ハロウィンとか相談所(27)この部屋を都市伝説のようになっている『媚薬を飲まされセックスしないと出られない部屋』なのだと最初は考えていた霊幻だったが、ラベルを見て目を見開く。
飲んだものがただの媚薬の方がまだマシなのかもしれない。
この瓶の正体を知られるのはマズいとポケットの中に瓶を隠そうとするとその手をエクボが止める。
「霊幻。さっきからおかしな事ばかり起きやがる。この部屋といい、お前さん一体何を飲んだ?何を知ってる?」
「俺は…」
顔も身体も別人のものだと分かっているのに、目の奥に緑の光が見える。これは紛れもなくエクボだ。恋する男の顔が至近距離で迫り、更に低い声で詰め寄られ霊幻は床に腰を落とす。顔を背けようとすると、顎を掴まれた。
「人が話をしてる時に顔を背けんな。霊幻、お前おかしいぞ」
「別に、何も」
「じゃあその瓶は何だ!」
キレたエクボが瓶を取り上げる。
ラベルに書かれていた文字は『隠していた心を打ち明け、実行させる効果』とあった。
「お前さんの隠し事?詐欺師なんざ隠し事だらけで思い当たる事が多すぎるんじゃないか」
興味がなさそうに瓶を取り上げると、虚空に向かってエクボは瓶を投げ捨てる。
「こんな事でお前さんから隠し事なんざ聞いた所でな。秘密ってモンは自分から自発的に言わせたいもので、チートな薬使ってお前から聞く隠し事なんて面白くも何ともない」
エクボの言葉に霊幻は目を丸くする。
この流れでいけば、霊幻はエクボに告白しなければならなかった。
自分の思いを、瓶の薬、そして出現した過去の自分たちの亡霊に押されるような形で。
さらに薬の効果で実行、つまりセックスまでの流れまで行く事になる。その証拠に身体は熱い。
だが、霊幻の中にそれらを踏み止まらせるものがある。防波堤のように自分の心を守り、固めてきた悪霊への思いを『他者』からの強制でされたいわけがない。
過去の自分たちに何があったか、今は理解している。彼らの悲願や願いが自分たちをここに縫い留めている事も。
それでも、これはあくまで自分の意思として思いをエクボに伝えたい。こんな事故のような形ではなく。だが、瓶の中身の強制力は霊幻の舌を震わせる。
今にも、エクボを愛していると叫び出しそうになる。抱いてくれと訴えて疼く身体をエクボに明け渡そうとする。
それを止めたのは霊幻の意志以上にエクボからの言葉だった。この悪霊は、必要な時に手を伸ばして自分を救う。抵抗する身体を両腕で抱え、霊幻はエクボの目を見上げた。
美しい緑色の瞳孔が、霊幻を射貫くような強さで光っている。
「…言いたい事があるなら、お前が自分から言え。この部屋、出たいんだろ?」
薬や亡霊の効果などではない。自分の言葉で。
エクボの誘うような声に霊幻は目を閉じた。