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    cue(久屋商会)

    身内だけのカラオケみたいな感覚でやってます( ゚Д゚)< リアクションアリガトウゴザイマス

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    cue(久屋商会)

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    ・誕生日ボイスより
    ・マスターの誕生日は7/30(アプリ配信日)の設定
    雨音様からリクエスト頂いたお題で書かせていただきました。ご指定頂いた誕生日が活発美少女のイメージ通り…!素敵なお題ありがとうございました。

    天ぐだ♀/巡り、その季節にそっけない言葉は照れていたからだと気付いたのは、随分後になってからのことだった。
    ルーチンワークのようになりつつあった部屋の掃除のためにマイルームを訪ねてきたかと思えば、出入り口でだしぬけに渡されたのは季節の花束。反射的に「ありがとう」と返したものの、つい数時間前まで聖杯をめぐり追いかけっこをしていたのは一体何だったのかと受け取った花束をまじまじと見ていると、手元にあったそれが視界から消えた。
    「掃除ついでに、花瓶に入れておきますね」
    余韻とは。渡して十数秒で取り上げた花束を手に、天草は普段通りの足取りで部屋へと入っていく。すれ違いざまに甘い花の香りが鼻をくすぐり、無意識のうちに微か混ざる彼の残り香を探してしまう。
    振り返ると、もう天草の姿はなく、簡易キッチンで作業に取り掛かっていた。蛇口からざばざばと水を出す音が聞こえる。隣に立って「手伝うよ」と声をかけても、天草は受け入れてくれなかった。
    最初からそのつもりだったのか、ご丁寧にも花を切るためのハサミや延命用液剤まで持ち込んでいたらしい。
    手際よく水切りをする様子を横で見ていると、植物に関することを色々説明してくれた。切り花を長持ちさせる方法から始まり、日本の生け花の起源や昨今のフラワーアレンジメントについてまで。相変わらず雑学に長けてるなと感心する。
    「はい、できましたよ」
    「ありがとう」
    大ぶりの白い花瓶に生けられた花束。中心には鮮やかな黄色のひまわりが花開き、夏らしい印象を与えた。オレンジと黄緑の小さなバラと繊細なかすみ草が華やかさを引き立て、グリーンが全体を引き締める。
    整理する暇もなく、テーブルに雑然と積まれていた誕生日プレゼントの中心に花瓶が設えられた。こうして見ると、クリスマスツリーの下に置かれたプレゼントのようだと言えなくもない。
    「さすが、サンタアイランド仮面」
    「はて、何のことでしょう。折角ですからお茶にしますか?ご用意しますよ」
    答えを聞くこともなく、天草は再びキッチンへと消えてしまった。

    今年はどうするのだろう。今やマイルームに文字通りおはようからおやすみまで常駐している天草をちらと見遣る。
    テーブルにはスタッフや他のサーヴァントたちから貰った誕生日プレゼントが整然と並べられていた。プレゼントが届けられるたびに天草が都度整理してくれているおかげだった。些か牽制しているように見えるのは多分気のせいだ。多分。
    「マスター、すみませんが」
    「なに?」
    「少し席を外させて頂きます」
    「何か用事?」
    「……はい」
    いくらなんでも、切り出し方が下手すぎないか?カルデアでも策士名高い天草四郎様だろう。心なしか頬と耳が赤いような気もする。ここまであからさまだと、こっちまで動揺してしまう。
    とはいえダメだと言うわけにもいかず、午後のマイルームに一人残される。なんとなく流していたクラシックのBGMだけが一人の部屋に響き続ける。
    今年もプレゼントは花束なんだろうか。であれば、今度こそ水切りの準備でもしておくべきか。いや、それだと待ってたみたいじゃないかと思い、キッチンに向かうのをやめる。第一、違っていたらどうするんだ。バレンタインのお返しが毎年教会式手作りクッキーだからって。マイルームを一人でうろうろしながら考える。というか……期待しすぎじゃないのか、わたし。
    「ああもう、やめたやめた!」
    精神集中のために筋トレを始める。古典的手法だが、数多の英雄が(リアルに)言っているのだから間違いない。ベッドの下からダンベルを二つ取り出す。BGMをクラシックからワークアウトミュージックに切り替える。ああ、誕生日に一体何をやっているのだろう。
    2セット終わったところで、扉が開く音がした。待っていたのを悟られないよう、入口に向かう。

    「誕生日おめでとうございます」
    わざわざ着替えたのか。いつぞやのホワイトデーに披露された怪盗の装いに変わった天草。クリスマスも同じ格好だったし、彼なりの正装のつもりなのだろうか。カルデア内部に四季は無いとはいえ、真夏に随分暑そうな格好だと彼の霊衣を改めて見る。
    「はい、花束です」
    そっけない言葉は去年と同じだった。
    「ところで、マスター。一つお聞きしたいのですが」
    「ん?」
    「その、両手に持っているダンベルは一体」
    指摘されて初めて、ダンベルを持ったまま出迎えてしまったことに気付く。
    「ほ、ほら、最近物騒だし?ノウム・カルデアだっていつ襲撃に遭ってもおかしくないし、常に鍛錬は必要じゃない?えっと、それに……」
    「ええ、違いありません。……ふふ」
    ダンベルを持って身振りで示しながらしどろもどろに説明する立香に、天草はクスクスと笑う。去年の今頃は見せたことのない表情だった。
    天草は立香が両手それぞれに持っていたダンベルを片手で軽々と二つ取り上げると、小脇に抱えて花束を渡した。サーヴァントとはいえ、あどけなさの残る顔に似合わないその筋力に、戸惑いの表情とともに立香の口から出たのもやはり、去年と同じ「ありがとう」だった。

    * * *

    部屋に花を飾ってお茶でもと思いきや、「少し散歩でもしませんか?」と外に誘われたのは予想外だった。
    夕飯を兼ねて食堂で開いてくれるという誕生日パーティーまでまだ時間はある。今日は朝からずっとマイルームに入れ代わり立ち代わりやってくる皆と話して一日が終わりつつあった。もちろんそれは嬉しいし幸せなことだと思うけれど、抜け目のない聖杯怪盗にまんまと盗み出されるのも、それはそれで密かに高揚感を覚えてしまう。ハットを目深にかぶり直した天草に手を引かれ、皆に見つからないよう抜け道を使いつつ、その場所へ。
    レイシフト先もまた真夏だった。青空に白い入道雲。一面に広がるひまわり畑。自分たちの背の高さと同じくらいまで伸びたひまわりの花は、燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びて黄金色に輝いていた。
    持っていた花束のひまわりと見比べる。この花束のそれも、まさかここで育てていた、なんてことはないだろうか。
    「はっはっは、ご明察です、マスター。昨晩の追いかけっこは陽動作戦。このひまわり畑も密かに入手していた聖杯を用いて……」
    「なんだって?」
    「冗談ですよ。はは……」
    立香の低い声に、苦笑いしながら両手を挙げる天草。聖杯を狙われては阻止を繰り返し、その度に子供じみた罰を与えるという様式美も、根底にある関係性は二人も気付かないうちに少しずつ変わりつつある。
    天草は怪盗風の霊衣から陣羽織にその装いを変えていた。これはこれで暑そうだが、不思議と違和感はなかった。彼が歩くと、足元まで届きそうな、銀色の長い髪が風に揺れてきらきらと光る。何度見ても、天使の羽のようだと思う。

    春に芽吹き、夏に大輪の花を咲かせ、秋にはその花を枯らすも、種子という実りを残す。
    「ところで、ひまわりの種もなかなかオツな味ですよ。ピーナッツやアーモンドと似たようなものですから」
    「クッキーに入れたら美味しいかも」
    「来年のバレンタインの参考にさせていただきます」
    天草四郎おすすめの土産と称した怪しげなパッケージの手作りクッキーはアーモンド入りだったか。具体的な名称はどちらも一切出していないにもかかわらず、当たり前のように同じものを想像して共有している二人。
    ひとしきり笑いあい、天草は遠い目をして言った。
    「季節の移り変わりを当たり前に感じることができる、そんな平和な世界を私は望んでいる」
    この場所は、彼を指導者として起こった一揆――島原の乱の舞台となった土地を元にした微小特異点だった。
    光届かぬ灰色の雲の下、吹きすさぶ冬の風を耐え忍び、再会の春を待つ。
    だが、鮮血と業火によってその季節は二度と訪れることはなかった。旧暦二月二十八日、現代でいえば四月十二日。四季は閉ざされた。
    真夏の晴れ渡る空の下に広がるひまわり畑に、彼の心象風景に描かれる地獄のような世界が上書きされるように重なる。否、これが本来の世界なのだろう。これまで壊してきた、異聞帯と同じように。
    行き止まりの歴史だったとしても、斃したそれもまた誰かが命懸けで成そうとした正義の一つであったのだ。その事実は永遠に背負って生きていかなければならない。
    たとえこの世界が平和に満ちたとしても。
    「きっと貴女は自分のことを顧みないのでしょうから」
    「えっ?」
    天草は立香に微笑んだ。
    「巡りゆく季節と共に成長し、愛する人と出会い、縁を結び、沢山の人に愛されながら生きていく。貴女にも、ありふれた幸せな人生を歩んでほしい。ひまわりのように、そこにいるだけで皆を明るくする貴女に。貴女が生を受けたこの日に、私は伝えたかった」
    季節の花を贈ってくれた理由を知り、気付けばぽろぽろと涙が零れていた。思わず花束を握りしめてしまう。セロハンの包装がくしゃりと音を立てる。天草はわたしにも平和な日常が訪れることを望んでくれている。嬉しいけれど、わたしは……。
    「ありがとう、天草。だけど……」
    言葉を失ったまま、抱き寄せられた。切り花の緑の香りから、彼の陣羽織の感触とともに、衣装に纏わせた香料の匂いに包まれる。
    幾度となく血の匂いに掻き消されては、その香りに勇気を貰った。大丈夫、まだ戦える。天草はまだわたしの手を取ってくれる。そう信じることができた。
    だけど、顧みないのはきっと天草も同じだ。人理修復が終わっても、彼が言う救済が成し遂げられたとしても、彼だけはずっと、あの地獄に閉ざされたままなのではないか。彼が天草四郎時貞である限り。
    天草の願うその幸福を君自身にもと思うのは、人として傲慢だろうか。サーヴァントという、英雄のあなた・・・には。
    それでも、どうしても伝えたいと思ってしまうのは。
    「……好きだから。天草のことが」
    藤丸立香は聖人ではない。良くも悪くも、分け隔てなく明るく優しいと評されることもあるが、天草に向けた感情がそれだけでは説明のつかないものだと薄々理解はしていた。ヴェールのように纏わせたそれを恋と呼んでいいものか、躊躇っては先送りにしていた。
    「誕生日に言うのは狡いかな」
    答えを期待して言ったわけではないが、一度口に出してしまうと、照れ隠しに次々と言葉を足してしまいたくなる。
    「マスターが駆け引きを苦手となさっているのはよく分かっていますから」
    「フォローしているようでディスってない?」
    つい先ほどまで泣いていたというのに、普段の調子で口をとがらせる立香。
    天草は愛おしそうに微笑み、立香の唇に人差し指で軽く触れた。まだ火照った立香の顔に手を添え、引き寄せる。そっと、彼女の名前を呼ぶ。
    潤んだ目が閉じられると、溜まっていた涙が一筋、頬を伝った。

    身体を離すと、立香は目元を擦って涙の痕がないか確かめ、再び花束を胸元に抱いてにっこりと笑った。
    「魔力供給、手伝うよ。天草、わたしを帰してから一人でこの場所を壊すつもりだったよね」
    「分かっていらっしゃいましたか。ですが、本当にいいんですか?」
    「ここは綺麗だけど、本当の平和を取り戻さないと」
    「貴女はそういう方でしたね」

    美しいが、正しくはない。
    この場所は、永遠に夏で止まったままだから。

    手元に残されたのは、ひまわり畑と比べれば小さな花束。だが、これが今の現実だ。
    それでも前を向いて歩いて行けるのは、他の誰でもない天草が贈ってくれたから。
    「ところで、天草もやっぱり狡いよ」
    「どうしてですか」
    「誕生日に季節の花を贈るなんて。それも毎年同じ花を」
    それはお互い様です、と天草は答えた。

    毎年、夏の花が咲く頃。
    わたしは君を思い出してしまう。
    俺は貴女を思い出してしまう。
    君が毎年くれた花束の花が、今年も咲いている。
    貴女に毎年贈った花が今年も咲く頃だ。

    いつか離ればなれになったとしても、その花は毎年変わらず、大輪の花を咲かせるのだから。
    ひまわり畑を背にしたその姿は、確かに縁として心に深く刻まれたのだろう。
    (終)
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