絆されるのも時間の問題? 「あれ、それって【中村中也】?」
「きゃっ!?」
図書館にて詩集のコーナーにいた私に声をかけたのは累だった。熱心に見ていたものだから驚いてしまう私にそんなに驚かなくても…なんて苦笑いを浮かべたまま私の唇に指を当て、静かにするように促してくる。こくこくと頷くと声を顰めて話し出す。
「それで何で詩集?」
「私、フクロウに来るまで偏ったものしか読んでいなかったんだなって思ってそれでこれまで読まなかったものを読もうと思って、勉強のために…」
「なるほどね」
「それで、詩なら雑誌にもよく載っているからとっつきやすいかと思って。あ、そうだ…累」
「?」
「累って紫鶴さんの本を全部読んだとも言っていたしよく本を読んでいるのでしょう?」「まあ、それなりに?帝都大なら僕以上に読んでる人なんて五万といると思うけど」
「それでもいいの、よかったらおすすめの本を教えてくれない?」
「僕が君に?」
「ええ。読もうと思っても一体どう言ったものから始めたらいいか分からなくて」
「うーん…それはいいけど、できれば苦手な傾向や好きな傾向を教えてくれると助かるかな」
そう言って累は笑う。
「えっと…紫鶴さんには悪いけど、過激な恋愛表現のは苦手だわ。あと、不幸な話も苦手。幸せな話が好きだわ」
「君らしいな」
子供っぽいと思われたように感じ頬を膨らませば、そう言うつもりじゃないんだと累は笑った。
「君の人柄が良く出てるなって」
そう言って嬉しそうに笑って、そして距離を縮め更に声を顰めた。
「る、累…?」
「君に、悪いなと思って」
「え…?」
「君から言ってくれたことだけど君に会うための口実が出来たからね。」
「会うための…」
言われた途端、顔が赤く染まり熱くてたまらなくなる。
「よかった、忘れたわけじゃなかったんだ」
忘れるわけないじゃない!と怒りそうになって押し黙る。そんな私を見てくすくすと笑う。
「…そんな顔してくれるってことは期待してもいいのかな?」
何を、と尋ねるほど私は流石に子供ではなくただ顔を赤くしたまま累を見つめることしかできない。そんな私を見て変わらず累はにこにこと笑う。
「…ずるいわ」
ぽつりとつぶやく言葉に累は首を傾げた。
「ずるいって?」
「…それは自分で考えて、」
そんなふうに言われたら、笑われたら、いつか累に絆されて頷いてしまいそうで。だからずるい、なんて言えずにそういえば「わかった」と言ってまた楽しそうに笑う。そんな顔を見ながら本で顔を隠す私だった。
-了-