No.6トリクル・トリクル(オクシアSS)※ローバはオクシアが付き合ってる事を知っている設定
※CP表現は無いですが一瞬ヴァルキリーの匂わせあり
右手の、中指。しなやかなその指に輝く紫色の宝石は、ゴールドのリングと相俟って彼の美しさを然り気無く、けれども一際上品に引き立てている。
「その指輪、素敵ね。とても良く似合ってる」
「貴方の審美眼に叶うとは光栄です」
その言葉が嬉しかったのか、シアは帽子を脱いで胸元へ押し当てると、恭しく腰を折った。
彼自身のセンスは申し分ないのだが、指輪のそれは彼のものとは少し違うように思う。ローバは好奇心を隠さずに、浮かんだ疑問を口に出してみる。
「贈り物かしら?貴方が着けるなんて、よっぽどお気に入りなのね」
「おやおや、流石ですねぇ。そこまで見抜くとは」
そう言ってハットを目深に被り直したシアは、肚の底を読ませない笑みを唇に浮かべた。ゲームに着けて来る位なのだから素直に喜べば良いだろうに、妙に可愛い所もあるものだと彼の新たな一面を垣間見た事に驚きつつ、指輪へと視線を落とす。
「でも…ちょっと意外だわ。そんな贈り物が出来る人には見えなかったけど」
「中々どうして、人は見掛けによらないものですよ」
見られている事に気付いたのか、シアが然り気無く指輪を隠すように掌を重ねたのを見て、視線を反らす。
少なくともローバには、あのがさつで少々品性に欠ける男がシアと釣り合っている様には見えなかったのだが、こんな繊細な美的センスを持ち合わせているとは思わなかった。
なるほど、確かに人は見掛けにはよらないものだ。
「爪を隠すのが上手なのね、貴方の恋人さん」
「伝えておきましょう、跳ね回って喜びますよ」
呆れたような声色と、真偽はともかく容易に想像できるその姿に思わず笑ってしまう。人の恋路に興味など無いのだが、何故かこの二人は見ているのが楽しくて、ついちょっかいをかけてしまう。そこでふと、最近聞いた話を思い出してローバは唇に指を添えた。
「ねぇ、紫陽花って花を知ってる?」
「土壌によって色が変わる花のことですか?」
「そう。青や紫、白、赤。沢山の色があって綺麗なの。紫陽花の花言葉は…」
「高嶺の花。まぁ他にも多々あるようですが」
「凄い、貴方って本当に博識なのね。その通り。そして色ごとに、花言葉も少しずつ違うの」
「それは初耳ですね」
肩を並べ、まるで二人で散歩でもしているように語りながら歩く。実際何も知らない人間が端から見れば、美しい男女がただ談笑しながら優雅に歩いているようにしか見えないだろう。
「貴方の指を見てね、思い出しちゃった。紫の紫陽花の花言葉。気が向いたら調べてみて頂戴?」
「解りました。それにしても、随分と詳しいんですね」
さすがに自分ばかり詮索されるのにも飽きたのか、軽く牽制をし返されローバは笑った。女心は複雑だが、彼になら少し位は見せても良いと思える程度には、認めている。
「ええ。最近、そういう話が好きな子が教えてくれたの」
「なるほど、そうでしたか」
そしてそれ以上踏み込んで来ない所も、好感が持てる。つくづくあの男には勿体ない位の宝石だと思うが、人と人との感情なんて、他人には理解できないものだ。
そしてローバは思う。もし彼への贈り物の指輪にまつわる事柄の一つ一つが、全て送り主の考え通りなのであれば。
「…やっぱり、貴方達ってお似合いなのかも。妬けちゃう位に」
「おやおや…何か悩み事でも?私で良ければ話を聞きますが」
「ありがと、私の天使さん。けど大丈夫よ」
軽くリップ音を立てキスを投げるポーズをすれば、シアはやれやれと肩を竦めて、おもむろに背負っていたスナイパーライフルを構える。他のライフルとは一線を画す造りのそれは、先ほどケアパッケージから支給されたものをローバがブラックマーケットで頂戴したクレーバーだ。
「12時方向に三人。まだこちらには気付いていないようですねぇ」
「あら、お宝は持ってきてくれたかしら?ワクワクしちゃう」
「退屈は美の敵です。派手にやりましょう」
戦いの事となると、途端に声色が変わるこの男は本当に不思議だと思う。息を止める気配と共に、挨拶代わりの重低音が鳴り響く。
「敵がダウン」
淡々とした声に、ローバはヒールを鳴らして走り出す。想定外の射撃に混乱しているであろう彼らの元へジャンプドライブを投げて一気に近付き、アサルトライフルを構えた。
「さぁ、ショータイムです」
マイクロドローンが展開され、見るも美しいショーケースが幕を開ける。ローバはまるでその舞台の主役になったような気持ちになりながら、迷うこと無く引き金を引いた。
・・・
No.6トリクル・トリクル
(歩く 宝石 紫陽花)