「ん、――ッ」
ねだられるまま唇を合わせて、甘く漏れる吐息を封じる。頬を指の背で撫でつつ顔を離した先で、既にとろけきった琥珀の瞳が、こちらを縋るように見つめてくる。
「あ、あめひこ♡ もっと、触ってください♡♡」
ホテルのベッドに背を預けながら告げられる、早々に恥じらいよりも欲がまさった素直なおねだりは、重ねてきた情事で躾けた仕草を思わせてどこか優越感をくすぐる。
――ほんの先程まで、メディアに掲載される、自分たちのパブリックイメージに沿った撮影を行なっていたのだ。
アイドルとしてのレジェンダーズに求められているのは、年長ふたりのミステリアスな大人の余裕、年少のメンバーの小生意気な言動。
ファンには熱を込めたライブパフォーマンスや、口を開けばもれなく海のこと、という「意外な」気さくさが伝わっているのかとは思うが、おそらく今回のグラビアでもこの男に冠される言葉は『気品ある美貌』『元助教の知性を帯びた笑み』『ここではない水平線を挑発的に見る目』だとか、なんとか。
「あぅ♡ うう、焦らさないで、ください♡」
そんな、一般には近づき難い印象を与えるらしい心身ともにきれいなひとが、自分を信頼しきって腕の中でもだえるさまは、こんな俺に捕まってよかったのかい、と問いかけてみたくなるものの、もっと離れられないようにぐずぐずにしてしまいたくなる。
耳元で笑み混じりに囁く。
「ん、お前さんの期待に応えたつもりなんだがね」
指先の動きに合わせて、びくりと跳ねる素直なからだ。
己の中に渦巻く、諸々の混ざった欲。
相手に問うたところで、魚の話にまぎれておずおずと好意を告げられた日から、もはや手放すつもりはないのだった。