セツがカランの特記事項を集める話⑤星間航行船D.Q.O.内 メインコンソール室にて
ラキオ「まったく、君の知能の低さには呆れを通り越して哀しみまで感じるよ」
コメット「なんだと!?そこまで言うこと無いだろ!」
ラキオ「いいかい?もし君達がグリーゼに生まれていたらとンでもない事になっていたよ。
頭の悪い奴はグリーゼでは淘汰される、君のことだよ君の。」
コメット「僕はグリーゼの人間じゃないんだからいいだろ」
ラキオ「とは言っても、別にグリーゼに限った話じゃないさ。
そうだろう?カラン」
ラキオ「君の出身地の惑星ケトラルは、グリーゼと並ぶほどの知識至上主義国だからね。」
※惑星ケトラルは惑星全体が一つの国です。
カラン「……そう、だね。あの星は規定通りに育たなかった者は間引かれるから……」
コメット「マビキ?って野菜とか育てる時にやるやつだろ?」
カラン「それをやるんだよ。人でね」
カラン「ケトラルはグリーゼ以上の実力主義国でもあるから。実力の無いものはお荷物、そういう考えなの。」
ラキオ「でもそうなったのは自分達の優れたロボット技術のせいなンだろう?自分達で自分達の首を絞めてるなンて笑えるね。あははっ
なんでもケトラルではかなり前から人間とロボットで就職戦争なるものが勃発しているそうじゃないか」
カラン「うん、それでも技術発展のために人間に合わせることは一切しないで……そのせいで人が、どんどん死んでる」
(あの子の姿がフラッシュバックする)
カラン「……狂ってるんだ、あの国は」
カラン「寒い気候に長い間居たせいでおかしくなってる……脳が麻痺してしまって、正常な判断なんてできないんだ……!だって……だって、そうじゃなきゃ……あんな政策をまともに続けるわけが無い……!」
セツ「カラン?」
カラン「気候も、人も、何もかもが冷たい……!
あんな国で生まれたから、だから私は……今、こんなにも火傷しそうなんだ……!」
セツ「カラン、しっかりするんだ!」ガッ(カランの肩を掴む)
カラン「ぁ……ごめん、ね……私、疲れてるみたい……。
部屋、戻るね……」
(ふらふらとカランがロビーを出て行く)
セツ「カラン……」
夕里子「ケトラルの人間に優しくしたのですから、当然の結果でしょうに」
セツ「……夕里子」
セツ「それは、どういうこと?」
夕里子「……ケトラルの人間は皆、自身の親を知りません。産まれてから息絶えるまで一人で生きていくのです。」
夕里子「そんな者達は当然愛などという不確定なものを理解することはできない。」
夕里子「では、愛を知らぬ者に愛を与えたらどうなると思いますか?」
セツ「愛を、与えたら……優しく、したら?」
セツ「……」
セツ「カランの性格上、自分も貰った分を返したくなるはずだ。でも、それが上手くできているか不安で……いつもそんな不安定な状態で私達と付き合っていたのか?」
夕里子「仕方がありません。ケトラルの人間と他惑星の人間では、根底から違うのです。」
セツ「……カラン」
(翌日、議論に全く身が入っていないカランをセツが見つめている)
夜
セツ「(やはりカランが心配だ……様子を見に行こう)」
ヴゥン……(カランの個室のドアが開いた)
カラン「あ……セツ……」
セツ「今日の議論で、元気が無いように見えたから……大丈夫?」
カラン「うん。大丈夫……ありがとう、わざわざ来てくれて。本当に、セツは優しい……」
カラン「……」
カラン「でも、私はその優しさを、うまく……飲み込めない……」
カラン「私にとって優しさは、毒……みたいなものだから」
セツ「……っ」
セツ「カラ……」カラン「だから、待ってて」
カラン「私が飲み込めるようになるまで」
カラン「優しいセツを利用して、ごめんなさい」
セツ「いや、いいんだ。ずっと待つから」
(カランが笑って、一筋の涙を零した)
乗員データ更新・カラン
〘全てが冷たい惑星ケトラルで生まれ育った〙