ハロウィンとか相談所(29) そう腹を括り霊幻は自分に背を向けるエクボにそっと声をかけた。
「エクボ…。ごめん、やっぱ手伝って欲しい…」
壁を向いてじっとしていたエクボだが、背後で起こっていることは大体把握していた。あの薬瓶を飲んでしまってから、霊幻の様子がおかしい。
───これは…つまり、そういう事なんだろうな…
自身そのものが怪異であるエクボは怪異への適応力が早い。この部屋が外と切り離された異空間であることも、自分と霊幻が選ばれてここに誘い込まれたであろうことも理解していた。
───謎の魔法陣、俺様と霊幻に似た男、霊幻にだけ読める文字…
本来なら何の能力もない霊幻にだけ文字が読めるということも、それが向こうの作為であるなら不思議はない。むしろ何らかの力で抵抗出来ない分、霊幻の方が操りやすいだろう。それだけ霊幻は怪異に付け込まれやすい。
───くっそ…こんなことになるんなら、さっきの薬瓶、俺様が飲んじまえば良かった…!
何にイラついているのか、エクボ自身にもよく分からなかった。訳の分からない怪異に振り回されている事か、霊幻を守れなかったことか…。
───守る?俺様が?霊幻を?
力の無い厄介者だといつも思っていた。けれど本当は彼がいてこそ人が集まるのだし、親友のシゲオにとっても大切な人間なのだ。自分だっていつの間にか、霊幻新隆という人間が作り出す人の輪の中に入り込んでいる。認めたくは無かったが、エクボもそれは自覚していた。
誰にも見えない、認めて貰えない自分という悪霊をいつの間にやら『仲間』にしてしまった霊幻。そんな彼の足りない部分が戦闘力だというなら、自分はそれを補う存在であるべきだ。
だが実際にはこの部屋から出る鍵さえ見つからず、努力する霊幻に背を向けている始末。
そんな風にエクボが悶々としていると、蚊の鳴くような声で霊幻から声がかかった。
「エクボ…ごめん、やっぱ手伝って欲しい…」
霊幻の方からごめん、と謝ってくるなんて珍しい…と、振り返ってエクボは唾を飲んだ。
薬のせいなのか、頬を上気させて仄かに喘ぐ霊幻がそこにいた。