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    satm_vxy10

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    9月24日 ミッションコンプリート!4で頒布予定の新刊サンプルです。
    ルーク&アーロン&シキの三人がDISCARDの残党を追って捜査するお話。シキ中心です。シリアス。
    時系列は「大抗争!ミカグラカップ」の少し後です。

    ※一部に流血表現、死を思わせる表現があります。ご注意ください。

    よろしくお願いします。

    沈みゆく夢にさよならを 銃声が響き渡る。
     再び照準を合わせて引き金を引く。銃に込められていた弾が、目には見えない速さで飛んでいく。
     無心でその動作を繰り返していくと、やがて用意した弾が底をついた。深く息を吐いて、青年は構えていた銃を下ろす。ふと、自身の背後に気配を感じて振り返り、彼は少しだけ目を見開いた。建物の入り口の横に、見慣れた仲間の姿がある。

    「……どうしたの、イアン」

     青年、シキはイアンに声をかけながら、視線を落として射撃用のイヤーマフを外し、訓練の後片付けを始める。

    「それはこちらの台詞だ」

     仁王立ちして腕を組んだまま、イアンはシキに言葉を返した。シキはイアンから目を逸らしたまま、一瞬だけ動きを止める。

    「必要なことを……やってるんだ」

     片付けに集中する振りをしながら、シキは淡々と言い切る。イアンの言いたいことはわかっている。だからこそ、この場所にいることはナデシコにしか伝えていなかった。ナデシコがイアンに話したのか、イアンが勘づいたのか。どちらにしろ、見られてしまったのなら隠すつもりはない。

    「止める気はない」

     そうやってイアンから掛けられた言葉は、シキにとっては予想外だった。目を合わせるつもりはなかったが、思わず顔を上げてしまう。イアンと目が合うが、彼はそれ以上何も言ってこない。シキは再び視線を落とし、黙って片付けを終える。
     訓練場を後にしようと、イアンの横を通る。

    「貴様は決断できるか」

     静かになった空間に、イアンの声が凜として響く。シキは一瞬口を開きかけてから、その言葉の重みが胸の奥へと突き刺さるのを感じる。吸い込んだ息を吐き出して、唇を引き結ぶ。
     結局、問いかけには答えられないまま、シキはその場を後にした。
     一人その場に佇むイアンは、青年を振り返ることなく静かに目を閉じる。


     世界サッカーカップ。それは四年に一度開催される世界規模のスポーツ大会。今年の会場はミカグラ島のサッカースタジアムであり、世界中から選手やファンが駆けつける。ミカグラ島の歴史でも類を見ないほどの人が集まり、サッカーカップは熱狂の渦に包まれた。つい先日、優勝チームを決める試合が終了し、あとは閉会式を待つばかりとなったが、人々の熱はなかなか冷めない。スポーツ街は人でごった返し、連日お祭り騒ぎのような状態が続いていた。
     そんな喧騒とは裏腹に、公安のオフィス内、特にシキがいる部屋は静かだった。いつものようにパソコンに向かうシキの耳に入ってくるのは、キーボードの打鍵音くらいだ。そこへ、早足でこちらへ向かってくる足音が、扉の向こうから聞こえてくる。ノックの音が聞こえて、シキはどうぞ、と返事をする。扉を開けて入ってきたのは、ルーク・ウィリアムズだった。

    「シキ! 久しぶり……って、今話しかけても大丈夫かな?」
    「そういうのは入る前に確認しろ、この浮かれドギー」
    「まあ浮かれているのは認めよう。でも仕方ないだろ。ミカグラ島に久しぶりに来てから、ようやくシキに挨拶できるんだ!」

     嬉しそうな様子のルークの後ろから、少し遅れてアーロンが入ってくる。

    「大丈夫だよ。緊急の仕事はないから。久しぶりだね、ルーク、アーロン」
    「そうか、良かった! 会えて嬉しいよ、シキ。早速だけど、渡したい物があるんだ!」

     ルークは胸に何か大きな紙袋を抱えていて、それをまるごとシキのデスクの上に置いた。

    「じゃーん! 世界サッカーカップのグッズだ! シキは仕事で忙しくて試合は見られないってナデシコさんに聞いたからさ、少しでもあの熱気を感じて欲しくて!」

     シキが袋を覗き込む前に、ルークは中身を次々と取り出していく。

    「まずは定番の応援用タオル! そして選手の背番号が入ったユニフォーム、公式キャラクターのキーホルダーもあるぞ! それから……」
    「す、すごい……たくさんあるんだね。事件があって大変だったんじゃ……」

     際限なく出てくるグッズの数々に、シキはただ圧倒されてしまう。
     世界サッカーカップには脅迫状が届き、ルークたち四人が事件の解決に当たったとナデシコから聞いていたが、その忙しい中でグッズも買っていたのかと驚く。

    「大変ではあったけど、四人だったし、特に問題なく解決したよ。それより見てくれ! 応援用のメガホンもあるんだ!」
    「おいシキ、迷惑だったら断れ」

     アーロンが呆れた様子で息を吐き、空いている椅子に腰掛ける。シキは慌てて首を横に振った。

    「そんなことない、嬉しいよ。試合は終わってるから、応援グッズの使い道が、わからないけど……」
    「大丈夫! 試合の映像は配信されてるから、いつでも見られる。イアンやゴンゾウさんと集まって一緒に見るっていうのはどうだろう? きっと盛り上がるよ!」
    「盛り上がるのかよ、その面子」

     アーロンの一言で、その場の全員が、同じ部屋に集まってサッカーを見るシキとイアンとゴンゾウを思い浮かべる。

    「うーん、どうだろう……」

     イアンとゴンゾウがサッカーが好きなのかどうかは分からない。いつもの落ち着いた二人しか思い浮かばなかった。
     シキが首を傾げると、ルークも唸りながら顎に手を当てる。

    「お、お酒が入れば、なんとか盛り上がるんじゃないか……? な、アーロン?」
    「提案者が自信なくてどうすんだよ」

     容赦なく突っ込まれ、ルークは気まずそうに笑って頭を掻く。

    「まあ、部屋に飾るだけでも少しは気分が変わると思うんだ!」
    「そうだね……うん、ありがとう」

     嬉しそうな様子のルークと、大量のグッズを見て、シキは微笑んだ。混雑するショップの中で、ルークがシキのためにグッズを買い漁っている姿を思い浮かべるだけで、十分イベントを楽しんだような気分になる。
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