#1【まこはる】翔する鳶が鳴くころに.
「本当に良いの、ハル…」
「ああ」
シドニーにへと発つ前の日の夜。
遙は自室のベッドの上で真琴と向かい合っていた。
………そう、パンツ一丁の姿で。
【翔する鳶が鳴くころに】
いや…、正確に言えば、真琴はきちんとパジャマ代わりのスウェットを着込んでいるので、パンツ一丁なのは遙の方だけなのだが…そこはまぁ割とどうでも良いのだ。
来るべきシドニー大会前、日本で過ごす最後の日。
遙は真琴と二人で過ごしていた。
真琴も今日はこのまま遙の部屋に泊まり、明日は遙たちの見送りのために一緒に空港まで来てくれることになっている。
暫く会えなくなる恋人同士が過ごす夜、当然そういうこともする……………ということにはならず、今日はこのまま抱き締めあって眠る予定だ。
遙は別に軽くならそういうことをスるのも吝かではないのだが、遙のことをとても大事にしてくれている真琴が今日はエッチなことはなしだよと宣言したので、まぁセックスして万全の状態で大会に臨めなかったというのも本意ではないので、そこは遙も素直に頷いた。
しかしこの時の遙は内心ドキドキだった。
実は遙には、シドニーに発つ前にどうしても真琴から貰いたいものがあった。
それは結構キワドイ貰いもの…いや正確に言えば行為で、それが真琴の言うエッチなことにカテゴライズされるのかどうかがとても気掛かりだったのだ。
だから遙は、そのお願いを口に出すとき、とてもとても緊張していた。
「真琴、頼みがある」
「うん?ってかどうしたのハル…、ベッドの上でパンツ一丁で正座しちゃって…」
「真琴、頼みがある」
「えっ俺の疑問はスルー?…えー……まぁいいや。それで?頼みってなぁに?」
「……水着になっても見えないところに、たくさんキスマークをつけて欲しい」
遙の言葉に、うん?と一瞬面くらった顔をした真琴だけれど、二拍目には、こてんと首を傾げて、どうして?と問うてくるその仕草があざと可愛くて遙は思わず眉間に皺を寄せた。180オーバーのムキムキでその仕草がこんなにも似合うのなんてこの世にお前だけだからな!(※遙調べ)と言い募ってやりたいところだったが、いやしかし真琴のあざとさに怯んでいる場合ではない。
セックスはしなくても良い。
でもシドニーでもお前の存在を感じていたい。
試合中も一緒に泳いでるって感じたい。
お前と一緒に戦ってるって感じたい。
でも試合中は水着以外身に付けられないから、だから身体に直接真琴の痕を残して欲しい。
遙は言葉を尽くして説明した。
真琴のキスマークの必要性を必死にプレゼンした。
すると、遙の話を黙って聞いていてくれてた真琴は、そういうことならと。
俺もハルと一緒に戦えるの嬉しいよと笑って快諾してくれた。
嬉しさのあまり遙のテンションは最高潮に達したけれど、それが元来表には出にくい遙のこと。見た目は平素と変わらないけれど、真琴には大層喜んでいることが伝わったようで、よしよしと慈しむように頭頂部を撫でられた。ごろにゃん。
「でもハル…、水着で見えないとこってなると…」
「…ああ。足の付根と太股だな」
「りょーかい」
じゃあ明日も朝早いし早速しよっか。
そう言って優しくベッドに押し倒され、立てた膝にもちゅっとキスが落とされる。
そのまま膝が割り開かれ、唇で太股を辿った真琴がパンツの端をずらして根本に吸い付けば、
「んっ、」
ちりっとした甘い痛みの後に赤い花がひとつ咲く。
それに満足そうに笑った真琴に、遙の口元も撓む。
「ちゃんとついた!」
「…ん。でも想像以上にくすぐったい」
「ええ~…そこは我慢しょうよ」
ちゅっと今度はさっきよりも内側に真琴が吸い付く。
「…んッ」
今度は反対側の足の付根部分にちゅっちゅっと。
「…ふっ、」
そうして水着で隠れるぎりぎりの下っ腹の辺りにも。
「ふふっ、」
遙の求めた通りに、いくつもいくつも赤い花を散らしてくれる。でも…、
「んもー…ハルさっきからずっと笑ってる~」
「………だってくすぐったい」
だから仕方ないだろと頬を膨らませれば、遙の下腹部に顎を置いて、真琴が再度もー…と鳴く。
………もうもうもうもう、お前は牛か。
今度牛柄のパジャマを買ってきて着せてやろうと遙は密かに心に誓った。
「まぁ…でもそのお陰でエッチな気分にならなくて済んでるから助かるけどさぁ」
「なんだそれ。俺に色気がないって言いたいのか」
むっとしてげしりと真琴の背中を軽く足蹴にしてやれば、いでっと間抜けな声が漏れてそんなこと言ってないだろぉ?と持ち上げた足が捕らえられる。
「…ハルは、昔からずっと魅力的だよ」
身体を起こした真琴が、捕らえた足先にキスを落として、穏やかな声で言う。
「俺はいつだって……、ハルの魅力に気付く人が増える度に気が気じゃないんだから」
「…そんなこと言うの真琴だけだ」
「ハルは自分の魅力にもっと気付くべき」
伸び上がってきた真琴が、ちゅっと唇にキスを落としてくるのに遙も応えて。
「………仮にそうだとしても、俺にはお前だけだ」
俺がこんなこと許すのもこんなにも心の内を晒すのも真琴だけ。
そう伝えれば、うん、と嬉しそうに微笑う真琴のなんと可愛いことか。
「それはそうと遙さん。水着で隠れるところにたくさん(当社比)キスマークをつけてみましたが如何でしょうか」
足の付根がみえるように身体をずらした真琴がお伺いを立ててくるそれに、
「…ん。くるしゅうない。よくやった」
と、殿様さながらに答えれば、ふはっと今度は楽しそうに笑み崩れた真琴が、それじゃあもう寝ようかとベッドに誘う。
脱ぎ散らかしてベッドの傍らで丸まっていたスウェットを遙が着込むのを待って電気が落とされ、真琴と一緒にベッドに潜り込む。
男二人で眠るには些か小さいベッドだけれど、その分くっついて眠れるので結果オーライだと遙は思っている。
だから、遙を慮って別々で寝た方が良くない?と言う真琴にお前と一緒の方が良く眠れるとつっぱねるのはいつだって遙の方だ。
体温が高くてあったかい真琴は、幼い頃から遙の一番の睡眠導入剤なのだ。
遙を抱き込んだ真琴の腕の中で、もぞもぞと収まりの良い場所を探して足も絡めてふうとひと心地つけば、足の間に感じる固い感触。
「………真琴、勃ってる」
「言わないで……」
見上げると反らされる視線。
「…あれで興奮したのか?」
「そりゃハルに触るとなれば興奮します」
「トイレ行ってくるか?」
「んーん。放っといてくれればじきに収まるから」
ハルが嫌じゃなければこのままで良いよと言われて嫌じゃないと示すように、真琴の胸に顔を埋める。
分厚くてふかふかの胸、むきむきの腕、ぬくぬくの体温。
遙だけの真琴布団に包まれれば、睡魔は驚くほどすぐにやってくる。
その波に抗わずに瞳を閉じた遙は、数日後に訪れる大舞台に想いを馳せながら眠りに落ちたのだった。
ここから始まる。
これがハルの……
これが俺の…
フリーだ…!
了
▼あとがきなんぞを…。
FSのシドニー大会の予選で「これがハルの」「これが俺の」「「フリーだ…!」」ってシンクロするとこがまこはるちゃんでめちゃくちゃ嬉しかったってところから、お付き合い済みのまこはるちゃんなら、たくさん「頑張れ」をまこちゃんから貰ってるだろうな~という妄想から出来たお話でした!
( ´・ヮ・)そういえば痕つけるのはどうして水着で隠れるところなの?
(ㅎ.ㅎ)…?そんなの、お前との愛の証を他人に見せてやる筋合いはないだろ。俺だけが見れれば良いんだ
( ´・///・)ハル…!(トゥンク)