おひさまのかおり 「……そういえば、」
遊び疲れた日向くんを寝かしつけ終え、洗濯物を畳んでいるとそう言って月彦さんの鼻が私の首筋に触れた。
「テンプスティで初めて会った時はちょっと、こう…香水の香りみたいなのがした気がしてたんですけど…気づいたら、なんというかそう言った香りがしなくなったといいますか…」
その指摘は確かに当たっていた。初めて会った頃は気にならない程度の香水もつけていたし、実際香水は瓶のデザインが好きだったりして買ったりしていたが日向くんと出会って一緒に遊ぶようになってからは控え、そして月彦さんのことを好きになってからは全て処分していた。そして最近は香りが強くない薬用のハンドクリームを使っている程度だ。
「そうだったのか…。じゃあ、この香りは……」
そしてまた月彦さんは鼻を近づけた。
「朱里さん、君自身の香りなのかな」
自分の香りと言われても分からず自分で嗅いでみるけれどよく分からない。
「ふふ…まあ、自分の香りと言われてもよく分かりませんよね」
そう言われても月彦さんに嫌われたくなくてどんな香りなのか聞いてみる。
「え?別に嫌な香りじゃないですよ。…どんな香りって、うぅん…そうだなあ…おひさまの香りとでもいうのかな…僕?僕は好きですよ、君の香り。君の優しさを移したみたいな香りがして…落ち着きます」
そう言われると嬉しくてにやけてしまう。
「…そんなに嬉しいですか?」
好きな人にどんなことでも自分の事を好きって言ってもらえると嬉しいに決まってる、と力説すれば月彦さんの頬が赤く染まった。こうやって褒めれば照れるところが大好きで思わず、かわいいと言ってしまう。
「可愛い…って、僕…君よりだいぶ大人なんですけど…」
いじけた様子はやっぱり可愛くてまた可愛いと口にしてしまう。
「もう、君って人は…そんな人には…こうだ!」
そう言われたと思えば両手を捕まえられてしまい、首の裏にキスされてしまう。今日は首元が開いた格好をしていたし見えるところじゃないかとわたわたしてしまう。
「心配しなくても見えるところにはしていませんよ」
満足げに笑って言うものだから思わず頬を摘まもうとして、仕事の事を考慮して月彦さんの手の甲を抓った。
「いたた……っ、ごめんなさい、つい」
ついじゃないです!と怒っても月彦さんはにこにこ笑うだけ。頬を膨らませているとまた両手を捕まえられ、抱きしめられてしまった。
「…嬉しかったんです。君はまだ若くて、おしゃれもしたいだろうに…そうやって僕や日向のことで色々と我慢させていることに申し訳なく思ったり、けどそれと同時に嬉しい…君の時間を僕たちのために使ってくれてありがとう」
またそんなネガティブなことを言うものだから違う、とすぐさま否定を口にした。
「…【自分がしたいと思ったことをしている】…?はは、やっぱり君は優しいな…君のそういうところが僕は…大好きだよ」
まだ、日向くんはすやすやと眠っていてそんな歌のように聞こえる寝言を聞きながら唇を何度も角度を変えて重ねた。恋よりも愛が近い月彦さんとの【恋愛】が大好きでそっと瞼を閉じた。
-Fin-