微笑んでくる。
    「こんな時間に会うなんて奇遇ですね」
    嬉しそうに微笑む巽に悪い気はしないけれど、こんな日に会いたくなかったというのが本音だ。予期せぬトラブルで仕事が押して疲れ果てた顔で会うよりも、きちんと髪もセットして余裕のある表情が出来ている万全の状態の時に会いたいと思うのは当然だろう。HiMERUとしては今のコンディションは最悪で、今すぐにでも部屋に帰りたいのにこの男は呑気にへらへらとしているから腹が立つ。同じく男であるはずなのに、こいつは男心というものが分からないのかと声を荒らげてしまいそうだ。
    そうこうしているうちにも巽はどんどん近づいてくる。すると、鼻腔を擽るような強い香りが漂ってきた。
    「……どうしたのですか、その百合は」
    巽が抱えていた大きな花束の正体は白百合だった。百合独特のむせ返るような強烈な香りは当たりを包み込み、巽が動く度にその花粉がはらりと落ちる。
    「ああ、これですか? 実は今日ラジオの収録の後に顔馴染みのスタッフに会った際に頂いたんです。遅めの誕生日プレゼントだと」
    「本当に遅いですね」
    「えぇ」
    そう言う巽は花束を大事そうに抱え直す。明かりも消えた空間で白いその花はぼんやりと浮かび上がり、それに照らされた巽はどこか浮世離れした雰囲気を醸し出していた。
    「誕生日に百合ですか」
    つい嫌味ったらしい口調になってしまった。しかし巽はHiMERUの悪意には触れずに、「俺に似合うからと選んで下さったそうです」と花に視線をやった。百合の花は聖母を表す象徴的な花とされているというし、フランスの聖女が掲げた旗にも百合の印があったという。この花束を渡したのがどこの誰だかは知らないが、これまた大層なイメージを押し付けられたものだなとHiMERUは鼻で笑った。
    「巽にはもう少し控えめな花の方が似合うとHiMERUは思います」
    「えぇ、俺も白百合だなんて恐れ多いとは思うのですが、『君にはこれしかないと思った』と言われてしまったら受け取るしかなくなってしまいまして」
    ですが、と巽は困ったように続ける。
    「同室のお二人は鼻が良く利かれる方々ですので、百合の香りは少々刺激が強すぎるかもしれないのが困りもので……せっかく頂いたものではありますが、彼らが嫌がるのなら置いておく訳にはいきませんので」
    実に困ったといった顔で巽は花束を見る。あんなに大事に抱えていたら服にも匂いが付いてしまっているだろう。HiMERUは少し考えた振りをした後、さも今思いつきましたと言わんばかりの表情でとある提案を投げかけた。
    「でしたらHiMERUが引き取りましょう。巽のことですから頂き物を捨てるのに抵抗があるのでしょう? ただ捨てるよりもずっといいはずです」
    まくし立てるように言ったHiMERUの提案に、巽はなるほどと納得した。同意を得たならばとHiMERUは腕の中から巨大な花束を攫うと片手で掴んだ。
    「ありがとうございますHiMERUさん。おかげで助かりました」
    「無事解決したならいいのです。それより明日の予定はありますか? 先日話していた映画なのですけれど……」
    明日の予定を立てながら、HiMERUは内心でほくそ笑む。本来ならば巽に渡され、巽の手によって手入れをされ、巽と共に日々を過ごすはずだった百合の花が、自分の部屋で為す術なく朽ちていくのを眺めるのはさぞ気分がいいことだろう。
    HiMERUは浮き足立つ気持ちを抑えるように花束を握る手に力を込めると、ぐしゃりと包みが音を立てた。



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