胸に思い描くのは 「はー、一服一服…」
そう言って百田が喫煙所の中に入ったところで顔を顰めた。
「げっ」
「げっ、ってひどいな~百田ちゃんってば」
けらけらと笑いながら煙を吐き出す王馬の姿を見て深くため息を吐きながらも仕方がなく隣に座り、煙草を取り出しライターで火をつけた。
「お前がいると脳がバグるんだよな…」
「同い年なのは百田ちゃんがよく知ってるでしょ~?」
「だとしてもだ。お前チビだからな~」
「あははっ、百田ちゃんってばひっど~ぉい」
そう言いながらも二人だけの空間で身体によくない煙が蔓延していく。
「……そいやお前、ゴン太に煙草やめろって言われてなかったか?」
「そっくりそのままお返しするよ。百田ちゃんだって春川ちゃんに言われてたくせに」
「うぐっ……それはまあ、そうだけどよ……」
「オレはいいんだよ。煙草とかしないとやってられないし」
「……悪の総統ってのは、大変なんだな」
「まあね~なんたって嫌われ者だからねオレは」
「………」
そんな王馬の自虐的な言葉に何も返せずにはぁ、と百田はまた煙を吐き出した。
「そういや聞いたよ、本物の宇宙飛行士になれそうなんだって?」
「え?ああ…そうなんだよ」
「いや~よかったよね!これで春川ちゃんも浮かばれるってもんだよ」
「浮かばれるって………」
「結婚しないの?」
「ゲホッゴホッ…」
思わず咳き込んでしまう百田とは反対に王馬は特別変わった様子は見られない。
「付き合ってるんでしょ?あれ、違ったっけ」
「……違わねえよ」
「よかった」
百田の返事にそうやってにんまりと笑う。
「………本当、お前ってタチがわりぃ。いつも俺にそうやって現実を突きつける…」
「でもするつもりなんでしょ?」
「………まあ、な。」
そう重く零した言葉に王馬はまた笑う。
「つーか、お前こそどうなんだよ」
「オレ?」
「ゴン太とのことだよ。ゴン太から逃げまくってるって聞いたが?」
「……オレのことは別にいいじゃない!ホント、百田ちゃんってば物好きだな~!」
そうおどけたように言う王馬に百田はため息を吐く。
「嘘吐きだから、ってか?」
「そうそう。だから百田ちゃんも…ゴン太だってまともに相手する必要ないんだよ。オレは嘘吐きで、悪党なんだから」
幸せに何てなれっこない、そんなもの自分には手に入るはずがない――なんて言っているように思えて百田は悲しくなってしまう。
「…ま、今はそうやって足搔いてりゃいいんじゃねえの」
「は?」
「…あいつが、ゴン太が諦めが悪いってのは知ってンだろ」
「……」
その沈黙は肯定と同義だった。
「お前がいつまで逃げれるか見ものなもんだな」
そう言って百田は煙草の火を消すとぽん、と王馬の頭を撫でた後喫煙所を後にした。一人残された王馬は煙を吐き出すと煙をただ見つめる。
「百田ちゃんのばーか」
けれどその胸には、王馬が思い描くのはいつだって自分よりも素直で世間知らずで自分よりも優れた体格を持つ彼の笑顔だった。
-Fin-