ハロウィンとか相談所(10) 翌日学校が終わるのを待って、エクボとテルは調味市役所に向かった。
「あの!事前にご連絡しました、七味高校新聞部の花沢と申しますが!」
テルが愛想良く受付に声をかけると、調味市役所勤続三十年塩川梅子はポッと頬を赤らめて取り次ぎの電話を掛けた。
「はぁ…お前さん、将来はいいスケコマシになるぜ…」
「何を言ってるんだい?僕は影山くんに一人で生きてるわけではないと教えて貰った時から、最大限他人の協力を仰ぐように心掛けてるんだ。そのためには相手に良く思われておいた方が得策だろ?」
「他人を利用…の間違いじゃねぇのか?」
「何か言った?」
「いや、何でもねぇ」
テルはエクボを消し去れるほどの超能力を持つ男だ。エクボはヒュッと無い肩をすくめて、また気配を消した。
───なんか、こいつ、霊幻に似てきたな…
上手く他人を利用して立ち回り、自分の思い通りにことを運ぼうとする零能力者の顔を思い浮かべた。
「お待たせしました!担当の者はまだ手が離せないそうで、先に会場を見学して欲しいとのことなのですがよろしいでしょうか?」
「はい、もちろんです!ありがとうございます」
丁寧に頭を下げて、テルは調味ホールへの行き方を聞いた。この市役所とは渡り廊下で繋がっているらしかった。
「行こう、エクボくん」
エレベーターで二階に上がり、ガラス張りの外廊下を隣の建物へ移動する。平日は何も催し物は無いらしく、ホールはしんとしていた。
地方都市にしては珍しいくらい、立派なホールである。確か去年オープンしたばかりなはずだ。二階から続いているエントランスには豪華なシャンデリアが下がり、螺旋階段が一階入り口に続いている。エントランスにはクラシックコンサートやバレエの公演ポスターが並んでいた。
「へぇ…僕も調味市民だけど初めて入ったよ」
「そういや、なんか工事してたな。俺様も上を飛んだことはあったが…」
「エクボくん…何か、感じるかい?」
「う〜ん…。なんかあるっちゃあるが…どうも気配が希薄ではっきりしねぇ」
「そうだね。今はいない…これは気配の残り香だ」
無人のホールはそれだけでも不気味なものだが、この二人にはそんなのは大したことでは無い。それよりも得体の知れぬ霊力の気配が気になった。
「いる…超能力者だ…」
テルの言葉に緊張が走る。
「開けるよ…」
ホールへと続く重い扉を開く。中はオペラハウスのように枡席までついた豪華な劇場で、その奥にステージがあった。
「あれ…?また会ったね。少年」
「島崎…!?」
そこにいたのはかつて五超と呼ばれた島崎だった。そのことにも驚いたが、もっと驚いたのは、彼が立つステージの足元である。
そこには巨大な魔法陣が描かれていた。
「ちょうど良かった。君たちは『みえる』んだよね?ここに何が描いてあるか、分かる?」
「僕も詳しくは無いけど…魔法陣のように見える…」
「それよりも、なんでお前がここに!?」
さっきロビーで感じた気配はこの男のものだったのだろうか?それにしては気配は既に随分と古びていた。威勢よく島崎を問い詰めたエクボだったが、決してテルより前に出ようとはしなかった。
「なんでって?ハロウィンに呼ばれて来たんだよ」
そう言って島崎は見えていないはずの視線をこちらに向けて、ニッと笑った。