あの日の花火を 僕の隣で楽しそうに。少しばかり夜更かしをしたあの夜。花火の柔らかな明かりに照らされた君の愛らしい笑顔。
「忘れるわけがない……」
つい、この間の出来事だった。宿舎の皆で花火をしたのは。僕は昨日の事のように思い出せるよ。だって、本当に、ほんの少し前の事だったじゃないか。
「長野……」
目を覚ますと隣に眠っていたのは長野ではなく、北陸だった。あぁ、そうだ。思い出して下半身が怠く感じてしまう。お酒は美味しかった。その後身体を重ねたのも随分馴染んで心地よかった。
ゆっくりと体を起こし、眠る北陸を見下ろす。
可愛い長野。もう居ない。僕の歩調に精一杯合わせて小走りに歩いていた長野。見上げて笑顔を見せてくれる長野。
「居ない……」
分かっているのに、胸が締め付けられて涙が押し出された。自分でも驚くほど涙が溢れてどうすればいいのか分からなくなる。
「……あぁ」
そうして北陸が目を覚まして僕を見上げた。何故泣いているのか、聞くまでもないと顔に書いてある。北陸の表情が歪んで悲しそうな苦しそうな、そうして唇が微笑むように曲がった。器用だと思いながらじっと北陸を見つめる。涙はまだ止まらない。
「貴方が僕の前で泣くのはいつだって長野の事を想ってだ」
昨夜耳元で愛していますと何度も囁いた、優しい声音と同じそれで北陸は云った。だからといって泣かないでほしいとは伝えては来ない。
その代わり、目を覚まして現実を見てほしいとばかりに大きな掌が頰に触れた。ぐい、と指先で強く涙を拭って離れて行く。苦笑する北陸の表情と押し付けられた指の感触が不釣り合いで思わず笑ってしまった。
貴方が笑ってくれるなら、それでいいんですよと。言葉にはせずに。北陸も体を起こすと優しく抱きしめてくれた。長野には出来なかった、包み込むような抱擁で。