「しかしおかしなものだね、私をよがらせたところで君に快楽など一つもないというのに」
帰宅するなり早々、だった。
薄暗い寝室に連れ込まれて押し倒され、仰向けになったダブルサイズのベッドからその瞳を見上げれば、大体の察しはついた。
仕事着そのままのブラウスのボタンを自ら外していきながら、私はぼやく。
「たまにはいいんだよ、私から触れてやっても。君が受け入れられるのなら、だがね」
「断る」
「えー、なんでだい」
「…」
「…答えたくないなら無理には聞かないが。君、私以外に話せそうな相手なんているのかい」
「うっせ、」
「ああ拗ねるな拗ねるな、悪口じゃないったら。むしろ自負みたいなものだ、私だって、君ほど意思の伝達に摩擦を生じない相手なんて他にいないんだから」
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