初めての夜の後 「!」
ぱちりと目を覚ましてすぐ視界に飛び込んでくる黒髪に私は現実に引き戻される。
(そうだったわ…私は昨日……)
五右衛門に愛され、そして私も五右衛門を愛した。それを思い返すとこのまま部屋に戻るのも寂しい気がして頭の位置を枕へと戻すように横になるとそっと五右衛門に身を寄せた。
「…寝顔を見るのは初めてだわ」
大人っぽく見えるような五右衛門だけれどこう見ると幼い顔つきをしているように思える。そっと腕を伸ばし五右衛門の頭を撫でてみる。
「あら、ふわふわ…五右衛門の髪質はこういった感じなのね」
タマとはまた違った髪質になんだか楽しくなってしまい、そして知らない五右衛門をまた知ることができてうれしい気持ちもあった。
「…可愛い顔をして、一体どんな夢を見ているのかしら」
「……そりゃ、あんたのことに決まってる」
「!?お、おお……起きて!?い、いつから……!?」
「あんたが目覚める前から。あんたの寝顔、堪能させてもらったよ」
「~~~~っ」
「こらこら、枕を投げるな。あんただって俺の寝顔を堪能しただろう」
「そ、それは……そうね、ごめんなさい」
「謝らなくていいから、ほらこっち」
そう言われ腕を引かれすっぽりと私は五右衛門に抱きしめられてしまう。
「……あんたと両思いだってことも、身体を重ねたことも夢みたいで…もう少しだけこういさせてくれ」
「…ええ、いいわよ」
「……」
「なに驚いた顔をしているの」
「いや、だって…恥ずかしがり屋なあんたのことだから逃げられるかと思って…」
「わ、私だって五右衛門のことが好きなのよ?……、あなたと離れ難いと思っては…だめ?」
「…………、あんたってやつは……」
「五右衛門?」
「いや、あんたの可愛さにくらっと来てたとこ」
「……そういうこと言って」
「はは、可愛い」
そうやってからからと笑う五右衛門。そんな笑顔がまた好きで彼の首元に顔を埋めた。
***
「さてと。そろそろ戻るか、タマ蔵も戻ってくるだろうしな」
「……ええ、そうね」
「……凜、」
呼ばれ顔を上げると五右衛門は両手を広げていて私はその胸に飛び込み背に腕を回した。
「いつもこんなに素直ならいいのにな」
「…素直じゃない私は嫌い?」
「いや、大好きだ」
「……ありがとう、…また、部屋に来てくれる?」
「…あんたが誘ってくれるなら」
「うん…ねえ、五右衛門」
「ん?」
「……キス、したい。あと一回、一回だけ。そうしたら…離れるから」
「一回と言わず何度でも」
そうして重ねられる口づけは熱いものではなく優しいもので、そんなキスに泣きそうな想いをしながら私はその熱から体を離す。
「またあとでな、お嬢」
「ええ」
そして手を振って彼の背中を見送った――。
-了-