「……あ、間違えました」
呆然とする雨彦の目の前で、クリスは平然とした口調でそう言ってのけた。
時刻は夕飯時。今日はいい魚が手に入ったから自分が夕食を作るのだ、と張り切った様子のクリスは、徐に席を立った。
ダイニングテーブルの向かいでそんなクリスに頷いた雨彦は次の瞬間、クリスの挙動に手にしていたマグカップを取り落としかける。そのままキッチンに向かうと思っていたクリスが、目の前で身に着けていたセーターを脱ごうとし始めたのだ。
料理をすると言ったはずの恋人が、突然目の前で衣服を脱ぎ始めたら、動揺してしまうのも無理はないだろう。取り繕う余裕もなく驚いた表情を浮かべた雨彦に、クリスは少し不思議そうに首を傾げ、数秒後に合点がいったというような顔をする。そうして出てきた一言が「間違えた」だった。
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