必要ない我慢 「かっ……、」
「か?」
思わず口元を押さえた俺にラチアは不思議そうに首を傾げる。
「ルデル?どうしたの?…似合ってない?」
「いや…似合ってるよ、すごく」
地上に出て旅を始めて、違いを覚えるのは衣服もまた同じだった。見たことのない装飾のアクセサリーや洋服。興味を惹かれるのは当然のことで、ある店でラチアが袖を通したワンピース。薄い水色、白いレース、ふわふわとした女の子らしい印象を植え付けるこの服はラチアによく似合っていた。
「ルデル、何か隠してる顔してる」
「隠してるって…」
「ふふん、私はねこれからルデルの知らないルデルも知っていく予定なの!だから何か隠してることくらいわかるよ」
そう胸を張って言うラチアにたまらず困ったような笑みが出る。
「…きみには、敵わないな」
そう言って髪を撫で、髪を梳く。
「…かわいいなって、思ったんだ」
「えっ」
予想していなかったのかラチアの頬が赤く染まり、それさえかわいいと感じる。
「ラチアの着てる服…きみによく似合ってる。もちろん、かわいいのはきみ自身がってのが一番だけど、」
「ちょ、ちょっと…」
「思ってたんだけど、言ったらきみを困らせるかなって。でも…見抜かれてたんなら我慢する必要はなかったかな」
「る、ルデルのことは全部受け止めるつもりでいるけど、でもぉっ…!」
そうやってあたふたするラチアをそっと抱き寄せ、口をラチアの耳元へと近づける。
「……ーーかわいいよ、すごく。好きすぎて困るよ、本当に」
「〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」
限界が来たのか、少し俺から離れると遠慮がちに俺の手を握り、引く。
「も、もう行くよ!お金も払わないと」
「…はいはい」
恥ずかしがるくせに手は握ってくれる。そばにはいてくれる。それほどラチアの傷が深いことを理解し、そしてその手を握り返す。
「…今度の誕生日はドレスでも贈ろうかな」
なんてことを考えながら。
-Fin-