ほのぼの時空クリスマス クリスマスイブの午後11時。オレは佐野家に呼ばれていた。
家を抜け出しイルミネーションで輝く街をわき目もふらず走り、いちゃつくカップルや絡んでくる酔っ払いをすりぬけて大変な思いをしてたどり着いた。
恋人たちが盛り上がる日、オレにとっては別れたヒナとよりを戻した日でもあるけど今年はクリスマスを前に破局を迎えてしまった。
うすうすは気が付いていた。オレはヒナを性愛じゃなく親愛によりすぎた感情で愛していると。ヒナも最初はそれでよかったらしい。でもお互いその期間が長すぎてもはや戦友の感じすらあった。一旦友達に戻りましょう、となってしまったのだ。
なので絶賛暇であることは東卍メンバーの知るところだ。
マイキー君には内緒で、エマちゃんに呼び出されたのである。
「真兄がさ、クリスマスイブにサンタの振りしてくれてたんだよね。
ウチもマイキーもひねくれてるからサンタなんて信じてなかったんだけど。
うち親がいないでしょ? お爺ちゃんも子供向けのイベントとかわかんないしさ。
でも」
真一郎君が亡くなって、サンタもいなくなった。
「だからタケミっちにお願い。
今夜マイキーのサンタになってよ」
マイキー君には兄貴に似ていると幾度か言われた。正直どこが、と思う。
イヌピー君たちから伝え聞く真一郎君像はとてもかっこいい。
喧嘩が弱いくらいしか共通点を見いだせない。そんな自分が代わりなんて申し訳なさすぎる。それでもマイキー君がクリスマスを楽しい気持ちで迎えてくれたら。
マイキーは寝汚いから一旦寝たら起きないよ、枕元に置いてきて。
終わったらケンちゃんが送っていってくれるから。
エマちゃんの隣に立つドラケン君はすでになんだか旦那さんの貫禄がある。
マイキー君へのプレゼントはひとまとめにして大きい靴下状のラッピングにしてある。
「タケミっちは何入れたんだ?」とドラケン君に聞かれ、たい焼きのストラップと答えたら「タケミっち…マイキーはたい焼き好きだけどそういう好きじゃないと思う」とエマちゃんに呆れられてしまった。
まぁ、メインは別だからね。
手早くサンタ帽と髭をつけられマイキー君の眠る離れへ押し出された。その背中にぼそりと掛けられたセリフの意味を深くは考えていなかった。
「お邪魔しまぁす」と小声で言ってしまうのは、マイキー君への畏怖からだ。
でもその結果アイドルの寝起きドッキリみたいな空気になってしまい、ここに千冬がいたらつっこんでくれるのになぁと遠い目をしてしまった。
抜き足差し足でマイキー君のベッドへ忍び寄る。マイキー君の部屋は物が少ないからスムーズだ。自室の汚さを考えると、うちの親はよくおもちゃを踏まずにプレゼントを置きに来たと思う。まぁ踏んだんだろうなブロックとか。オレが気づかなかっただけで。
んう、とマイキー君が呻いて寝返りを打った。
思わず固まってしまったが、プレゼントを置いて去ればミッションコンプリート。
と、プレゼントを置いた手をわしっと掴まれた。
悲鳴を飲み込んで恐る恐るマイキー君を見れば、ぽやんとした顔でオレを見上げていた。
え、これ怒る奴?
侵入者としてボコボコにされる? エマちゃんドラケン君助けて!!
「タケミっちだぁ」
声までポヤポヤしている。マイキー君寝ぼけてる…? セーフ?
「くりすますだもんね…そっかそっか…
欲しいもん、本当にもらえるんだなぁ」
嬉しそうに笑って、ぐいっと腕を引っ張られた。
「ちょっマイキーく…」
ぎゅう、と布団の中で抱きしめられた。力強い。抜け出せない。
大声で助けを呼びたいが、離れなので聞こえるか怪しい。
あ、携帯。携帯で助けを…
起こさないようメールをカチカチ打っていたら、うるさいと投げられてしまった。
嘘ぉ。
万策尽きた。
結局朝までその状態。
体ガチガチのまま目が覚めると、しどけない姿のマイキー君に「タケミっち大胆」と言われ絶叫した。
なんだか重要なことをスルーした気がする。けれどマイキー君はその日一日機嫌が良かったので、まぁよしとしよう。
おわる。