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    だいきり

    @s_daiquiri

    リンぐだ♀が好きです

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    だいきり

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    Pixivに上げているカルデアの嬢王 差替前の旧バージョンです
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=16777419

    Pixiv版と大まかな流れは一緒ですが、細かい言い回しなどが微妙に変わっています

    #リンぐだ♀

    カルデアの嬢王【前置き】

    20✕✕年、微小特異点が日本・歌舞伎町に観測された。
    聖杯の回収は蘆屋道満(英霊巡旅)、岡田以蔵(えろうイケちょるスーツ)、
    マシュ・キリエライト、マスターの計4名で行うことになる。

    聞きこみ調査の結果、聖杯の保管庫の鍵がなんと、とあるキャバクラ店の
    「VIPルーム」の中のどこかに保管されてあることが判明。
    ただしその部屋は、TOP5以内の嬢(キャスト)が特別な客をもてなす時にしか使えない。

    そこでレイシフトメンバーの誰かがキャストになり、稼いだお金をそのまま男メンバーが使い、
    カルデアキャストをナンバー嬢に推し上げてもらうマッチポンプ作戦で行くことに。

    レイシフトメンバーの中で女はマシュとマスターしかいない。
    マシュにそんなことはさせられない!とマスター自ら源氏名「リツ」(本名:立香)を名乗り
    単身キャバ嬢として潜入することになる。

    かくしてカルデアのマスター藤丸立香は、対サーヴァントで鍛えた折衝力を活かし、
    TOP5入り、ひいてはVIPルームの利用権獲得を目指すのであった!

    *********

    「そも、きゃばくらとは何ですかな?マスター」
    「私もよく知らないけど、たしか綺麗な女の人とお喋りしてお酒を飲む場所だって」
    「ワシもよぉ分からんが、そん感じじゃと、芸妓遊びみたいなもんか?」
    「はい、私も分からないのでマシュ・キリエライト、調べてきました!」

    『✩キャバクラ(キャバレークラブ)
    ドレス等で着飾った女性が客席に付き、主に男性客に接待を行い非日常空間を提供する飲食店。
    性行為は提供しない。より多くの指名・ボトル獲得がキャスト(女性従業員)の利益に繋がる。
    指名獲得のため、連絡先の交換や、待機中にお客さんと連絡を取ったり
    お客さんと同伴(出勤前)で食事に行く事もある』

    「・・・・・・先輩、危険な匂いがします、ここはやっぱり私が・・・」
    「マシュはダメ!もっと危ない!!大丈夫、私が何とかする!」

    「・・・でも正直、私たちより絶対他に向いてる女性サーヴァントいたよね?とは思う・・・
    マタ・ハリさんとか・・・」

    「そうです!以蔵さんか道満さん、お二人のどちらかに女装して頂くのはどうでしょう!?
    お二人共、容姿は整っていらっしゃいますが!」
    「いや、2人とも全く接客向いてないでしょ!絶対気に食わないお客さんがいたら殺しちゃうやつだよ!?」

    「ンンンンン、さすがマイマスター。己のサーヴァントの事をよく見ておられる。」
    「褒めてないよ!?」
    「とにかくやるしかない、微小特異点!さっさと修復してカルデアに戻るよ!!」


    【いざ入店】

    無事面接のアポをとった立香は、面接に備えて道満にヘアセットとメイクをお願いしていた。

    「・・・ねえ、変な呪とか込めないでよ」
    「おや、先手を打たれてしまいましたな。流石は歴戦のマスターでいらっしゃる」
    「こら!!!」
    「拙僧、当世風の化粧は清少納言殿に多少指南頂いた程度にて、些か不慣れではございますが・・・」
    「・・・出来ましたぞ、如何ですかな?」

    ふんわりとしたシニヨンに、目元にはブラウンにかすかな赤みを加えたアイシャドウ。
    全体的にベージュ・ブラウントーンでまとめて幼さを引いていくメイクは、
    クールだがやや幼めな立香の顔立ちに上手くハマっていた。

    「おお・・・!さすが道満、多才は伊達じゃないね」
    「バッチリ盛れてます先輩!どこから見てもオトナの女性です、素敵です!」

    「ええ、仰せの通り拙僧多才なれば。
    幼顔に大人の色気を出せという主の無茶振りもこなしてみせましょう」

    「幼顔で悪かったね!年齢ギリギリだから、見た目だけでも大人っぽく見せないと
    中に入れないかもだし・・・」

    タイトなノースリーブのニットトップスに、膝丈レースのタイトスカート。
    足元はヒール高めのパンプス…といった、動きやすさを考えられた普段の魔術礼装では
    あまり着ることのないタイプの装いに身を包んだマスターに、以蔵は思わず感嘆の声をあげた。

    「ほお〜、マスター、中々どうして別嬪さんになったのう!
    どうじゃ、今夜仕事終わりにわしと一晩・・・」

    「お断りします!」
    「すげんねえ・・・」

    「じゃあ、行ってくる!マシュ達は引き続き情報収集よろしくね」
    「はい!行ってらっしゃい、マスター!」

    【顔見せ】

    例のお店で勤務を始めて1週間ほど。
    まずは店のスタッフに馴染み客と認識させるため、立香は2人を指名客として呼び寄せた。

    「ほう・・・これは、豪華絢爛といったところですな」
    「いや〜!しかし金は女持ちで女遊びできるなんて夢のようちや!
    これでマスター以外の女子(おなご)とも遊べたら文句ないんじゃがのう!」
    「はぁ・・・・・」

    「リツちゃ〜ん!ご新規で指名、2名様で〜す」

    呼ばれた先には、カルデアなら間違いなく保護者達に規制されそうな
    セクシーで華やかなミニドレスに身を包んだマスターがいた。

    「はーい、初めまして。ご指名ありがとうございます。
    岡田さん、蘆屋さん。ここでは『リツ』って呼んでくださいね」

    「「・・・・・・・・・」」

    「・・・ちょっと2人とも、何その顔」

    「ンン・・・貴女に『蘆屋さん』と呼ばれる違和感たるや、凄まじいですな・・・」
    「おまんに『岡田さん』っち呼ばれるんは、なんか他人行儀でむず痒いのぅ・・・」

    「そう?じゃあ普通にいつもの呼び方にしようか。でも私のことは
    ここでは源氏名の『リツ』で呼んでね。本名とマスター呼びは禁止で」

    「承知。リツ殿」
    「しかしリツよぅ、これまた、なかなかわし好みの助平な衣装じゃのう!」
    「こらーっ!セクハラ!太ももを撫でようとしない!」

    「もー。とりあえず適当にドリンク頼むね。
    ところで・・・どう?あの後手がかりは見つかった?」

    「おう、バッチリぜよ。そっちはどうじゃ?」
    「うん、関係者っぽい人に接触が取れたよ」
    「それは重畳ですな。詳細を・・・」
    (〜略〜)
    「そっか。分かった。だいぶ手がかりが見えてきた感じだね」

    「必要なことは喋れたし、別の指名、呼ばれたから行ってくるね。残りは拠点で。
    多分今回のお客さんは長いから、適当な所で会計しといて!」
    「なあリツ」
    「 何?」
    「・・・・・・別の娘呼んで、延長したらいかんか?」

    「・・・以蔵さん?」
    「あー分かっちゅう分かっちゅう、冗談じゃ、冗談!!!」

    「・・・・・・・・・まあ、折角じゃ、道満。
    リツ・・・マスターの仕事ぶりをちょっと見てから帰ろうぜよ」
    「はぁ。まあ、良いですが・・・」

    「おっ、マスターの指名客ってアレか?うちの所長が痩せて見える太鼓腹じゃのう!」
    「さてさて、マスターはあの御仁をどう調理されるのか、お手並み拝見。」

    「来た来た!リツちゃん!」
    「ご無沙汰してます、先生。」
    客がタバコをスッと出すと、サッと火をつける立香。

    「リツちゃん、相変わらず滑らかだね〜」
    「(巌窟王で慣れててよかった・・・)あはは、ありがとうございます」

    「そうそう、先にドリンク、頼んでおいたよォ〜。『ベル・エポック』。
    リツちゃんの髪色みたいな綺麗なロゼだろッ?」
    「わっ、こんなお高いシャンパン、いいんですか!」
    「勿論だよォ!ささ〜っ、まずは乾杯だねッ!」
    「ありがとうございます、カンパーイ!いただきま〜す・・・あ!スッキリしておいしい〜」

    「うげっ、あれ一本15万じゃと!?喋り方はキモイがあのオッサンようやるのぉ・・・!」
    「成程、あれが名は体を表す、太客というやつですな?」

    「あとフルーツ盛りも頼んだよ!折角だから食べさせて欲しいナァ〜」
    「いいですよー。はい、あーん」

    「・・・マスターがわしの前で知らんオッサンとイチャイチャしとぉが・・・
    いかん、のうがわるぅなってきたぜよ・・・」
    「そういう仕事でしょうに・・・貴方・・・そんな打たれ弱さでなぜ残ろうなどと言い出したのです?」

    フォークですくって口元に運ぼうとする立香。
    しかしその先は、客に指を降って遮られた。

    「ん〜ッ、違うよォ!リツちゃん!」
    「えっ」
    「仕方ないなァ〜!ねぇメアリちゃん、お手本見せたげて!」

    呼ばれたヘルプの先輩嬢が、客の横に座る。

    「はぁい♡ じゃあ失礼して・・・セ〜ンセ、メアリのマンゴー、召し上がれ♡」
    「ア〜ン!うん、お汁たっぷりでとっても美味しいよッ!」
    「ありがとうございますぅ♡」

    思わず硬直する立香とサーヴァント2騎。

    「さぁ、次はリツちゃんのマンゴー食べたいな〜♪」

    (え、よりによって2人が来てる前でコレをやるの!?)
    (恥ずかしい、でもやらなきゃ、やらなきゃ、全部任務のため!!!)

    「り、リツのマンゴー・・・召し上がれ・・・♡」

    「やだリツちゃんってば、耳まで赤〜い!震えちゃって〜、ウブでカッワイイ〜」
    「は〜いッ!じゃあそんなウブなリツちゃんのォ〜!
    は・じ・め・て・マンゴー!!ボクがいただきますッ!
    あむあむッ!リツちゃんのマンゴー甘ァ〜いっ!」

    「あ、はは、ありがとうございます・・・」
    (うう、心を透明にしろ心を透明にしろ心を透明にしろ・・・!!!)

    「うぇ・・・鳥肌が立つ下ネタじゃのう、マスターもよう耐えとるぜよ・・・わしなら確実に斬っとる・・・」
    「クククク・・・しかし見てくだされ以蔵殿、あのマスタァの顔!傑作ですなァ・・・!
    拙僧、笑いを堪え難く・・・ンンンンンッフフフフフ!!!」
    「・・・おんしも大概じゃのう」

    *****

    「マシュ〜〜〜!!!」
    「ううう〜マシュ〜・・・癒される・・・可愛い・・・マシュは癒し・・・撫でてマシュ・・・」
    「先輩・・・!本日も本当にお疲れ様です・・・!」

    帰宅後、立香がわしゃわしゃとマシュに頭を撫でられていると、
    少し遅れて上機嫌の道満と、隣で道満をドン引きした目で見つめている以蔵が戻ってきた。

    「ンンンンンマスター!慣れぬお勤めで日々お疲れのマイ・マスタァ!
    忠実なる貴女の拙僧が、労いに果実(フルーツ)を買ってきましたぞ♡
    南方にて採れる高級果実、その名もマンゴーにございます!とくとご賞味あれ!」

    「おい・・・!」
    立香がドスの効いた声と目線で道満を威嚇する。

    「ンンンンン!斯様に殺意に溢れた目線を向けないでくだされ、拙僧昂ってしまいまする♡」

    突然のフルーツの差し入れに、何も知らぬマシュだけがキラキラと目を光らせる。
    「マンゴー!これは・・・とても美味しそうですね!人数分ありますか!?」
    「今切り分けますぞ♡」
    「・・・マシュ、私の分も食べていいよ、私お腹空いてないから・・・寝る・・・」

    「マスター。」
    道満は立香の手にフォークをギュッと握らせた。
    「ごめん道満、せっかく買ってきてくれたのに悪いけど、私は・・・」

    「おやァ・・・?拙僧には、食べさせて頂けないので?」
    口元を指さし、愉悦の笑みを浮かべる道満。

    「・・・・・・自分で食えーーー!!!!!」
    立香は顔面にフォークを投げつけて絶叫した。


    【まさかの】

    「ゴメンなさいね、リツちゃん。今本指名のお客さんが重なってて・・・
    来るまで少しかかるから、その間は私でガマンしてね、イケメンさん達。
    私はマヤ。よろしくね。」

    短期間ですっかりNo.3の人気嬢になったマスター藤丸立香、もといリツ。
    3回目の指名は指名被りで、おっとりした雰囲気のヘルプの嬢に接客を受けていた。

    「いやぁ、リツもええけど、たまには別の別嬪さんと遊びたいと思ってたところじゃき・・・」
    「ハハハ。リツ殿に聞かれたらまたお叱りを受けますぞ」
    「あらあら、リツちゃんってば隅に置けないわね。」

    「彼女、最近入った娘なんだけど本当に人気なのよね。
    たまに冷やかしで女性客も来る事があるんだけど、あの娘にかかればあの通り。
    女性を固定客につけたのはウチではあの娘が初めてよ」

    立香が今相手をしている客は、なんと20代後半くらいのやや地味目の女性。
    女同士ではあるが、心なしか立香を見つめる彼女の頬はほんのり染まっている。

    「(女性客・・・マシュが聞いたら卒倒しそうじゃのう)」

    「でも、私も同じ嬢だけど分かるわ。あの娘が人気が出る理由。
    リツちゃんってこういう業界にあまり居ないタイプなの。
    どんな人でも目を真っ直ぐに見て、話をして、認めてくれる娘。
    そう、皆を惹きつける太陽みたいな魅力があるのよね。」

    「「・・・・・・・・・・・・」」

    「ただ彼女、噂ではここに居るのは期間限定だって聞くのよね。
    店でも当然引き留めは入ると思うけど、貴方達もご贔屓なら彼女にお願いしてみてくれるかしら?
    リツちゃんにいなくなられたら私たちも寂しいもの」

    黒服に呼ばれ、一瞬席を外すヘルプの嬢。

    「・・・フフ、誠に我らがマスターは、人を誑し込むのが実にお上手でいらっしゃいますなァ。
    ええ、憎らしい程に」
    「・・・わしの台詞、取らんでくれるか?」
    「ははは。これは失敬」

    話が終わったヘルプの嬢が戻ってくると、申し訳なさそうに2人に告げた。

    「二人とも、リツちゃん来るのに結構時間かかっちゃうかもしれないって。
    待たせちゃう代わりにVIPルームが今日は空いてるから、そこで待機してもらえないかって言ってるけど
    ・・・お時間大丈夫?今日はやめとく?」

    VIPルーム。本来の目的である、聖杯の保管庫の鍵の在処とされる場所。
    マスターの努力によって、ついに突破口が開けた。


    【帰還】

    「此度の特異点、仕掛けは多少複雑でしたが、敵自体は全く大したことはありませんでしたな。」
    「ほうじゃのう。早う帰ろうぜよ」

    「以蔵さん!道満さん!」
    「おや、マシュ殿、マスターは?もう退去の準備は整いましたが。」
    「それが、その、以前お勤めだった店のお客さんに捕まってしまって、しゅ、修羅場に・・・!」
    「何じゃとぉ!?」

    「ごめん、私、あそこには、その、潜入捜査で来てただけだから、もうここには戻らない、だから・・・」
    「何を意味のわからないことを!ふざけるな!
    俺は!きみに!ひと月で500万円も貢いだんだぞ!借金までしたんだ!この意味が分かるか!?」

    眼鏡をかけた中肉中背、30代前半くらいの小柄な男性が
    喚き散らしながら立香に抱きついていた。

    「おやまあ。随分と面白いことになっておいでですなぁ。ンンン・・・」
    「・・・相手の方が、ひどい興奮状態です。私だけで抑えるのは危険かと思いまして・・・」

    「他の誰よりきみにその価値があると思ったから!
    他の誰よりも俺こそがきみの特別になりたかったからだ!!」

    「・・・・・・っ」

    「新人の君がこんな短期間でナンバー入りできたのは俺のおかげだろ!?
    それなのにきみは、俺に予告もなしにいきなり消えた!
    君がいなかったらもう俺の人生はもうめちゃくちゃなんだ!きみのせいで!
    やっと見つけたんだ、これは運命だ、もう離さない、離さない、離さないぞ・・・」

    男は腰ベルトを外して、立香の手に掛けようとする。

    「!ちょ、ちょっと・・・!?」
    「みっともないって分かってる、でも俺はもう・・・」
    「待って、離して、わたし、行かなきゃ・・・!」

    「おい、アイツ、まさか・・・!?」
    「先輩!」

    振り払って逃げようとする立香の足首を引っ掴み、倒れ込んだ体に男が覆いかぶさった。

    「どこにも行かないでくれリツ、俺にはもうきみしかいない!
    俺といてくれ、名前を呼んでくれ、愛してる 、愛してるんだァ!!!」

    「ちょっと、やだ!やめて!やめろ!離せ!・・・っいや!」

    服の下に手をかけようとした瞬間、男の体はすかさず以蔵の脚によって蹴り飛ばされ、宙に浮いた。
    すかさず道満が、立香の身体を首根っこを引っ掴んで持ち上げる。

    「無事か!? マスター!!」
    「大丈夫ですか!先輩!」
    「はぁ・・・・・・貴女、被虐願望でもおありで?男相手に何を大真面目に一人で対応しておるのです。
    素直に助けを呼べばいいでしょうに。さっさと戻りますよ。」

    「お前ら、たまに店に来てた二人組・・・! 」
    「男が居たのか・・・!ッこの・・・クソビッチ!売女!淫売!アバズレがぁ!」
    男は顔を真っ赤にして激昂し、叫び倒した。

    「ンフフ、彼女は『潜入捜査』と言っていたでしょう?我々、仕事仲間でして。」
    「さて、貴方の愛しの君の代わりに言ってあげましょう。・・・分かりませんか?
    我々の仕事は終わり。貴方はもう、用無しです。ンンンンン!残念でした!!」

    「・・・・・・」

    「リツ?全部嘘だったのか?何もかも? 」

    「夜の女の話なんざ、真の方が稀じゃと相場が決まっちょるやろうが。
    そんな事も知らんで、ようその年まで生きてこれたのう」

    (―――違う、全部が全部、嘘じゃない。
    お客さん達と一緒にいて、楽しいときも沢山あった。その気持ちはきっと嘘じゃなかったけど。
    でも、それを弁解しても、私が楽になるだけ。この人にいいことはひとつもない。
    だから・・・)

    「・・・・・・ごめん!」
    「リツ!!!」

    「あと、貴方。彼女の本当の名前は「リツ」などではありませんよ。フフフフフ!
    ええ、勿論、真の名など教えてなどやりませぬぞ。
    身を滅ぼすほどに惚れた女の真を何も知らぬとは、いやはやとんだ嘲笑(わら)い話!
    フフ、何とも愚かしい。愚かが過ぎればこうも笑えるものだとは。」

    「―――それでは、左様なら。見知らぬお方。」

    体が光り、レイシフトによる退去が始まる。
    男の手はもはや立香に触れることなく、虚しく空を掻いた。

    「リツ、りつ・・・」

    茫然自失の状態となっている男の前に、ひらりと式神が舞い込む。

    「・・・何だこれ、人形?」
    『急々如律令』
    「ッぐ!!!?」

    そしてどこからともなく聞こえてきたその声と共に、男の身体は地面に崩れ落ちた。
    そして刹那、身体はサラリと砂に変わって消えた。

    「・・・永遠に。」
    「・・・何か言った?道満」

    主の問いに、口だけニコリと微笑んで道満は答えた。
    「いいえ、何も。羽虫の囁きでございます」
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