前言撤回はしない 「あれ、また誰も来てないみたいですね。いつもなら月森くんとか早くに来てるのに」
「そうだね…」
火原が教鞭をとっているという学校、至誠館高校の吹奏楽部が【全国学生音楽コンクール】に参加するということから火原の誘いにより俺たち、かつてのアンサンブルメンバーは共に見に行くことになったのだが――。
(思えば…こいつとも、長い付き合いになったものだな)
高校の時からの付き合い。あれから、付き合い始め、特別な関係は続いている
「……ふ、」
「梓馬さん?」
突然笑った俺を不思議に思ったのか香穂子は俺に近づき、見上げてくる。
「…なんだよ」
「…嬉しそうだなって、火原先輩と久しぶりに会えるのが嬉しいんですか?」
的外れなことを口にする香穂子にはあ、と息を吐くとそのまま頬を摘まむ。
「にゃ、にゃにふるんですか~~っ」
ばたばたと動く香穂子がおかしくて思わず笑う。
「ふ……くくっ……」
ぱっと離すと頬をさする香穂子に思わず、こんなムードも何もないところで言ってしまった。
「結婚するか」
「へ」
きょとんと驚いた顔をする香穂子にまた笑う。
「変な顔」
「だ、だってそれは梓馬さんが……っ」
「まあ、本当はもっとムードがいい時にプロポーズして指輪も渡すつもりだったが言ってしまったものは仕方がない。…嫌だとは言わないだろう?」
「よ、よろしくお願いしますっ…」
涙を滲ませる香穂子の目尻にそっとキスをする。他の皆は、まだ、来ない。
-Fin-