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    銀鳩堂

    ここには草稿をポイポイあげて、溜まったら整えてpixivやカクヨムに移植しています。
    ツイステ二次創作小説の長編案が降りてきたので現在は主にそれを書いてます。
    pixiv⇨https://www.pixiv.net/users/68325823

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    銀鳩堂

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    ヤンクロ第二部15話
    後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の15話です。
    離宮へと「修行」に出されたスノーホワイト姫が心配なディアヴァルは、こっそり様子を見に行ってみました。すると姫は…。
    (本文約2580文字/豆知識約960文字)

    #ツイステファンアート
    twistedFanArt
    #ディア・クロウリー
    dearCrowley.
    #クロウリー学園長
    crowleyPrincipal.

    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部⑮話「姫と願いの井戸」 ディアヴァルは姫が心配だった。生まれてからずっと愛され大切にされてそだってきた娘だ。突然厳しい世界に突き落とされてさぞ心細いだろう。彼は姫の様子を見に離宮へと飛んで行った。
     辛い思いをしているのでは、と心配していたのだが、意外なことに姫は楽しげに仕事に精を出していた。石畳を磨くにも洗濯するにも、楽しげに歌を歌って清々せいせいはげむ。
     その姿には他心たしんはなく、ただただ清らかでほがらかだった。しかも、姫が歌うと、いつだって小鳥やリスがあつまってくるのだ。あの小さなお茶会の、楽園のようだった日々を思い出す優しい世界がそこにはあった。
     そして姫は、他の召し使いたちからも可愛がられやさしく扱われていた。
     厨房のおばちゃんはとりわけ姫に目をかけていて、何かといってはまかない料理を振る舞っていた。
     姫は服こそボロボロで仕事もきつい肉体労働だったが、人の暖かさに恵まれ、決して不幸そうではなかった。
     そんな姫を見ていると、ディアヴァルはあのローズことオーロラ姫を思い出すのだった。
     ……あの方ローズも、純真で疑う事を知らなかった。そして不思議とあらゆる生き物に慕われていたっけ。
     それを思い出したとき、ふっとディアヴァルの心にかげが落ちた。そんな純真なローズを赤子のうちに呪ってしまったマレフィセントは、非業の死をげたのだ。
     ディアヴァルは不吉な予感に羽根を震わせたのだった。
     そんなディアヴァルのことなど知らない姫は、美しい声で歌いながら楽しげに仕事を続けていた。
     今は石の階段に水を打ち、磨く仕事にいそしんでいる。姫は水を井戸から汲み上げて集まった鳩たちを見回すと、よく通る美声で歌い始めた。
    「とても不思議よ この井戸はね 望みかなえる井戸 願いを言えば たちまちすぐ こだまが答えて 夢がかなう」
     そして姫は井戸を覗くと歌いかけた。
    「すてきな人が 現れますように」
     すると井戸の底からこだまが返る。
    『すてきな人が 現れますように』
     こだまを聞いた姫がまた歌う。
    「胸が ふるえるわ ここへ」
     こだまが応える。
    『胸が ふるえるわ ここへ』
     素敵な人が現れるようにと願う歌。即興の歌詞なのだろうか。こんな歌を歌うなんて、やはりこの暮らしが辛いのだろうか。
     自分の考えに沈み込んでいたディアヴァルの耳に、カッカッカッとリズミカルに響く音が聞こえてきた。彼が目を上げると、見事な白馬にまたがった貴公子が石畳の道をやってくるところだった。
     歌が終わるか終わらないうちに、「すてきな人」が現れた! あの若者はここにやってくるのだろうか? 姫と出会ったらどうなるのだろう。女王の不安が的中してしまうのだろうか?
     気が気ではないディアヴァルは、舞い上がると貴公子を観察しに行った。
     貴公子は、上質な生地の仕立ての良い衣服を身に着けて、姿勢良く馬を乗りこなしている。服は豪華な刺繍で飾られていた。その身なりや所作しょさからは育ちの良さがうかがい知れた。
     白馬はというと、よく手入れされた毛並みはつやつやと輝き、細く引き締まった脚は如何いかにも早く走れそうだ。くらあぶみには見事な細工が施され、馬の背に掛かった飾り布にも美しい刺繍がほどこされている。
     どこから来たのだろうか。こんな身なりの貴公子だ、よほど高い身分の人に違いない。ディアヴァルがいぶかしんでいるうちにも、貴公子はどんどん近づいてくる。
     彼は、離宮の庭を囲む壁のすぐ外で馬を止めるとひらりと飛び降り、身軽に壁を乗り越えて、離宮の庭へと入ってきてしまった。
     姫は気づかずに井戸に向かって歌い続けている。
    「お願い すてきな人が 現れますように 今日」
     その時、貴公子が井戸を覗く姫の隣に寄り添うように立つと「今日」と声を合わせて歌った。井戸の水面に映った姫のとなりに貴公子の姿が映る。
     驚いた姫が振り向くと、貴公子は羽の付いた帽子を取って挨拶した。
    「こんにちは」
     ところが姫は、突然現れた見知らぬ青年に驚いて逃げ出してしまった。姫は、ボロボロに裂けたスカートの裾を手で押さえながら走ってゆく。それを見たディアヴァルは、ああ、やはりこんな貴公子の前に出てしまうとみすぼらしい服装が気になるのだな、と痛ましく思った。
    「待って! 逃げないで、頼むから!」と声を掛けながら、青年が後を追う。
     だが姫は、屋敷に駆け込むと重い木の扉をバタンと締めてしまった。
     しかし青年は諦めなかった。彼は、姫が駆け込んだ扉の前で歌い続けた。
    「今 ついに 君に会えた 真心伝える 愛の歌 君のために 胸ときめかせ 真心伝えよう」
     声は姫にも聞こえていたのだろう。ディアヴァルは、姫がこっそりと高窓から外をうかがっていることに気がついた。
     青年も同じことに気づいたのかもしれない。高窓の下で手を高く差し伸べて、切々と歌い上げる。
    「夢 愛の夢 軽く羽ばたき ただ愛の歌 君に捧げる」
     高窓のカーテンの影から、姫が現れ、その赤い唇で一羽の白い鳩に口づけるとちゅうはなった。鳩はまっすぐに青年の元へと降りてゆき、青年に口づけた。
     二人の目と目が見つめ合った。姫は頬を上気させるとさっと身をひるがえしてカーテンの影へと走り込んだのだった。
     成り行きを見守っていたディアヴァルは心配になった。これは二人の恋の始まりなのだろうか? だとしたら、大変なことになるかもしれない……。女王がこのことに気づいてしまったら、どうなるのだろう。ディアヴァルは迷った。このままここにとどまって二人を監視するべきなのか、女王の元へと戻るべきなのか。
     と、彼の脳裏を悲しい思い出がぎった。
     あの時、彼はあの塔に残る決断をしたのに、何も出来なかった。そして、マレフィセントがローズを見つけ出した時には全てが手遅れになっていた。その結果は……。
     黒い後悔が胸を噛む。お馴染みだが薄れることのない痛みが彼をさいなんだ。
     今は戻ろう。あの方グリムヒルデの元へ。少しでもお力になれるように。
     ディアヴァルは翼を広げると空へと舞い上がったのだった。


    【豆知識】
    今回は馬具の話です。王子登場シーンで、悩んだのが「あの馬の背中に掛けてある布はなんて呼べばいいの?」でした。
    些細なことだけど、そういう用語をきちんと押さえて置けるかどうかで描写が全然違ってきますよね。
    これ、漫画なら正しい絵を書くために画像を漁るところですが、文字書きとしては名前を知らねばとなるシーンです。
    そこで色々ぐぐってみました。

    基本の馬具を知ろう!
    https://pacalla.com/article/article-1412/
    最初に見たのがこちらのHP。基本を押さえて丁寧に解説してくださっていますが…。これは現代の馬具。
    中世風ファンタジーなので、中世の名前を知らねばなりません。そこで更にググりました。
    そして見つけたのが⇩のWikipediaの記事です。
    「馬の背に掛かった布 ヨーロッパ」で画像検索して見つけた画像がこのWikipediaのものでした。ちょっと違うんだけど、もしかして知りたい物も載っているかも?
    というわけで⇩の記事を見てみました。

    「中世の馬」乗馬具の技術:https://is.gd/zEr2h4
    するとこちらに以下の記述が。
    「鞍の下には、ときに馬飾り(英語版)(カパリスン、caparison)や鞍下(サドルクロス、saddle cloth)を着せた。これらは紋章の色や武具で装飾や刺繍を施すことができた[90]。軍馬には、バーディング(barding, bard)と総称される追加の覆い、毛布、装甲が装備されることもあった。これらは装飾あるいは防御目的でもあった。」

    「馬飾り(英語版)(カパリスン、caparison)」にリンクがあったので、そちらへ飛んでみると……。

    「Caparison」https://en.wikipedia.org/wiki/Caparison

    これですよ!これ!!こういうわっさーと馬に掛けてある布は「Caparison」って言うんですね。
    けど、この英単語をそのまま本文に書いても何がなんだかですよね。
    そこで「馬の背に掛かった飾り布」という噛み砕いた表現にしてみました。用語の正確性という視点からは妥協になりますが、馬具を知らない人がほとんどであることを考えるとまあこんなところが落としどころかなと思いました。


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    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第二部23話。
    後のクロウリー学園長=大鴉のディアヴァルの物語、美しき女王編の23話。七人の小人たちが小屋へ戻ってくる!女王の扮する老婆は危機を告げるディアヴァルに促されてその場を逃げ出したが…。(本文約2600文字/今回、豆知識はお休みです)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部㉓話「老婆と七人の小人たち」 ディアヴァルにかされて、老婆にふんした女王は森の中へと走り込んでいった。
     ディアヴァルが空に舞い上がって偵察してみると、木立の隙間からちらちらと、小人ドワーフたちが転んだり滑ったりしながらも家を目指して走っているのが見えた。あいつらあんなに足が短いくせに、なんであんなに早いんだ? それなのに、老婆の姿の女王は早く走ることが出来ない。早くも息をはずませて、苦しそうに走っている。ディアヴァルは女王の直ぐ側まで舞い降りると、枝から枝へと飛び移りながら女王の後を付いて行った。
     女王は森の踏み分け道を走って戻っていく。その後ろから、大声で叫ぶ怒った小人ドワーフたちの声がかすかに聞こえ始めた。このままでは追いつかれてしまう! どうすれば良いのだろうか? ディアヴァルは女王のそばを離れ、小人ドワーフたちの方へと戻っていった。
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    後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第8話です。
    王妃と再会したディアヴァルは、ずっと側にいて欲しいと言われて幸福に酔いしれるのだった。そこへ誰かがドアを開けて入ってきた…。(本文約1630文字/豆知識は今回はお休みです。支部移植字に話数が減る予定なので今回はそれを見込んでの調整です)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部八話「命名」 ディアヴァルが王妃グリムヒルデに背中を撫でられて恍惚こうこつとなっていたその時、部屋のドアがキィっと開く音がした。
     誰か来た?! まさか追い払われたりはしないだろうか。王妃に魔女の疑いがかかってしまったりしたらどうしよう……。
     そんな心配が頭の中を駆け巡る。
     だが、次の瞬間、部屋に飛び込んできたのはスノーホワイト姫だった。
    「おかあしゃま、あのね……」
     そう言いかけた姫の顔はたいそう寂しげで、ディアヴァルはこんな小さな女の子がこんなにも寂しげな顔をするなんて、と胸を痛めた。が、次の瞬間、姫の顔がぱっと輝いた。
    「あっ!! カラスしゃん!! カラスしゃんだ!!」
    「そうよ、カラスさんが遊びに来てくれたのよ」
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    銀鳩堂

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    本文約1450文字+カラス豆知識約740文字のおまけ付き。今回の豆知識はカラスがお互いを確認する方法「コンタクトコール」についてです(資料リンクあり)。
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部三話「結婚式」 五月のよく晴れた朝、王城は晴ればれとした雰囲気に包まれていた。
     城のすべての尖塔に美しい三角旗がはためき、城門は春の花々を編み込んだ花綱で飾り立てられて開放されている。城門からは次々と来客が流れ込み、城はかつてない賑わいに沸き立っていた。
     今日は、この国の王が新たな王妃をめとる、その結婚の式典が催されるのだ。城の庭園は民草にも開放され、たくさんのご馳走と飲み物が振る舞われる。
     麗々しい式典のクライマックスは、正午の結婚の誓いだ。国の最も高位の聖職者がやってきて王と新たな王妃の誓いに立ち会い、この結婚に祝福を与えることになっている。
     その場には、もちろんディアヴァルも訪れていた。なにせ不吉とされてしまうカラスの身、あまりおおっぴらに姿を表すことはしなかったけれど、物陰から人々を観察し、ちらりとでもグリムヒルデの姿が見えないかと期待していたのだ。
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    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第2部第4話
    後のクロウリー学園長=カラスのディアヴァルの物語、美しき女王編の第4話です。
    今回は王妃グリムヒルデと白雪姫の仲睦まじいティータイムにディアヴァルがお邪魔します。こんなにも仲睦まじい二人がなぜあんなことになってしまうのか、それは今後のお楽しみ…。(本文1940文字)

    ※今回の豆知識はWIRED誌から、鳥の「名付け」について。そう、鳥たちも「名前」を持っているのです……!
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部四話「小さなお茶会」 華やかな結婚式から数日後。王城の庭園で虫を漁っていたディアヴァルは、新王妃グリムヒルデと小さな女の子がやってくるのに気がついた。女の子は、結婚式でドレスの裳裾もすそを持っていたあの子だ。参列者からは姫と言われていた。年の頃は6歳かそこらだろうか。どうも人間の子どもの年齢はわかりにくい。
     グリムヒルデは、幼い姫の手を引いて庭園の東屋あずまやをめざしているようだ。片手にはバスケットを下げている。
    「東屋についたらおやつを頂きましょうね」と、グリムヒルデは小さな姫に声をかけた。
    「はい、おかあしゃま!」と元気よく姫が答える。
     ディアヴァルには、その声や口調は、見た感じの年齢より少しばかり幼く感じられた。だがその幼さは姫をより愛らしく見せているとも思った。
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    銀鳩堂

    PROGRESSヤンクロ第二部1.5話「出会い」後編
    構想が固まらず止まっていた二部ですが強引に再起動。試運転的に出会いシーンの続き、王とグリムヒルデ(後の美しき女王)の出会いを書きました。
    アニメ版「白雪姫」には無いシーンで「みんなが知らない白雪姫」の筋立てとも違っていますが書きやすい方向に進んでみます。最後にカラス(鳥類)の豆知識(異種族恋愛事情)付き。豆知識は恒例にしたいです☺(本文1327文字)
    ヤング・クロウリー ~始まりの物語~ 第二部1.5話「王との出会い」(第一話前半はこちら⇨https://poipiku.com/3625622/6059932.html)


     大鴉おおがらすのディアヴァルは、美しい乙女の姿に見惚みほれていた。
     なんと美しい髪の毛。瞳も、顔も、何もかも完璧な美の化身としか思えない。いくらでも眺めていることができる。
     彼のこれまでの生涯で、こんな気持ちになるのは初めてのことだった。
     心臓がドキドキして胸が苦しく身体は熱くなって、クロウタドリの様に歌いたいような、ハヤブサの様に飛翔したくなるような、得も言われぬ心地がする。
     この奇妙な心地は何なのだろう。まるで何か魔法にでも掛かったみたいだ。そう思っているその時、乙女の家の門の前に立派な馬に乗った男が供を何人も連れて通りかかった。
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