サンドリヨン タイムリミットまであと数分。スティーブンは走った。
『今日のうちに俺の部屋へ来られたら祝ってやるよ』
事務所あげての誕生日パーティー直前に届いたダニエルからのメッセージ。
毎年恒例の事だから当日に会えないのは仕方がないと互いに納得して、だから二人での祝杯は後日挙げるのがまた恒例になっていた。
それが今年はどうしたことか、これまで当日に拘ったことなどないのに。
変則的な事態には期待もあれば一抹の不安も覚えて、気が急いていたスティーブンは最上階からゆるりと降りてくるエレベーターを待ちきれず猛然と階段を駆け上がるのだった。
タイムリミットまであと数分。ダニエルの耳は廊下を叩く靴音を捉えた。
靴底に金属をしこんだ特徴的な音は誰のものかを如実に語る。しかし常ならば足音どころか気配も消して忍ぶ男が、しかも歩調は奇妙に乱れてこれはまったくどうしたことか。
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