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    detjes_8238

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    detjes_8238

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    八杉。(数年くらい先の二人)

    八杉25 ただいま、と帰宅を告げた隆之さんは、僕がベランダから顔を覗かせると、すでにソファに倒れ込んでた。
     浮気調査の証拠集めのために三日ほど不在にしていた隆之さんは、その間、ほとんど休むことも出来ずに奔走してたみたい。
     忘れずに入れてくれる定期連絡で調査が難航してるとは聞いていたけど、思ってたよりもひどかったのか、ソファに寝そべる隆之さんはぐったりとした様子で腕で顔を隠してた。
     取り込んだ洗濯物をひとまずカゴに入れてそばにしゃがむと、隆之さんは唸るような声を出して腕をゆっくりと外す。
     バンで寝るのもそろそろ限界だって嘆いてたけど、はっきりと疲れの滲んだ目元がそれを物語ってた。
     労いの言葉の代わりに眦に指で触れると、ふは、って笑みを漏らす。
    「くすぐったい」
     けど、気持ちいい。
     そう言って、隆之さんが僕の手を握った。
     普段は僕より高い体温なのに、手がすごく冷たくなってる。
    「……ただいま」
    「うん、おかえりなさい」
     掠れた声をもらす、少しだけ乾いた唇。
     小さく啄むと、隆之さんが柔らかく微笑んだ。
    「ご飯もできてるし、お風呂も入れるよ」
     もうすぐ帰れるって電話を受けてから、仕事明けの疲れも忘れて、僕は冷蔵庫とにらめっこしてスーパーに行った。
     隆之さんがいないとどうしても料理する気になれなくて、食材のストックは賞味期限の怪しい牛乳と、もうそろそろ萎びそうな野菜しかなかったから。
     三日ぶりにキッチンで鍋やフライパンと格闘して、お風呂掃除をした。
     窓を開けて空気を入れ替えて、部屋も片付けて。
     僕がくたくたになって帰宅する時、隆之さんは自分がどれだけ疲れてても優しい時間をくれる。
     だから、僕も同じようにしたい。
     うまくできてるかはわからないけど。
    「ご飯も風呂も魅力的だけど、選択肢が足りないでしょ」
     そう言って、隆之さんは覗き込んでた僕のうなじを手で覆うと抱き寄せた。
     それを合図に、どちらからともなく吸う。
     ぺた、とくっつけあった隆之さんの舌は、ぶどうのキャンディの味がした。
     隆之さんが疲れた時に煙草の代わりに口にするようになったそれは、僕にも馴染み深いものだ。
     僕が煙草の味が好きじゃないこともあるけど、「できるだけ文也と長く一緒にいたいから」って、ずいぶん前に始めた習慣だから。
     甘い舌を味わいたくて追いかける僕を煽るように、隆之さんの指が耳とうなじをくすぐる。
     夜の戯れの時と同じ触れ方に、くすぐったさはあっという間に気持ち良い、に変わった。
     水音のいやらしさに背中がぞくぞくして、腰が浮いちゃう。
     舌が逃げそうになると、逃すまいと隆之さんの舌が追いかけてきて搦め取った。
    「ぅ、んん、」
     お互いのくちの中のいいところを知り尽くしたキスは、時間をかけて僕の体をとろとろにしていく。
     時折、隆之さんがじゅっ、と僕の唾液を吸いあげる音に頭がくらくらしそうだった。
     声だけしか聞けなかったのは、たった三日。されど、三日。
     ほんのわずかなあいだが空いてしまっただけなのに、二人とも年甲斐もなく、すぐにお互いに夢中になっちゃう。
     毎日キスをしてて、一日でも欠かすと寂しくなっちゃうからだ。
     こればっかりは仕方がない。
    「ん、たかゆきさ…」
    「ふみや」
     舌見せて。って言われたとおりにくちを開いて舌を出すと、いいこ、って褒められた。付き合いたての頃みたいに。
     隆之さんをまだ八神さんと呼んでた頃、僕はキスひとつまともに出来ない子供で、隆之さんをいっぱい困らせてた。
     一から教えてもらって、たくさん唇を奪ってもらって、そのうちに僕が奪うことも覚えて。
     どんどんキスが大好きになっていった。
     セックスの前にするような、互いの欲をぶつけ合うような濃厚なキスももちろん大好きだけど、僕は唇を甘噛みしてねだるキスが好き。
     僕が下手くそなりに甘噛みすると、必ずふ、て笑って、「いいこ」って褒めてくれた。その言葉が嬉しくて、いっぱい欲しくて、何度もしちゃったっけ。
     その時に甘くかすれる声が好きだし、目尻が下がってかわいくなって、すごく好きな優しい表情をたくさん見られるから。
     だから、いまでも一番大好きなキス。
    「……ん、やがみさん」
     キスの合間に自分から漏れた声に、僕ははっとした。
    「……八神さん」
    「あ……」
     隆之さんの口から紡がれた言葉に、頬が熱くなる。
     気持ち良いキスをたくさん教えてもらってた時のことを考えてたから、呼んでしまったんだ。
     もう「隆之さん」なのに。
     僕はもう、「文也」なのに。
     ソファから体を起こした隆之さんが僕を抱きしめる。
     いつもならすぐに抱きしめ返すけど、今の僕は隆之さんの体温だけでどうにかなりそうだったから、そうすることが出来なかった。
     こころが、あの頃に引きずられる。
    「杉浦」
    「──っ、」
     隆之さんがそう呼んだだけで、僕はもう顔を上げられなくなった。
     体中が熱い。
     そんな僕の変化をわかってて、隆之さんは優しいばかりの口付けを瞼や額にたくさん降らせる。
     ずるい、こんなの。抗えるわけない。
    「杉浦、もっとたくさんキスしていい?」
     拙くて幼いものから、焦がれるようなものまで。
     いままでにくれたキスを、ぜんぶ。
     きっと、隆之さんはいっぱいしてくれる。
    「うん……ちょうだい、八神さん」
     期待で震える瞼を閉じて、僕は隆之さんの唇にかぶりついた。

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