ザク氷ちゃんの書きかけのお話「アイザック、ここ外だぞ……やめっ……あっ」
「そう言う割には随分と良さそうじゃないか」
「違……っ」
キグナス……なんて顔をするんだ……と男は思う。
氷河の艶っぽい表情に、思わずもっと苛めたくなる。耳に吐息が掛かるくらい唇を寄せながら、脇腹へと伸ばした指先が肌を撫でながらゆっくりと下へ降りていく。
「ひぁっ、あっ、あぁっ……」
「そこまでにしてもらおうか」
目の前の男と同じ声が、遠くから聞こえた。咄嗟にその方向を振り向くと、柱の影からその声の主が姿を現した。
……クラーケンのアイザックだった。
アイザックがもう一人居る?!では、目の前にいるこの男は一体……氷河の頭の中が混乱する。
「何の事やら……アイザックはこの俺だぞ」
「冗談はよせ、カーサ」
「か……カーサ…………?!」
ぎょっとして氷河が飛び退き、そして青ざめる。アイザックと信じて身を預けていたこの男は、リュムナデスだったというのか……一度ではなく、二度も騙されるとは……不覚だ。
目の前のアイザックだった男は姿を変え、元の姿へと戻った。
「氷河に何をした」
「別に何も……ちょっとした好奇心で反応を見てみたまでだ。さ、俺は去るとするか」
冷たく、そして低く唸るようなアイザックの声。クールで元々感情が表情に乗らないアイザックだが、この時ばかりは怒りの感情がはっきりと分かった。こんな声のアイザックを、氷河は知らないからだ。
それに臆することなく、カーサは薄笑いを浮かべながら氷河に背を向け歩き出す。そして、アイザックの真横を通り過ぎ……た所で、足を止め口を開いた。
「アイザック、『想い』はちゃんと言葉にして伝えるんだな。……キグナス、お前もだ」
顔だけ振り向きながら氷河を一瞥したカーサは、意味深な笑みを口の端に浮かべながら立ち去って行った。
その場に残された氷河とアイザック。
大丈夫か?!とアイザックが氷河の元への歩み寄るが、氷河は相手の顔をまともに見られなかった。俯いたまま、ぽつりとつぶやく。
「すまない、アイザック……」
「仕方ないさ……リュムナデスの幻影は、相手への想いが強い程騙されやすいと聞く」
「でも……!」
例え騙されていたとはいえ、決して許されることではないと氷河は思った。帰りたい。今すぐここから逃げ出したい。やり場のない自分への憤りが溢れ、唇を噛んだ。爪が食い込むくらい、握った拳に力が入る。刹那、アイザックにぎゅっと引き寄せられた。
「ほら、黙って納まってろ。次は間違えないように、俺の事よく覚えておけ」
アイザックの腕に、小宇宙に包まれて、氷河は落ち着きを取り戻していく。自身への怒りで戦慄いていた両手の拳が、揺れの止まったコップの水面のように大人しくなった。
……そうだ、これこそがアイザックのぬくもり、小宇宙だ。なのに、俺は……
「氷河」
名を呼ばれて、氷河の肩がぴくりと震える。アイザックの肩口に乗せた顔を上げる事が出来ずにいると、再び名を呼ばれた。
「氷河、俺はさっき……お前が俺以外の奴に触れられているのを見て……、正直、物凄く嫉妬した」
氷河の中のアイザックはいつだってクールで、生半可な事では動じない肝の据わった少年で、敬愛する兄弟子だ。そんな彼から嫉妬した、という言葉を聞く日が来るなんて夢にも思わなかった。アイザック、お前がそこまで俺の事を想ってくれていたなんて……騙されたとはいえ気付けなかった背徳感の一方で、氷河は人知れず悦に浸った。
今のように世界が平和になるよりももっと前の事だ。
死んだと思われていたアイザックは海底神殿で氷河と対峙し、全力でぶつかり合った。アイザックは敗れた。彼が手を抜いたわけではない。命の炎が燃え尽きる直前は、氷河を導くことが出来て清々しい気分だった。何も悔いはないと思っていた。
だが、アイザックは再び生を受けてこの世に戻ってきた時、そして弟弟子である氷河の顔を見た時、やり残していた本当の自分の気持ちに気付いた。生に縋りたい。生きて、氷河の特別な存在になりたい。あの時は芽生えなかった感情だった。そして、氷河に抱いていたその想いの丈を全てぶちませた。
氷河は喜んでくれた。だが、元々深い絆で結ばれていた者同士だ、友達以上恋人未満の関係だった。どこまで自分を受け入れてくれているのか分からず、キス以上の事はこれまで何もした事がなかった。
これ以上の関係を求めたら、嫌われるかもしれない。そんな思いがアイザックを押し留めていた。しかし、それは間違いだったようだ。
カーサは氷河の胸の内をアイザックに伝える為に、あんな事を……
氷河の想いを知ったアイザックは、まばたきを二つ、そして腕の中の氷河を更にギュッと引き寄せる。そして、アイザックは大きく息を吐いた後に、これまでずっと言えずにいた言葉を氷河にぶつけた。
「上手くできるか分からないが……氷河、お前を、抱かせてほしい」
「!!アイザック……俺、嬉しい……」
氷河の頬を一筋の涙が伝い、アイザックの肩口を濡らした。
(ここまでしか書いてない!🙏)