Blessing その日、K・Kはこれまでずっと見たきた中で一番に、美しかった。
いろいろと事情もあって保留になっていたK・Kとユキトシの結婚披露パーティが、彼女の誕生日に合わせて行われた。
簡単に宣誓だけで済ませていた結婚式もやり直し、彼女は二人の息子をベールボーイに純白のウエディングドレスを身に纏い現れた。シンプルなスレンダーラインのドレスは、細身で長身な彼女の魅力を一層際立たせており、艶やかなその姿に歓声が上がった。
礼拝堂に牧師の低く落ち着いた声が響く厳かな雰囲気の中で宣誓が行われた。指輪を交換し、キスを交わす。そうして再び湧き上がる拍手と歓声。僕はその一部始終を目を伏せまま、ただ聞いていた。
挙式が終わり二人が教会から出てくるとフラワーシャワーが始まった。
積極的な女性たちの後方に男たちは下がり、僕はさらにその一番後ろに立つ。みなの肩越しに垣間見る彼女は確かに美しく幸せで、その姿を真っ向に見据えるのが僕には眩しすぎるのだった。
「――いいのか、こんなところで」
「おや、警部補。いらしてたとは」
「なにやら案内状が届いたんでな」
「ははっ。クラウスだな、まったく」
やがてフラワーシャワーに続き記念撮影が始まり、僕らはそれを輪の外れで部外者のように眺めた。
「ほら、おまえも行ってこい」
「いいんですよ僕は、晴れやかな場には相応しくない」
「ハッ、そんなこと言って。単に根性がないだけだろ」
「わかったようなことを」
「見てりゃわかる。惚れてたんだろ」
「昔の話ですよ」
◇
ああ、そうだ。好きだった。この僕が手を出せないほどに憧れていたんだ。
共に闘えることが喜びだった。それは彼女も同じなのだと思っていた。いつも僕とのツーマンセルに不満を口にしながらも実力を認めてくれていたから。
作戦で駆り出された日々は過酷だったが、彼女と居られるのならばいつまでも続けばいいと思っていた。しかし、それは叶わなかった。
その日、彼女は初めて自らバディに僕を指名した。いよいよ実力だけでなく僕という存在そのものが肯定されたのだと僕は浮かれた。もしかしたら今の関係以上を望むことも許されるのではないか。
だが、実情は少し違っていた。
「私、妊娠したの」
だから絶対に生きて、あの人のところに帰らなきゃならない――
そう、彼女は生き残るために他の誰でもなく僕の実力に全幅の信頼を寄せて自分の、そして新たな小さな命を預けるといったのだ。
頼られたことは本当に名誉で嬉しかった。嬉しかったけれど。
「わかった。必ず、全力で守るよ」
僕はこの瞬間をもって、彼女への想いを封印したのだった。
◇
「スターフェイズ!」
「えっ?!」
警部補の突然の呼び掛けに回想を抜け出した僕は、頭上に迫るなにかの気配に反応した。
「えっ!!」
そうして咄嗟に手で受け止めたそれは人間の頭ほどの大きさの、しかしはるかに軽くて丸い花の束。それはつい先程までK・Kが胸に抱えていたブーケだった。
「スティーブン! 順番的に次はアンタでしょ!」
人垣の向こうから振り向きざまに彼女が叫ぶ。
唖然とする僕に皆の視線が一斉に注がれ、警部補の爆笑を合図に笑いが伝播していった。
いつのまにか行われたブーケトス。背中を向けて投げたそれが誰の手に渡るかわからないところに夢があるのだが、彼女はまるで見えているかのように一番後ろに控える僕を目掛けて投げてきたわけだ。
「彼女の言う通りだぞ、スカーフェイス。そろそろ火遊びは辞めるんだな」
「彼女より刺激的な人が現れたらね」
「なるほどそりゃあ難しい」
僕はブーケを高く放り投げ、皆が見上げたそのときに初めて彼女の姿を真っ直ぐに捉えたのだった。
(オワリ)