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    容疑者🌻の話。映画パロの小話二つ。雰囲気で読んで。

    #日車寛見
    japaneseCarKanzumi
    #じゅじゅプラス
    longevityBonus

    みんな容疑者Xの献身みた?アマプラでみれるよ、みてきて。頼む。忙しい人はYouTubeに切り抜かれてるラストだけでもいいよ。(よくない
    全シーン🌻で見たいなあ、と思ったからつらつら映画パロ小話と妄想を書いていく。
    (自衛のために書くが映画も原作もちゃんとフルで履修してから書き殴ってます。)

    あと、映画冒頭の「殺せましたか」のシーン、良すぎん?わかる。ありがとう。

    ──

    「日車先生、私、」
     彼女の電話の声が、一度途切れた。代わりに聞こえたのは嗚咽を堪えるような呼吸音。不規則に早まっていくそれはパニック症状から起きる発作のそれに近かった。
    「日車先生、先生」彼女はまるで濁流の中でもがき苦しむように俺の名前を呼んだ。
    「落ち着いてください、ゆっくり呼吸をして」
     彼女がここまで取り乱す理由はわかっていた。昼間、今日も彼女の家には刑事が来ていたからだ。その時、彼女は無事に自分の言う通りに事を運べたようだが、こうして夜に一人きりになった所で良心の呵責に耐えられなくなったのだろう。
    「私の言う通りにできたでしょう。大丈夫、君は罪には問われない」
    「でも、でも」
    「大丈夫だ」
     俺の言葉をかき消すような勢いで彼女は泣き叫んだが、俺ははっきりと言葉を返した。ここで少しでも中途半端に慰めたり、戸惑うようなそぶりを見せれば彼女がその勢いのまま警察に自主すると家を飛び出しかねなかった。彼女にそんなことをさせてはならない。
     彼女の平穏な生活を侵す事は何人たりとも決して許さない。例えその崩壊を彼女自身が望んだとしても、尊ぶべき法に背く事だとしても。
     俺のはっきりとした肯定に、彼女は少し気持ちを落ち着かせてくれたようだった。必死に泣き声を堪えようとして漏れ出る壊れかけた笛のような喘鳴は、聞いているだけで痛々しく思えた。
    「先生、私、ああごめんなさい」
    「……落ち着いて。君の声はちゃんと聞こえてる」
     彼女が何度か電話口で深呼吸をする。何か口にしようとしても、しゃくり上げてしまってうまく言葉が出ないようだった。
    「私、先生を本当に信じていいんですか」
    「まだ信用できませんか」
    「だって、私──人を殺したんですよ? 先生は弁護士でしょう」
     私を軽蔑しないんですか、と彼女は震える声で続けた。
     ……人殺し。確かに今の彼女は犯罪者だ。自分が腹の底で深い失望に近い感情を覚えてきた容疑者達と何も違うことはない。
     ただ一つ違うのは、自分が彼女に明確な好意を抱いている事。
    「……弁護士というのは被害者だけを守る為にいる訳じゃありません。法は平等です。私が弁護を担当するのは、犯罪を犯してしまった人々も含まれている」
     表向きの言葉だった。全てが詭弁だった。
     今、自分が彼女の為にと行っている行為は、弁護士にあるまじき行為だった。本当に彼女の為を思うなら、公正な場でしかるべき判を受けさせるべきなのだ。
     それでも自分は、冷たくなっていく死体の横で震えて泣く彼女を警察に行かせることはしなかった。それどころか死体を隠蔽し、毎夜のように彼女の為、と世を欺くためのやり過ごし方を説いている。個人的で、独善的な理由の為に。
    「……私が、君を弁護する」
     彼女を守る。その結果、自分がどういう結果になろうとも。思考を研ぎ澄ましながら、俺はあの晩と同じことを口にした。

    ──

    「あんた、弁護士だったんですね」
    「よく会うな。大学生というのはもう少し忙しい物かと思っていたが」
    「茶化すのはやめてください」
     橋本経也(ハシモトタツヤ)。彼女と同じ大学の学生で、かつての自分と同じく法学部へ所属している男だった。橋本は事務所を出た俺を待ち構えていたように電信柱の影から姿を現すと、疑いの面持ちを隠さずに俺を強く見据えた。
    「……キャンパスに、また警察がきました。あいつを疑ってのことです」
    「それで?」
     無関心に帰路へと足を向ける俺を橋本は足早に追いかけてきた。真横につかれる。目線を合わせようとしない俺への苛立ちを隠さずに橋本は言葉を続けた。
    「本当にあいつは何もしてないんですか」
    「何故、君は私に聞くんだ。同じ大学なんだろう。彼女に直接聞いたらどうだ」
    「聞きましたよ、その上であんたに聞いてるんだ」
     橋本の語気が強まる。何故、この男は自分にこれほど敵意を向けてくるのか。彼女が何か事件の事をこの男に漏らしたのだろうか。いや、彼女の性格なら弱音こそ溢しても他人に口外する事はまずしないだろう。少なくとも自分の手立て通りに事が運んでいる今、彼女が他人に事件の事を口にする可能性は限りなく低かった。
     気にする事はない。挑発めいた言葉など素知らぬ顔をして煙に巻いてしまえばそれでいい。
    「……申し訳ないが、私は彼女の隣人ではあるが、友人でもなければ家族でもない。君が警察や刑事の真似事をするのに付き合わされる暇はないんだ」
    「答えられないってことですか?」
    「違うな、答える事がない」
     曲がり角を曲がる。十メートルほど先に、いつも車を停めている月極駐車場が見えた。橋本は俺の横にぴったりと着いたまま歩みを止めない。放し飼いされた犬に塀の中から延々と吠え回されているような気持ちだった。実際は噛み付く勇気も無い癖に声だけは大きい。そんな人間は腐るほど見てきた。
     車のキーを出す為に立ち止まった所で、同じく後方で橋本も歩みを止めた。
    「逃げるんですか」
    「……随分な言いようだな」
    「答えてください、あんたが事件を口止めさせてるんじゃないんですか」
    「だから、関係ないと言ってるだろう」呆れたように答えて、そこで初めて俺は橋本の方を振り返った。
     橋本は、俺をまっすぐに見据えていた。唇を噛み締めて、どこか切迫したような決意と疑念のこもった目で俺を見ていた。
     その目に、覚えがあった。
     それは裁判所で、刑務所の中で、街中で。それらはもっと憎しみと悪意に酷く濁った物だったが、想起させるには十分だった。
     途端に、眉間の奥がじわりと黒く焦げ付くような感覚を覚えた。腹の底が急速に凍りついていく。
    「……君は、彼女の何なんだ」
     無視を決め込んでいた俺が突然感情を見せた事で、橋本はたじろいだようだった。
     自分の方が背は高い。睨め付けるように見下ろすと、彼は怯んだように一瞬ひくりと喉を鳴らしたが目は逸らさなかった。
    「友達です」
    「それだけか? 違うだろう」
     無論、それは自分にも言えることだった。ボタン製のキーを押して、車のロックを解除する。
    「彼女が好きなのか?」
     ドアに手をかけながら問いかけると、橋本の目は分かりやすく揺らいだ。すぐに彼は反論のために口を開こうとしたが、その前に「なるほどな」と言葉を断ち切った。
    「だから君は彼女の私生活に近い俺の事が気になって仕方がない。それでこんな夜中までわざわざ根拠も無いのに待ち伏せて、刑事の真似事というわけだ」
     橋本は何も言わなかった。今の彼には推察だけで証拠も何もない。込み上げてきた言葉を噛み締めるように唇を結び、俺を見返すばかりだった。
    「……そこを退いてくれ、車が出せない」
     ドアを閉め、エンジンをかける。目の前の人影が正面からサイドミラーの方へと退いたのを確認して、シフトレバーへと手をかけた。

     夜、十一時三十分。マンションの部屋に帰ると、大きくため息が出た。少し熱くなりすぎた。どうも彼女のこととなるとカッとなりやすい。自覚せねば。後々痛手になるかもしれない。
     一日中首を絞めていたネクタイを解きながら、洗面台に向かう。シャワーの前に顔を洗いたかった。
     部屋の電気を点けて蛇口をひねる。勢いよく出た水は洗面台を跳ね返り袖を重く濡らしたが、構わずにそのまま洗顔した。掻きむしるようにタオルで水分を拭った後、鏡に映った顔は暗く、やつれて見えた。
     今日はもう早く寝てしまおう。そのまま浴室に入ろうと首まで濡れたシャツのボタンに手をかけようとした所で、インターホンが鳴った。
     こんな夜更けに訪ねてくるなんて、相手は一人しかいない。沈んでいた心が浮き足立つのを感じた。ドアスコープで相手を確認すると、強張っていた顔が緩んでいくのが分かった。
     二度目のインターホンが鳴るのと同時に俺は扉を開けた。相手を驚かせないように、ゆっくりと。
    「……こんばんは、日車先生」
    「……ええ、こんばんは」
     ドアの前には彼女が立っていた。少し青白い顔をしていたが、前に会った時と比べればずっと顔色が良かった。
    「ごめんなさい、こんな遅くに」
    「何かあったんですか」
    「いえ、ただ、夕飯のお裾分けに。おかえりを待ってたんです」
     このくらいなら警察からも疑われたりしないでしょう、と言う彼女の手の中には、オレンジ色の蓋のついたタッパーがあった。茶色の液体の中にカットされたジャガイモやにんじんが沈んでいるのが見えた。
    「……それはカレーですか?」
    「あの、はい、お口に合えばいいんですけど」
    「ありがとうございます。人の手料理を食べるのは久しぶりです」
     彼女は自信なさげに俯いて見せたが、俺がそれを受け取ると「美味しくできたと思います」と柔らかく微笑んだ。
    「……私を、待っていたんですか? こんな遅くまで」
    「これくらいしか私にはお礼ができないと思って。すみません、お仕事でお疲れなのに」
     もう帰ります、と彼女は眉を下げるとさっと背を向けた。ぺたぺたと鳴る薄いピンク色のサンダルが遠ざかっていく。
    「あの、」
     気づけば、その小さな背を引き留めていた。彼女が俺を振り返る。黒目がちな瞳が向けられて、途端に走った緊張を誤魔化すためにごくりと唾を飲み込んだ。
     ──よければ一緒に食べませんか。言葉はすぐ喉元まで込み上げていた。
    「…………明日、洗って返します。おやすみなさい」
    「おやすみなさい、日車先生」
     彼女は、また微笑んだ。彼女がドアの中に消えるまで見送って、自分も扉を閉じた。頬が熱い。
     その日、彼女の作ってくれたカレーは冷蔵庫の手前に入れたまま、結局手をつけなかった。本当はすぐに口をつけたかったが、無くなってしまうと思うと惜しくなった。
     明日の出勤は遅出になる。いつもの通り起きれば朝の時間はだいぶ余裕ができるはずだ。
     瞼の裏に残る彼女の笑顔を思い出しながら、一人、布団の中に潜り込んだ。
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