相合傘 「はぁっ、はぁっ、」
雨足が強くなる中、走らなければならない理由が私にはあった。
――と目的の場所の玄関口にて理由でもある人の姿を見つけた。
「新八さん!」
「ち、千鶴ちゃん!?どうしたんだい、こんなところに…」
「仕事はもう終わったのですか?」
「ああ、そう…だけど、よくこの雨の中に来たな。大変だっただろう」
「いえ、そんなことは…それに傘を持ってくるために来たんです」
「傘……そりゃあ悪かったな、でも俺は頑丈だから濡れても平気だったのに」
「だ、だめです!」
思わず大きな声が私の口から出る。心配な気持ちもあったけど私が傘を持ってやってきたのは他に理由があった。
「あ、あの、わ、私……っ」
「千鶴ちゃん?」
恥ずかしさのあまり顔が身体が熱を持っていく。俯いて新八さんの顔をまともに見ることはできない。けれど勇気を振り絞って顔を見上げた。
「あ、相合傘がしたかったんです!」
「…へ、」
「憧れてはいて、新八さんといつかできたら…と思っていて、だから今日はいい機会かもしれないって思って…その、」
すいません、と言いそうになる私の言葉を遮るように新八さんは傘を取るとゆっくりと開いた。
「ほら、千鶴ちゃん。帰ろうぜ」
「えっ」
「したかったこと、なんだろ?俺は千鶴ちゃんがしたいことを嫌がるはずがあるわけねえじゃねえか。それに千鶴ちゃんのしたいことは俺がしたいことでもあるからよ」
「新八さん…」
「なぁに、千鶴ちゃんを濡らさないようにするからよ」
そう言って新八さんは私の肩を抱く。
「さ、行こうぜ」
「は、はい…!」
そうして一つの傘の下、今日の新八さんの仕事の話を聞きながら家へと向かう。新八さんの私のしたいことを最優先してくれるところが好きで、こうやって明るいところが好きだと改めて感じた。新八さんとだと雨も好きになれるような、そんな気がした。
-了-