学園卒業後、一人暮らしをしているシャカの元にはタキが度々やってくる 必然だろ、と嘯いた。
どこでどう手に入れたか知れない合鍵を使って今日も部屋に潜り込んできているそいつは、オレの寝転ぶベッドに上体だけを預けて溶けかけの猫のようになりながら、赤い瞳を光らせた。
「元々噛み合わない形に生まれついてンだよ、分かんだろ」
「では逆に聞くが、君はこの世に『完璧に噛み合う』物同士が存在するとでも思っているのかね」
「思わねーしそうじゃねェだろ。現実噛み合おうがそうでなかろうが、噛み合う『ために』造形されたモノ同士ってモンがあンだろーが」
「そうとも、だが生物は無限の試行の中で稀に用途以上の利用法を会得することがある、正にそれこそ――」
「セレンディピティな、知ってる知ってる」
「…」
数秒の後、耳が萎れ、首が垂れ、溶けかけの猫が完全に溶けた。
辛うじて尻尾だけが、不貞腐れたように床を低く這っている。
「…拗ねてんのかよ」
「少しね」
「こっち来い」
「…ん」
手招きすると、栗毛は存外大人しく側に這い来て、またぐったりと丸くなる。
すっかり手に馴染んだ形のその頭をわしわしと撫でながら、経緯を思う。
概ね自由恋愛が許される現代において、例えばウマだとかヒトだとか、男だとか女だとかをとやかく言うような奴はもう早々いるもんじゃない。オレとこれも、それに肖って手を取ったような仲だった。
とはいえ男女の別というのは元々番うためにそういう形をしているのであって、片側だけを二つ集めれば、どうしたって互いにしっくり来ない部分は出てきてしまう。
そして幸か不幸か、オレとこいつは揃って見て見ぬ振りが出来ない性分だった、というわけなのだった。
「なんか、ヒく」
長らく黙ったままの栗毛を掻きながら、呟く。
「何がだい」
「お前が言い返して来ねェのがだよ。お得意の可能性の果てはどうした」
「自分のことならそうするさ、だが他者まで変えられると思ってするのは傲慢でしかないじゃないか」
「…オレかよ」
「そうだよ」
アーーーー面倒臭ェ。
こいつの面倒臭さは今に始まったことじゃあないが、それでも昔はまだ、その視線はゴールラインの先に向けられていたからマシだった。
一通りのものを手に入れて第一線を退いた今、その視線は、他ならぬオレを向いている。
仕方なく呟く。
「…諦めてるわけじゃねえんだよ」
「分かるさ」
「ただ、…なんつーか、なァ」
「測りかねている、だろ?」
「…かもな。お前の形を、測り兼ねてる」
「違う」
「ア?」
「君自身を、だよ」
「…アー…」
バレてるわ、これ。
触れたい、と再三伝えてくるこいつをのらりくらりといなしておきながら、その実満更でもないと思い始めているこの内心が。
撫でていた腕をもたげ、掌を天井に透かして見れば、指の隙間から漏れる照明が眩しい。
欲しいのは、きっかけ。
オレは白々しく呟いた。
「…成程、な」