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    さんじゅうよん

    @kbuc34

    二次創作の壁打ち。絵と文。

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    さんじゅうよん

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    らくがきなのですいこうしてません。過去捏造。何でも良い方むけ。ちっこい五がちっこい歌にばったり会ってを助ける話。

    ##五歌

    子供の頃に五に会ったことのある歌のはなし がさり、と青草を無情に踏み折る音がした。
     場所はとある廃工場前である。錆びた金網に囲まれて、朽ちた屋根と壁を青々と蔦が這い茂る、いかにもといった雰囲気の廃墟であった。
     そんな今は使われていない工場の入り口に、幼い少年が一人佇んでいた。遠目にもあらわな整った顔立ちをしている。
     しかし、何より目を引くのは短く揃えた髪の白だ。新雪のごとき汚れ知らずの色合いは老いた老人に準えるにはあまりに清く、古びた建屋を見上げる瞳の青を知れば、日本人離れした容姿に異邦人か何かかと大抵の人間がその出自を訝しんだことだろう。
     その子供は、自分の背丈の何倍もあるだろう工場跡を、酷くつまらなさそうに見上げていた。
     そして何を思ったのか溜息を一つ、気の進まない様子で脚を踏み出し、がちゃがちゃと乱雑に鎖の巻かれた入り口に小さな手を伸ばした。
    「────ちょっと」
    「?」
    「何やってんのよ、あんた。こんなところで」
     危ないわよと張り上げられた声の方を彼がのそりと振り向くと、草を掻き分けるように、舗装の割れたアスファルトを蹴って少女が一人駆け寄ってくるところだった。二つに結んだおさげ髪、前髪は眉の上で切り揃えられ、膝丈のプリーツスカートに赤いランドセルを背負っている。
     胸には庵と名札があった。
     少年よりも頭一つは大きい。年上だろう。
    「ナニオマエ」
    「なっ……失礼なやつね……ッ。ちびのくせにっ……」
    「うざ。身長なんて、そのうちのびるし。……で、おまえ、なんなの?」
     邪魔をするなと少年が退屈そうに唸る。
     少女の方は、年不相応に鋭い眼差しに一瞬怯んだ様子を見せたが、すぐに拳を握って務めて静かにこう語った。
    「……ここ、危ないのよ。立ち入り禁止って書いてあるでしょ? 入っちゃダメなところなの」
    「へえー」
    「ッ……。いいから、はやく、帰りなさいよっ。この間だって事件があったみたいだし、それに……本当に、ここ、危ないの」
     絶対近づいたらだめ。
     苛立ちを押し殺したような顔をしていたのは最初だけで、引き留めるように手首を掴んだ手は必死そのもので、黒々と丸い瞳には切々とした訴えが滲んでいた。
     これには彼も意外と感じて、思わず片眉を持ち上げる。
    「ふうん。おまえ、こっち側?」
    「は?」
    「でも、すげえ弱そう。そっちこそ、怪我しないうちにさっさとママんとこ帰ったら?」
    「あ、あんたね──────、ッ! ちょっと!」
    「じゃーな。オバサン」
    「おば」
     見知らぬ少年は彼女の手を振り払うと、べえ、と舌を出してフェンスの向こうに走っていってしまった。
     歳下だろうが同じ子供の括りに入る相手に年増扱いされて気色ばんだのも一瞬のこと、ひらりと、軽やかに、日の暮れかけた廃屋に駆け込んでゆく小さな背中に、パーカーのフードがぱたぱたと上下するのを知覚したその瞬間に少女もぱっと走り出す。
    「ま、待ちなさいよ!!」
     危ないのだ。本当に。
     大人に言ったところで、決して、信じてはもらえないけれど。でも、この場所は普通ではない。あんな小さな子が一人で中に入って、無事に戻ってこられるとは到底思えなかった。
     ────実際、もう何人も、いなくなっているのだから。





     白髪頭の綺麗なお人形のようなクソガキは、案外すぐに見つかった。
     息を切らして駆け寄ると、大きな声で叫ぶ。
    「もう! あんたバカなの!? こんな奥まで入り込んで……すぐ戻るわよ!!」
    「やだ」
    「やだ、ってあんたねえッ」
    「お前が帰れよ。なにのこのこついてきてんの? 足手まといなんだけど」
     高い声音で忌々しそうに吠える。
     これ見よがしに舌打ちまでくれて、鼻の頭に皺を寄せて歯を剥く姿は野犬が威嚇をするようだった。
     子供のくせに、ちびのくせに、場慣れしている空気をひしひし感じて、ついたじろぐ。こいつ、なんか、得体が知れなくて怖い。
     それはどこか、ここに棲みつく「怖いもの」とどこか、似ていて。
     ……いや、そんなこと考えている場合じゃない。今すぐこの子を連れて、ここを離れなくては。
     幸いアレはこの建物の外からは出てこないようだし、目をつけられてしまう前に、屋外に出られればまだ間に合う。
     ぞぞ、とずっと、嫌な気配がしていた。それは次第に距離を詰めてきていて、今ではもう間近に迫っている。このままでは拙い。
     悠長に説得している場合ではなくなった。
     改めて、自分よりも細くて小さな手首を掴む。
     力に任せて無言で乱暴に引いたものの、しかし、男の子はびくともしなかった。慌てた顔で振り返る彼女に向かって、場違いに、にやりと口元を歪めながら、掴んだ方とは反対の手を目の高さまで掲げて、少女の背後に潜む「なにか」に向かって指を差す。
    「ばぁか。もう遅えよ」
    「──────ひ」
     直後、悍ましい気配に包まれて周囲は闇に呑まれたように暗転し、天地も定かではない暗黒の中、耳を劈く高い悲鳴を聞かされながら、ただ、無我夢中で手を伸ばす。





     ……覚えていないのだろうな、と随分前からわかっていた。
     私にとっては特別な思い出でもこの馬鹿にとってはありふれた日常だったに違いない。少し年上の、ちょっと呪いが見えるだけの、口煩い女の子のことなんて記憶に残すほどの興味も持たなかっただろうことは容易に想像がつく。
     思えばあの頃から、生意気で嫌味っぽくて人を小馬鹿にする腹立たしい野郎だった。十年経っても変わっていなかったし二十年は過ぎた今も同じまま。唯一変化らしい変化といえば、初めて会ったあの日には見下ろしていた青い目を、今では見上げることになったくらいだ。
     呪術師になったきっかけをしつこく聞かれて懐かしい記憶をぼそぼそ白状した後で、私は、向かいのソファに腰掛けた男をじろりと睨んだ。
     陰の色すら透き通った白髪を黒い目隠しで押し上げた、いつ見ても相変わらず胡散臭い後輩は、自分で尋ねておいてさして興味もなさそうに続きを促した。
    「で、その後は?」
    「その後って、別に、何もないわよ。気付いたら病院だったし」
     あの廃工場ででくわした呪霊は、今思えば二級は優に超えていた。私は呪霊の放つ呪いの気配にやられて気を失ってしまったのに、それを、笑いながら平然と、一瞬で仕留めた幼い五条の実力たるや。子供の頃からああも規格外なのだ、早々に特級として認められへらへらふらふらと強さを誇るのもまあ無理はないかと納得はしてしまう。
     病室で目を覚ました私のそばには両親がいて、無事で良かったと泣かれた後にしこたま叱られた。廃工場で倒れているところを、匿名の通報を受けた警察が駆けつけて発見したらしい。
     何があったのかと聞かれても碌に受け答えが出来ず、最初こそ誘拐未遂ではと大騒ぎになったが最終的には有耶無耶になっていつの間にか忘れ去られた。きっと、高専か五条家が裏から手を回したのだろう。不自然な幕引きに当時は首を傾げながら、その違和感が廃墟にはあんまりにも不似合いに綺麗だった、あの男の子を彷彿とさせて更に口が固く閉じた。
     以降、二度と会うこともなく、中学卒業を機にスカウトを受けて呪術師となった。
     卒業間近の四年生になってまさか再会するとは思わなかったが、失礼な物言いに合わせ、奴が私のことを全く覚えていないとわかって余計に腹が立って必要以上に激しく噛み付いてしまった。そんな日々を繰り返して、十年経った今ではもう脊髄反射で悪態が飛び出る。これでも必死に抑えているのだが耐えきれない。本当に、本当に、存在自体がストレスの要因なる迷惑極まりない男だった。
     ────本当は、会って、お礼を言いたかった。
     だって、助けてくれたのだ。
     物のついでだったのかも知れないけれど。それでも、命を救われた。
     あの時助けられた命だから、私も、そのように命を使おうと決めたのだ。
     だが。
    「ふーん。歌姫、そんなことがきっかけで、呪術師になるって決めたのー?」
    「……そうよ……」
    「っへえ〜ふう〜ん……?」
    「…………ッ」
     しかし、当の命の恩人が、こうである。報われないどころの話ではない。
     五条は、つまんねえ、とでも言いたそうに口元を結んで脚を組み、両腕を椅子の背に投げ出して、小首を傾げる。
     そして、とんとん、と軽くこめかみを指の先で叩いた後、突然閃いたとばかりに手を叩いた。
    「────あ! もしかして、そのちびっ子に惚れたとか?」
    「は?」
    「だってさあー、仮にも恩人でしょお? 第一印象最悪でも、呪霊倒すとこ見て、かっこいーって思ったんじゃない? ギャップ萌え的な」
     急にはしゃいだ様子で早口になる男に向かって、私は半眼を向けた。
    「あんた馬鹿なの? 話聞いてた? そいつが術式使う前にぶっ倒れたのよ私は……っ。生意気な口利かれたところしか覚えてないのにどう惚れんのよ」
    「えー。じゃあ、なんで助けられたってわかんだよ」
    「いくら当時子供だからって、状況的にそのくらいわかるわっ。……大体、病院で起きた時、私そいつの残穢まみれだったのよ。気付かない方がおかしいでしょッ」
     これでも生まれつき呪霊が見えていたのだ。五条程でなくても、呪力である程度人を判断できる。この馬鹿みたく強烈な物ならば尚更だ。
     ああもう、やっぱり、むかつく。
     いくら何でも私を過小評価し過ぎだろうと睨み付けると、五条はへらりと笑って見せた。
    「……はは。やっぱ変わってんな、歌姫。普通、その程度じゃこんな仕事で命張れないんじゃね? 辞めたら?」
    「辞めねえよ馬鹿!!」
     実際張れているのだから何も問題はないだろう。小馬鹿にされる謂れはない。
     だん、と机を勢いよく叩くと立ち上がった。
     ソファを蹴倒す勢いでその場を離れ、部屋を出ようとすると、背中にへらへらとにやけた声が追いついてくる。
    「何だよ歌姫ぇー、いきなりヒスってどこ行くんだよー?」
    「うっせえ! 先に会議室行ってるッ……これ以上、あんたと、顔合わせてらんないっつの……!!」
     ばか、と最後に捨て台詞を吐いて舌を出す。
     やっていることが三流じみていて悔しさが増したものの、今は我に返るのはやめて、お行儀悪く廊下を駆け抜けた。





     奇しくも二十年前の僕と同じ仕草である。
     三十過ぎの女がやっていい仕草ではないが、間抜けで可愛かったのでよしとしよう。
    「覚えてないなんて、一言も言ってないんだけどなあ」
     まあ、高専入学時、初めて顔を合わせた時にすっ惚けたのは事実だが。妙に記憶を美化されて執着されては面倒だし。我ながら生まれつき抜群に顔がいいので、こんな性格の悪さでもそこそこにモテる。
     様子見のつもりだったのだ。
     一目見て、あの時の女の子だとわかっていた。生真面目そうな目つきも柔らかく馴染みの良い呪力も当時のままだった。
     庵歌姫と名乗るのを聞いて、ああ間違いないと確信して。何も覚えていないふりで、歌姫、と気軽に呼び掛けた途端にぐしゃりと歪んだ顔で苦言を呈す姿に、初めて彼女と出会った幼い日をありあり思い出して、楽しくなってしまった。
     懸念事項は杞憂でしかなかったと早々に知れたものの、怒りと苛立ちとその他諸々の感情を抱えて複雑そうに睨む姿が面白おかしくてならなくて、十年そのまま放置してしまっている。
     呪術師になったきっかけを聞いたのは純粋に興味本位だった。
     が、もしかしてここまで話せば心当たりくらい出てくるのでは、と期待しながらちらちら僕の様子を窺う歌姫は想像以上に愉快だった。
     僕に、思い出して欲しいのか。
     その割には脈の感じられないキレ方ではあったのだが、僕と同じように、今でもあの日の出会いを彼女が大切に胸にしまっているのだと知って、満ち足りた気持ちになる。
    「僕はね────あの頃からずぅーっと、歌姫が、気になってるよ?」
     気配を殺していた甲斐あって、餌場にまんまと潜り込んだ子供二人に釣られて、呪霊がのこのこ姿を現した。
     目の前の女子は声も出ないくらいに青ざめて、だから来るなと言ったのにと、内心むっとしながらも指の先に呪力を集めて。
     あとは術式を解放して、それで終わりだった筈なのに、こともあろうに震える少女は覆い被さるように自分に抱きついてきたのだ。
     怯えて恐怖から、咄嗟に縋り付いたのではない。
     それは、守る仕草だった。
     自分より一回り大きいだけの子供が、僕の急所を隠すように、脅威に背を向けて、かたかた震えながらまだ小さかった僕を深く抱え込んだ。彼女だって、僕が普通の子供でないことなんて、薄々勘付いていたはずだったのに。それでも。
     ────そんなこと、それまで、誰からもされたことはなかった。
    「忘れられるわけ、ないよねえ」
     本人の申告通り、あの時呪霊の気にあてられて気絶した歌姫は、僕が呪霊を祓ったその後も力任せに僕を抱き締めたまま決して離そうとしなかった。仕方なく、お目付役についていた大人を呼んで引き剥がして、110番し、眠ったままの彼女が駆けつけた警察に回収されるのを離れて陰から見守ったのである。
     でも歌姫は、そんなことこれっぽっちだって覚えていない。全く、忘れているのはどちらだと言いたい。
     何年経っても君の気性が変わらないから、未だに僕は片想いの真っ最中だ。まったく、期待するだけさせといて「は?」はない。唾でも吐くような顔だった。あの話の流れだったら「実は初恋で」くらいの告白はあっても良さそうだったのに。全否定された。お陰様で僕はすっかり傷心である。
     あそこで少しでも素直になってくれたのなら、その場に跪いて情けを乞うくらいの覚悟はあったものを。
    「んー、次、どうしよっかなあ」
     何はともあれ、幼気な少年の初めてを掻っ攫っておいて、知らぬ存ぜぬで塩対応など決して許されて良いものではない。なんと罪深いことか。警察が許しても僕が見逃さない。必ず、生涯かけて、償ってもらうのだともう決めている。
     その為にもまずは、あの、無意識下での諸々振る舞うお人好しぶりをどうにかしないと。考えるよりも先に体が動くのは良いことだが、己の実力も考えず向こう見ずに危険に突っ込んでいく姿は見ていてひやひやする。死体相手にプロポーズするのは、いくら僕が悪趣味で性格が悪くても出来ればやめにしたいところだ。
     無言を同意と見做すのではなく、無理矢理にでもうんと頷く君が見たい。
     まあ正直なところネタバラシしてしまえば早そうだと思わないでもないのだが、折角ならば今の僕の魅力で堕としたい。生憎と、現状これと言って手応えはないのだが。いっそ、もっとわかりやすく好きだと言ってしまおうか。遠回しに外堀から埋めるようにアピールしたところで本人に届かなくては意味がない、それに、あの女は自分で思っているよりもずっと押し売りに弱い。熱心に売り込めばそのうち絆される。最悪、脅すか泣き落とすかすれば何とかなるだろうという算段ではいた。
     まあ、最悪というだけあって最終手段だ。まだ使わない。
     今は、まだ。
    「……くくっ」
     ああでも、いや、楽しそうだな。泣き落とし。
     年甲斐もなく本気で泣いて駄々を捏ねたら、一体どうするんだろう、あの女。
     疼く好奇心を抑えて立ち上がる。そろそろ僕も、会議室へ向かわないと遅刻になりそうだ。
     今頃はもう会議室で澄まし顔をしているのだろう歌姫を想像しながら、喉の奥で笑い声を立て、通りすがりの学生やら職員やらに薄気味悪そうな目を向けられつつ僕はゆっくりと廊下を進んだ。
     
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