煙草の意味 「王馬くん、煙草は身体に悪いって聞いたからゴン太やめてほしいよ…」
心配そうに眉を下げ瞳を揺らしゴン太はベランダで煙草を吸うオレにそう進言した。
「別にオレは平気だって。悪の総統として死ぬことはあっても病気とかで死ぬつもりは毛頭ないからさ!」
にしし、と冗談めかして言ったつもりだったがそんな言葉にゴン太の表情は明るくなんてなってくれやしない。
「…死ぬ、なんて言って欲しくない。それにゴン太は王馬くんに長生きしてほしいよ…それに、苦いんだよね?」
「まあ、美味しくはないよね。」
「じゃあ、なんでするの?」
「なんでって…」
ブラックコーヒーもそうだがたまにそうやって苦味のあるものを取りたくなる。そういうのを覚えたのは希望ヶ峰学園を卒業して大人の仲間入りを果たしたくらいの頃だったように感じる。何故かと思えば分からないがストレスが溜まった時、自分を傷つけようとしてしているような…そんな気がした。
「大人になるとさ、苦いものとか口にしたくなるんだよ!ほら、オレってば大人だし?」
にしし、と笑って言うがゴン太の顔は明るくはならなかった。
「いつまで辛気臭い顔してるんだよ!オレがいいって言ってるんだからいいんだよ!」
「でも……ゴン太は納得できないよ。王馬くんに自分自身を大事にしてほしいから」
「お前、悪の総統のオレに向かって何言ってるんだよ……」
呆れた声が漏れるがゴン太は悲しそうな目を向けるだけだった。
「違うよ!ゴン太は【悪の総統】の王馬くんじゃなくって、ゴン太の大好きな…友達で、恋人の王馬くんに対して言ってるんだよ!」
「!……お前なあ」
自分で何を言ったのか分かっているのか、いや…分かっていてその言葉に対しての照れというものがこの男には存在しないのだろうと思うと煙を吐き出した。
「でも、禁煙するってなると口寂しくなるもんだけどそんなオレにお前は何をしてくれるんだよ?」
「えっ?」
「オレに禁煙しろって言うくらいなんだ。何かそのためにゴン太が出来ることを提示しろよな」
「えーっと…うぅん……うぅー……ん……」
と、頭を悩ませるゴン太に笑みを浮かべる。あんなにバカだったゴン太が今や自分で考えて行動できるようになり【ゴン太はバカだから】などという自虐もすることが減り、それはオレにとって嬉しい変化だった。言いなりの人形よりも自分で考え決断し行動することが出来る人間の方がいいのは当たり前の感情だ。
「…仕方ないなぁ。どうすればいいか教えてやるよ」
「えっ?」
そういうとオレはゴン太を屈ませる。大人になっても流石にゴン太の身長が抜けなかったのは残念なことだった。
不思議そうな顔をして屈むゴン太に唇を合わせた。触れるだけでなくこの苦味をゴン太に味合わせ虐めたいという想いから舌を侵入させた。
ぎゅっと目を瞑るゴン太に満足したオレは唇を離すとあわあわとしたゴン太の顔に煙を吹きかけた
「わっ。けほっ、けほっ……もう、ひどいよ王馬くん…」
「お前が間抜けな顔してるのが悪いんだろ~!」
そう言って煙草の火を消す。
「ああ、そうそう」
「?」
「それ、意味があるからオレが風呂から上がるまでに考えておけよ」
「それって…」
「にししっ」
笑うとゴン太を一人残し部屋へと戻っていく。
ゴン太はその意味を調べて理解するのだろうか。知らなかったらそれはそれで教えてやればいい。そう思うと楽しくなってオレはスキップをしながら着替えと共に脱衣所へと向かう。
ああ、本当に。楽しみで仕方がない
-Fin-