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    cue(久屋商会)

    身内だけのカラオケみたいな感覚でやってます( ゚Д゚)< リアクションアリガトウゴザイマス

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    cue(久屋商会)

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    バーテンダーに扮した天草がぐだ子に一夜限りのおもてなしをする話です。
    ※主人公の名前:藤丸リツカ(このお話では仲良しなので四郎呼びをします)
    ※9/23の誕生酒:チョコレートモヒート
    ※加筆修正しました(1.5倍ぐらいになってます)

    天ぐだ♀/キス・イン・ザ・ダーク(改)毎年恒例の夏休みが終わり、季節感のなさが戻りつつあるノウム・カルデア。異聞帯攻略の谷間ではあるが、習慣となった訓練を怠ることもなく、マスター・藤丸リツカはその夜もマイルームに戻ってきた。

    「いらっしゃいませ、マスター」
    微かに聞こえる気だるげなジャズの旋律とともに、落ち着いた声が部屋の奥から聞こえる。ここ、マイルームだよね?おかえりなさい、ならまだしも。
    普段サーヴァントたちを迎える無機質なテーブルはバーカウンター風に変わっており、棚には数々の酒瓶が並んでいた。書き割りではなく本物のようだ。そして、カウンターで恭しく手を組んで立っているのは。
    「四郎、何してるの」
    「今の私はバーのマスター・天草四郎時貞です。ああ、電気はつけないで。間接照明がありますから」

    カウンター席に座るよう促され、温かいおしぼりを渡される。手を拭きながら周りを見回せば『PARAISO』と書かれた色鮮やかなリキュールに目が留まる。机の上には聖書が数冊。その隣にはハロウィンを意識した小さなジャック・オ・ランタンの置物。そして、コースターに描かれているのはやっぱり聖杯だった。店名が書かれているようだが凝りすぎたフォントで読めない。わたしのためだけに用意した今夜限りのバーだというが、まだまだ細かな設定があるらしい。部屋を空けていたのは日中だけのはずなのに。これも、ことあるごとに罰として掃除をさせていた功罪だろうか。
    「マスターを癒やして差し上げたいと思いまして」グラスを磨きながら、四郎は目を細めた。怪盗霊衣もマントとジャケットを脱いでベストだけになると、バーテンダーらしく見えなくもない。そういえばホワイトデーの時に店番をしていたときも何だかんだ楽しそうだったな、と思い返す。霊衣もそうだけど、凝り性だよね、キミ。
    「ふふっ、お褒めにあずかり光栄です。マスター、ご注文は」
    「何が作れるの?」
    「言ってくだされば何でもお作りしますよ?救済とか」
    それは一杯目から度数が高すぎる。というか、ホワイトデーのショップでも同じこと言ってたよね?カクテルにせよ救済にせよ、具体的に表現できないものは注文のしようがない。仕方なく、四郎に任せることにする。
    「マスター、おすすめは?」
    と言ってから、その呼称が紛らわしいことに気付く。「では、私が変えましょう」と軽い声で提案される。
    「……リツカ」
    「…………っ!」
    不意打ちすぎる!先程の声音から翻って、囁くような甘い声。この策士バーテンダー、絶対わかっててやってるだろう。
    「どうなさいました、リ・ツ・カ?」
    不敵に微笑むバーのマスター・天草四郎。そもそも、初めからそのつもりでマスターを自称していたのでは……。

    「一杯目はこちらを」と出されたのは、長めのグラスに注がれたオレンジ色のカクテルだった。まさか聖杯で出てきやしないかとも思ったが、普通のグラスで密かに安堵する。
    バレンシアオレンジジュースをベースとしたノンアルコールカクテル。微かにコクがあるのはココナッツミルクを加えているからだと四郎は説明してくれた。
    「貴女の瞳の色をイメージして作りました」
    「気障だなあ」
    だけど、そうして言葉にされるとやっぱり照れてしまう。わたしのためだけに作ってくれたカクテル。真剣な目つきでシェイカーを振る姿もちょっと色っぽくて格好良い。同年代の男子みたいな子供っぽさもあるのに、ここぞという時は頼りになるのだから狡い男だ。四郎のそういうところに、わたしは……。とはいえ。
    「ミックスジュースだよね」
    「……それは言ってはいけません」四郎は口元に人差し指を当てて囁いた。

    最近は誕生酒というものがあるらしい。誕生石や誕生花のようなもので、366日、それぞれにカクテルが割り当てられているという。一杯目を飲み終わり、次いで出されたのは。
    「今日はチョコレート・モヒートだそうです」
    本来はモヒートにチョコレートリキュールを加えたものらしい。今回はライムジュースにたっぷりのミント、爽やかなソーダとチョコレートシロップ。チョコミントのような涼しげな甘さが心地良い。うーん、でももう少しチョコレートシロップが欲しいかも?
    「味だけでなく香りや見た目、物語を楽しむのもカクテルの醍醐味の一つですよ」
    表情に出ていたのだろうか。わたしが隠していることを知っているかのような口ぶりに、心がざわめく。
    「何か悩み事がおありのようだ」
    サックスの奏でるメロウな旋律を背に、落ち着いた声が響く。だけど、四郎は優しいからきっとわたしが打ち明けるまで問いただすことはないのだろう。彼はただ、静かに言葉を待っていた。
    「わたし、気になってる人がいるんだ」
    アイスピックで氷を削る彼の手が一瞬止まる。取り繕うように再び氷を削り始める。
    予想以上のあからさまな反応に、こちらも思わずグラスに視線を落とす。
    「いや、何言ってるんだか。ごめん、今のは忘れて」
    「続けていただけませんか」
    「ごめん」
    「……どうか」

    言えない。その先は言えるわけがない。
    その戦いが命がけであればあるほど、キミの顔が頭から離れない、なんて。本当はずっと一緒にいたいのに、肝心なときにはいつも簡易召喚しかできないのがもどかしかった。聞きたいことも伝えたいことも溢れるほどあるのに、今の関係を壊したくなくて口をつぐんでしまう。抱き寄せる腕はいつも優しくて温かい。だけど、本当はその先が欲しかった。

    「……本当の気持ちが知りたい」
    グラスの残りを飲み干し、カウンター越しの彼の顔を見上げて一言だけ希った。
    きっと甘くはないのだろう。このチョコレート・モヒートのように。グラスの底に溜まったシロップを飲み干しても、甘さを感じることは最早できないように。
    「リツカ、俺は」
    「マスターも一杯飲んだら?わたしがおごってあげるよ」
    「そういった嗜み方、よくご存知ですね」
    「ほら、何にするの?折角こんなに分厚いメニュー作ってくれたのに、勿体ないよ」
    もうわたしは大人だから。心を覗き込まれないように、次の話題を探せるぐらいには。
    「……では、最後の一杯としましょうか」


    少し考え、棚から酒瓶を取り出す。レシピを頭に浮かべながら、チェリー・ブランデーを少し口に含む。フルーティーな甘い風味に微か残るほろ苦さ。喉の奥が熱を帯びていく。渇望とともに。今はバーテンダーに扮した私がアルコールの力を借りるというのもどうかと思う。だが、貴女にそこまで言わせてしまったのならば、もう後戻りなどするまい。
    「……全て、飲み干してしまおう」
    「何か言った?」
    「いいえ、独り言です。さあ、出来ましたよ」

    カクテルグラスに注がれた深紅のそれは、四郎の纏う赤いマントとストラを彷彿させた。その一方、吸血鬼が嗜む鮮血のようでもあり、微かな背徳感を呼び起こす。不思議な感覚に戸惑いながらグラスを見つめていると、彼の分も完成したようだった。
    「四郎、このカクテルの名前は?」
    「……乾杯」
    それまでこちらが尋ねないことまで饒舌に説明してくれていたのに、彼ははぐらかすように微笑むだけだった。

    最後の一杯を飲み終わり、時計を見ると、ちょうど日付が変わる頃だった。そろそろ閉店の時間としましょうか、と四郎は傍の看板を「CLOSED」にひっくり返した。お客さんはわたし一人しかいない店なのに。またクスクスと笑っていると、区切りをつけるために必要なのだと彼は答えた。
    わたしも片付けぐらいは手伝おうと立ち上がり、カウンターの向こう側へ。
    「あっ、その前にお会計しないとね。いくら?」
    QP足りるかなと礼装のポケットを確認する。今日はシミュレーターでそこそこ稼いだから問題はないはず……。
    「要りませんよ」
    「え?」
    「こちらで払っていただきますから」
    不意に抱き寄せられ、耳元に唇を寄せられる。耳朶を熱い舌先が這う。次いで、唇で食むように責められる。彼が喉を鳴らす音。ただのくすぐったさだけではない感覚に、声が抑えられない。
    「耳まで甘くなりましたね」
    「そんなことあるわけ……っあぁ……」
    「リツカ、今宵の貴女はどのような味がするのでしょうね?」
    わざとらしく舌なめずりをする音に、背中がぞくりと粟立つ。だけど、四郎にされるのは……嫌じゃない。たぶん、この続きも。
    「貴女の気になる人が誰なのか分かりませんが、私も今夜は素直になろうと思いまして」
    「いやいや、言わなくても絶対分かってるよね?」
    「わかりませんねえ」
    彼は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、指先でわたしの顎をすくう。
    「……っ、四郎……」
    「俺は貴女の口から聞きたい」
    彼の冷たい指が、火照った唇に触れ、愛撫するように唇をなぞっていく。覗き込む琥珀色の瞳は熱を帯び、その奥には聖職者らしからぬ情動が揺らめく。
    「では、交換条件と行きましょうか」

    「最後のカクテルの名前、教えて差し上げましょう」
    明かりを落とされ、唇を奪われる。舌先から感じる微かな甘さと痺れるような感覚に、思考がぼんやりしてくる。身体から力が抜けていく。なのに、唇に、耳元から首筋に、落とされるキスは癖になりそうなくらい気持ちよくて、無意識のうちに彼の唇を求めてしまう。
    もしかして媚薬でも入っていたのだろうかと疑うも、絡め取られるような快感にはもはや抗うことはできなかった。
    その、罪深いカクテルの名前は。
    (終)
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