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    satm_vxy10

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    satm_vxy10

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    チェズレイ&シキでルークを遠隔支援するお話。

    キミとじゃなければ どうしよう。
     何度もそう思いながら、シキはキーボードの上で両手を開いたり閉じたりしていた。額には冷や汗が浮かび、唇がかすかに震える。
     深夜のミカグラ島の公安オフィス内。パソコンに向き合うのはただ一人、シキだけだった。零時を過ぎるまで残業するのが日課のようになっていたが、今はいつもの業務が全く手に付かない。
     ピッ、と通知を知らせる音が、薄暗い空間に響く。
     飛びつくようにタブレットの応答のボタンを押した。

    「チェズ……」
    「こんばんは。時間がありませんので単刀直入に言います」

     呼びかけはあっさりと遮られる。どうやら向こうも焦っているらしい。

    「状況は把握していますね?」

     シキはその一言で、通話の相手が自身と同じ立場に立っていることを把握する。

    「……うん」

     通話中のタブレットには目もくれず、シキはモニターを凝視していた。

    「けっこうです、ハッカー殿。まずは、あなたの指を止めている理由を消してさしあげましょう」
    「え?」

     全てを見透かされているような口ぶりに、シキの肩が跳ねる。

    「あなたが動けば、助かる命がある」

     言い聞かせるような、力強く低い声音だった。

    「それだけで十分でしょう」

     声だけの通信だったが、その相手、チェズレイの表情がありありと頭に浮かんだ。これは脅迫などではない。
     ただの、お願いだ。
     シキは静かに目を閉じて、一度だけ深呼吸する。

    『裏口を押さえてくれ! 僕は犯人を追い詰める!』

     モニターから、傍受している彼の声が聞こえた。

    『もうこれ以上、誰も傷つけさせない!』

     迷いのないヒーローの声と同時に、シキは目を開けた。すっとキーボードに手を置く。

    「チェズレイ、どうすればいい?」

     ふふ、と妖しく笑う声が、タブレットから聞こえる。

    「いいですねェ。話が早い」

     そんなチェズレイの声を聞きながら、シキは指を動かし始める。モニターには複数のウィンドウが開き、その中の一つは地図が表示された。

    「おわかりかと思いますが、警察はアレの存在を把握していません」
    「うん。犯人も匂わせてないからね」
    『こちらB地点現着』

     タブレットの会話、通信の傍受、パソコンの操作を同時に行いながら、シキは冷静な表情を崩さない。地図の上に通信からの情報を記していく。

    「恐らくは、捕まったときのための最終手段でしょう」

     犯人が用意した最終手段。それが万が一の保険だったとしても、今回は必ず使われるだろう。

    「でも、犯人は必ず捕まるよ」

     追っているのが、ルーク・ウィリアムズなのだから。

    「ですから必要なのです。あなたが、ね」

     チェズレイの声は一定の緊張感を含みながら、笑みを崩さない余裕も感じられる。手のひらで転がされている気もするが、今は言及する暇はない。

    「ボクは……爆弾の種類までは把握してないよ」
    「そこはおまかせを」

     ルークを犯人逮捕に専念させ、同時に現場にいる誰も傷つけない。そのためなら、己にできることはなんでもする。きっとチェズレイも同じ気持ちなのだろう。それは互いの顔を見るまでもなくわかることだった。

    「うん、頼んだよ。チェズレイ」

     そうしてしばらく、オフィス内には高速でキーボードを叩く音と、チェズレイの声が響いた。
     時間にして十数分、シキのモニターに表示されていたカウントダウンの数字が、エンターキーを押すと同時に停止した。やるべきことを終えたと悟り、シキは息を大きく吐いて椅子にもたれかかる。ルークも無事に犯人を捕まえたことを確認して、シキは傍受していた通信を切った。繋がっているのは、チェズレイとの通話だけになる。

    「お疲れさまです、ハッカー殿。さすがの手際ですねェ」

     シキの息が整ったころ、チェズレイが声をかけてきた。

    「ううん。まさか爆弾が複数あるとは思ってなかったから、チェズレイがいなかったら危なかったよ」
    「ふふ、隠していた起爆装置を押したときの犯人の顔、見ましたか?」
    「そ、そこまでの余裕はなかった、かな」

     不気味に笑うチェズレイに、若干の寒気を覚えながらも、シキは改めて、今回の通話に至った理由に思考を巡らせる。

    「チェズレイ。ボクに連絡してきたのは、爆弾の種類が、ハッキングで停止できる種類だったから?」
    「ええ、もちろんです」

     迷いのない即答だった。

    「……そう」

     なぜか、返す言葉に少し詰まってしまう。その理由に思い至らないまま、シキはきゅっと拳を握る。

    「こっそりボスの通信を傍受しているなら、事件の説明の手間も省けますからねェ」
    「耳が痛い……」

     つまりは、ルークの前にある障害を排除するうえで、シキが一番都合のいいピースだったということだろう。そう勝手に納得した。
     とにかくチェズレイはルークを助けるという目的を達成したはずだ。自分にはもう用はないだろう。
     シキはそう思いながらタブレットに手をかざした。

    「正直、ハッカー殿が協力してくださるかどうか、自信はありませんでした」
    「えっ?」

     その静かな声音に、シキは思わずタブレットの画面を見つめて指を止めた。今の言葉からは、いつもの覇気を感じ取れない。
     ここまでの流れは全て、チェズレイの思惑通り、というわけではないのだろうか。

    「あなたは、ご自身が贖罪中であることに、誰よりも重い責任を感じていますから」

     シキは息を飲んだ。ルークたちの状況を把握して、それでも指を動かせなかった理由を、完全に見抜かれている。
     けれど、彼はそこまで見抜いていてなお、シキに協力を求めてきた。
     すがるような思い、だったのだろうか。

    「協力、とても感謝しています」

     その言葉には、計算も妖しさも含まれていない。安堵からくる素直な気持ちである、そんな気がした。

    「あの状況で、一番迅速に、確実にボスを救えるのは、あなたしかいませんでしたよ」

     もう一度大きく息を吐くと、肩に入っていた力が抜けていく感覚があった。
     チェズレイが相手だからと、変な気を張っていたのだろう。
     しかし、それはもう必要ないのだと思い知った。シキはふっと微笑んで、画面の向こうの相手に語りかける。

    「ルークを助けられたのは、アナタがいたからだよ、チェズレイ」
    「では、我々の功績ということで受け止めましょう」

     チェズレイは謙遜せずにシキの賞賛を受ける。

    「ボクたち、いいバディだったんじゃない?」
    「おや、まるでボスのようなことを仰いますねェ」

     いつもの笑いを含みながらも、チェズレイは軽く返してきた。

    「いったいどんなバディだと言うんです?」
    「うーん……ルークの監視バディ」

     あまり考えることなくそう口にすると、通話の相手は嘆きの声をあげる。

    「ああ、センスの欠片もない! ボスへの思いやりに溢れるバディ、と表現していただきたいですね」
    「それ自分で言っちゃうんだ」

     それは、つい先ほどまでの緊迫した空気とは打って変わった、穏やかな時間だった。それから二人は、なんでもない会話を重ねていく。チェズレイがさて、と手を打ったところで、シキは時計を見た。いつのまにか日付が変わってしまっている。

    「これ以上の活動は体に毒です。このバディも解散としましょう」
    「うん。またね、チェズレイ」
    「ええ」

     通話の終了ボタンをタップしてから、シキは自分の言葉を反芻する。

    「またね、か」

     自然と零れた言葉を胸に、シキはオフィスを後にして自室に戻る。ベッドに倒れ込むようにして沈み、すぐに眠りについた。
     静かになったその部屋で、ぱっとタブレットから光が零れる。

    『もしもし、シキ。もう寝てるかな? 伝えたいことがあったんだけど。さすがにもう寝ちゃったか。どうしてもお礼が言いたかったんだ。今回のこと、君だろう? 助けてくれて、ありがとう。あ、チェズレイにもちゃんと連絡しておくよ! じゃあ、おやすみシキ。良い夢を』


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