Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    umsscc

    表に出すにはアレな絵と息抜きの文章たち。
    スタンプ励みになります。ありがとうございます。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💛 💒 💚
    POIPOI 25

    umsscc

    ☆quiet follow

    ミ、韓国語面白がりそうだよね、という話(ミラプト、付き合う前)

    #ミラプト

    素なんてそう簡単に見せてやるものかパラダイスラウンジのカウンターの隅の席、クリプトの指定席になりつつあるそこに、赤い皿が並ぶのはこれで3回目だ。1回目はチリソースたっぷりのタコス。2回目はスパイスの効いたガパオライス。回を追う毎に赤味を増してく皿が、今日は遂に真っ赤になった。
    「や、やんにょ…ん?」
    「양념치킨.」
    「それそれ!」
    ヤンニョムチキン、鶏の唐揚げに辛味噌を絡めた故郷の料理。真っ赤に染まった手羽元と付け合わせの大根のピクルス。夢にまで見た定番の組み合わせに、まさかこんな異郷の地で出会えるとは。
    「やっぱお前の求める辛さってのはこういう辛さなんだろ?散々迷走したけど、ようやく辿り着いたぜ!」
    タコスもガパオライス美味しかったし、その旨も伝えていたのだが、長年客を見てきた料理人は手応えに満足しなかったようで。一度で終わるはずだったこの会が、気が付けば三度目だ。今日こそは、と意気込んで出されたメニューはまさに三度目の正直と言うに相応しく、クリプトは思わず喉を鳴らしてしまった。食に関してあまりいい思い出のない幼少時代を過ごしたが、それでも故郷の味は遺伝子に刻み込まれているようで、ツンと鼻を刺激する懐かしい香りに弥が上にも期待が高まる。
    鶏の唐揚げにはビールだよな、と一緒にサーブされたジョッキを掲げれば、カウンター越しにミラージュもジョッキを掲げる。店主が営業中に飲酒するのはいかがなものかと思ったが、店の入り口には既にclosedの札がかけられていたことを思い出した。
    ミラージュがクリプトを店に誘う時は必ず、他に客のいない開店前か閉店後の時間に店を開けてくれる。人目を避けたいクリプトにとってその配慮はありがたく、しかし感謝を口に出すことはなんとなく憚られ、毎回こっそりチップを多めに支払うことで謝意を示していた。
    「乾杯!」
    カツンとジョッキの縁同士を触れ合わせて、泡立つ黄金色の液体を一気に呷る。喉を通る爽快感と芳醇な風味に堪らず唸れば、目の前の男も同じように唸っていて、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。ほんの少し、ほんの少しだけ人恋しくなって、正月にパラダイスラウンジを訪れた時には、まさかこの店でこんな穏やかな時間を過ごすようになるとは思いもしなかった。
    「さて、本題はコイツだ。」
    促されて皿の上の赤い手羽元をひとつ手に取る。テラテラと光る辛味噌とアクセントの白胡麻、よく見ると粉唐辛子も塗されているようだ。熱い視線に押されて一口齧れば、途端に痺れるような電流が舌から脳まで突き抜ける。咀嚼する度に舌がピリピリと痺れ、口の中が熱を持つ。痛覚に分類される刺激であるはずのそれらは決して不快なものではなくて、むしろ心地良い。肉が食道に消える頃には、辛さの奥に隠れていた味噌の甘さがまろやかに広がって、後味を優しく締めてくれる。これだ。満足気に微笑んだクリプトを見て、ミラージュは安心したのか気の抜けた声を出した。
    「はぁ〜恐ろしくてロクに味見できなかったから安心したぜ〜!お前のデスクまわりの宇宙語をヒントにレシピを探して、アジアンマーケットまで足を伸ばして調味料も揃えたんだが、宇宙語だらけで大変でな…なんてったっけ、その赤いの…コチャ?コチョ?」
    「고추장.」
    「コチュ?ジャ?」
    コチュジャン、とクリプトが公用語の耳にも聞き取りやすいよう寄せて発音すれば、こちゅじゃん、とミラージュがたどたどしく復唱する。親の言葉を真似ようとする子供のようなその仕草は、なんだか可愛らしい。その子供が自分より図体のデカい髭面の男であることを差し引いても。何度か繰り返し、唇をゆっくり動かして音のひとつひとつを聴き取らせてやる。
    「うーん、なんか可愛いな…」
    「何がだ。」
    「あー、えっと、その…なんつーか、音?やんにょむちきんにしても、こちゅじゃんにしても、こう、音の感じが丸っこいというか、柔らかいというか…」
    何を言い出すかと思えば。熱心にリスニングに励んでいると思っていたら、単純に音を楽しんでいたらしい。先生に徹していた自分がバカらしく思えてきて、クリプトは食べかけの手羽元を食んだ。辛さに負けない鶏肉のジューシーさは、料理人の丁寧な仕事を感じさせる。鶏肉の水分が抜けないよう何かしらの下処理をしているのだろう。故郷では酒のつまみとして出されることが多く、どちらかというとジャンクフードに近いメニューが、作り手によりこうも化けるとは。夢中で頬張っているとカウンター越しにニヤけた顔が迫ってくる。
    「なあ、もっと宇宙語で話してくれよ。」
    「断る。そもそも宇宙語じゃない。한국어だ。」
    「はんぐご?名前も面白いな。」
    「真面目に聞く気がないだろう。」
    「あるぜ。」
    どこがだ、と言いかけた口が止まる。ふに、と口の端に柔らかい感触。擦るように動いたそれはすぐに離れていって、一拍置いてミラージュの親指だと気が付いた。いつのまにかクリプトの口の端についていた辛味噌を攫ったそれは、そのまま彼の口の中に吸い込まれていって。
    「かっら!!!」
    叫び声と共に吐き出された。慌ててビールを流し込むミラージュの顔は真っ赤で、それを呆然と見つめていたクリプトの顔もまた、じわじわと赤くなっていく。なんだ、これは。心臓が脈打ち、顔が熱を持つ。辛さからではない。辛さからではない、のだが。この辛さにも似た緊張感と焦燥感のようなものの正体が、自分でもよくわからなかった。
    「はー…やっぱ食えたもんじゃねえな。せめて粉唐辛子は抜かないと…」
    「…바보가 아닌가.」
    「へ?ぱぼ?」
    「バカじゃないのか、と言ったんだ。」
    「悪口じゃねえか!」
    思わず口から出た母国語に、ミラージュが敏感に反応する。まだ痺れが残るのか、犬のように舌を出した顔が面白い。
    バカじゃないのか、本当に。こんな些細な接触で感情を乱されるなんて。西洋文化をルーツに持つミラージュにとって、こんな触れ合いは挨拶みたいなものなのだろう。対してアジア文化をルーツに持ち、幼少期に親の愛を受けずに育ったクリプトにとって、このレベルのスキンシップはハードルが高い。ただの文化と経験の違いだ。そう頭で整理して泡の消えかけたビールをひとくち。わざと口の中で苦味を味わえば、あれだけうるさかった心臓も落ち着いてくる。ミラージュもやっと舌の痺れが引いたのか、飲み切ってしまったビールを注ぎ直しながら、ぱぼ、ぱぼ、と楽しげに繰り返している。
    「でも悪口も可愛く聞こえるな。これなら何言われても許せちまいそうだ。」
    「なら遠慮なく罵詈雑言を浴びせてやろう。」
    「いいぜ、そっちの方が素っぽくていいしな。」
    暖簾に腕押し、今原に聞いた日本のことわざが脳裏を過ぎる。なんだか今日は分が悪い。相手のホームで自分のルーツをふたつも開示してしまっているからだろうか。店内が最低限の照明で明るすぎず、またその色も暖色系で、まだ残る頬の赤みを誤魔化せていることだけが救いだった。冷えた大根のピクルスを摘んで内側からも鎮火にあたれば、カウンターから手を出してミラージュもひとつ摘んでいく。客の料理に手を出すってどうなんだ。視線で訴えるも店主はどこ吹く風でポリポリと小気味良い音を立てている。
    「とりあえず辛いものはこれで一区切りか。次はどうする?」
    次、と言われてはたと気付く。辛いものが食べたい、というクリプトのリクエストからはじまったこの時間に、続きがあるのかと。ミラージュを見るとさも当たり前かのような顔をしていて、思わずぐと喉が鳴る。嬉しい、と思ってしまった。誰の目も気にせず、美味しいものを食べられる時間は、今のクリプトにとって貴重だ。おしゃべりな店主も、今では少しだけ気に入っている。しかし素直に次の希望を伝えるのも癪で、金属で覆われた顎に指を添えて逡巡した後、クイクイと人差し指で店主に耳を貸すよう示す。なんだなんだとカウンター越しに身を乗り出してきたミラージュの胸倉を掴んで、グッと一気に引き寄せて耳元で吐息混じりに囁いてやる。
    「…다음은 달콤한 것을 먹고 싶다.」
    最後にリップノイズを響かせて解放してやれば、辛味噌を舐めた時よりずっと赤い顔が振り返る。口をはくはくとさせて、まるで金魚みたいだ。
    「なんかわかんねえけどすげえエロい…」
    バカみたいな感想に吹き出しそうになるも、すんでのところで堪える。散々人をおちょくった意趣返しだ。フンと鼻を鳴らしてクリプトは食事を再開する。素なんてそう簡単に見せてやるものか。お前の言う宇宙語とやらを解読して、甘いもので俺を陥落させることができたら考えてやろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭💴💴💴💴💴❤💖💖💖❤😭😭😭☺☺🙏🍗🍰☺😭☺❤❤❤❤❤❤❤❤💯☺❤💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    x_Bambini_x

    MAIKINGクリプトがミラージュ宅にお世話になる話
    帰るまで終われまてん
    なんとしても書き終わらせたいなぁ

    #ミラプト
    懐かしい気持ちだった。
    熱にうなされて、苦しくて・・・
    もやもやする意識の中で、時折優しく触れる手が好きだった。
    額に触れて、撫でられて冷たくて、優しい手を俺は知ってる。






    抱き上げられるように現実に引き上げられると、そこは知らない天井だった。
    『奴らにつかまったのか?』
    反射ビクッと体を動かせば全身に激痛が走る。
    「っ!!くそっ・・・、ハック?」
    無理に体を起こせば、サイドテーブルに置いてあるハックが目に入る。
    『ハックがあれば逃げられるか?』
    部屋を見渡し、ハックを抱え扉と反対側のベッドに身を隠すように座り込む。
    外装の確認をして起動スイッチを押せば、すんなりと電源が入ることを確認する。
    『休止モードに入っていた・・・?』


    ーカチャリー


    「!!!!」
    「あ・・・。目、覚めたのか?」
    この声は聞き覚えがある・・・
    「ウィット・・・?」
    「・・・全く心配させやがって。動けるならこっちの部屋に来い。服はその・・・着てこいよ。その辺のヤツ、使っていいからな。」
    そういって、またカチャリと音がする。どうやら部屋の扉を閉めていったらしい。
    『逃げるなら逃げろということか』
    2052

    recommended works