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    kinari_random

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    アシュビリワンドロ
    第1回お題『はじめて』

    経験がないことを言葉にしたときに差し向けられるのは、大なり小なり傲慢な色を孕んでいる。そんなことを感じ取ったのは、けっこう昔のことだったように思う。ようやく成人に至る程度の年齢で昔、だなんて笑われてしまうかもしれないけど。まあ、それくらい前のことで……残念ながら幼い己の目でも気付くほどだったのだ。
    初めてだ……という感嘆の言葉、あるいは畏れを含んだ言葉は、たやすく比較の台に乗っけられる。素直に気遣って、あるいは言祝いでくれる人は数えるほどしかいないんじゃないかな。それは同年代であるほどに分かりやすかった。こんなことを考えてしまうひねくれ具合を鑑みないわけじゃないのだけれど、でも。警戒して、線引きをして、それで損をすることが少なかったのも生き様による事実だ。
    明け透けな阿呆を装って、簡単な嘘をつく。良かったねという0と1を隔てた向こう側からの好奇か、あるいは好々爺ぶった下劣な目線。それはあくまで隠しきれない本音の部分であって、表向きに見えるのは当たり障りない善意の皮だけだ。
    親ほど離れた年齢ともなれば、また別の色が覗く。熟れきらない手落ちを、未熟さを楽しむなんてまったく趣味が悪いことだ。けれどそんな自尊心をくすぐって甘い汁を啜るのは悪い手ではなかった。見るからに高そうな食事に『こんなの初めてだ』と嘯いたのは何回になるか。両手の指で足りるだろうか、そこのあなた、指を借りてもいい?なんちゃって。使いすぎてとっくに褪せた「はじめて」に、あからさまなその嘘に、施し気分の彼らは決して気付かない。いや、その本当を暴こうとしないのだ。
    だからオイラは日に複数唱えることさえある初めてを使って、いつも金のなる木から落ちた実を拾っていく。馬鹿らしい話かもしれないけど、ひとつでも嘘がなければ本当として成り立ってしまうのだ。「あなた」から与えられるのは初めてだね、の名前さえ入れ替わってしまえば体裁は整う。
    (こんなに長いこと時間を共にすること、お父さん以外なかったもんなぁ)
    そういう意味では、特定の組織に所属すること自体がこの手管とは相性のわるいことだった。繋ぐ縁より切れない縁の厄介さというのは、ヒーローを全うする彼らの方がよく知っているのだろう。それこそはじめて、俺はそれを身を以て実感していっている最中のような気がする。
    「船の上で手当てしてくれたとき、オイラってば黙り込んじゃったデショ」
    「急になんの話だ」
    「……あんなふうに言葉が詰まるの、久しぶりだった」
    「ハッ、普段どんだけお前が煩かったか理解したかよ」
    この人が見せる傲慢は少しばかり形が違う。たっかい飴をくれたときも、口約束を反故にせず律儀にも誘ってくれたパーティへと参加したときも、初めてだという言葉にただ当然だという顔をした。お前のような貧乏人ならそうだろうな、と。出てくるのはそれだけ?と裏側を暴きたくなるほどだった。
    「HEYHEY! そこは珍しいもの見て得した♪くらい言ってもいいトコロじゃない?」
    「得だぁ?」
    体面を気にすることもなく顔をしかめる素直さが期待通りで、あは、と笑い声が口をつく。損得とは縁遠いところにいる人なんだろうなと改めて実感したりして。
    はじめての反応には見えないと突っつくとか、もうちょっと得意げにするとかないの。自尊心をくすぐるこっちの演出を全然見てくれないんだから、ちょっと腹が立ってしまう。でもパイセンってば情報屋の仕事についてくさしてくるけど、技量についてはこっちが申し訳なくなるくらい認めているよね。だから俺の吐き出す『知らない』なんて言葉は笑っちゃうくらい嘘くさいんだろうなぁ。
    けど、情報と実体験の間には途方もなく隔たりがある。お酒の買い方を知っているけれど、目に見えない境目をこえる前にそれを口に含むことがないように。人を殺せる手段を知っているのに、それを行使しないように。大多数の答えと同じだ、俺だってそんな程度のもの。だからね、だから。
    「虚をつかれたビリーワイズなんて滅多にない掘り出しモノ、見ちゃったんだから。誇ってよパイセン」
    「値崩れ起こす前に振る舞いを改めろクソガキ」
    「その辺はご心配なく。簡単にお出しできるものじゃないって分かってるデショ」
    初めてではない、けれどずいぶんと幼い頃に経験したきりのことが思い出された。喜びや驚きで思考が埋もれて、聞きたいことも言いたいこともこんがらがってエラーを起こす。呼吸を繰り返すためだけに開かれた口は役立たずだったのに、それが不安に繋がらないだなんて。
    「ビックリしちゃった、ホント。……滅多にないよ」
    言葉が出てこないことなんて初めて、だとか口にしてもきっとパイセンの反応は変わらないのだろう。はじめての友達であるグレイならば、ただ素直に喜んでくれたり悲しんでくれたりするのかも。そうして返された感情を自分も素直に受け取って、ハッピーエンド大団円!というわけだ。
    それが叶えられない相手を憎らしく思ってもいいのに、どうしたって感情は融通がきかない。だからそうだな……これが恋だったらどうしようかと、ちょっと思っただけ。
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    Replies from the creator

    kinari_random

    DONEヌヴィリオ。カプと言いつつ+も同然です。
    キャラストや伝説任務もろもろのネタバレを含みます。
    「濾過の果て」俺が望む”正解”は存在しないかもしれない、そんな無知ゆえの諦念を一瞬で奪い去っていった男がいた。己を……いや、水の国におけるすべての罪を裁定する者。存在だけは耳にしていたその象徴を目に映したのは、あの場所に立たされたときが最初だった。証言台に立つには不釣り合いな背格好に対して、なんとも形容しづらい悲嘆と畏怖がさざなみのように注がれたのを覚えている。ゆえに……拙い物語の主役として祀りあげられてしまったのだから、役割をまっとうするしかないと考えたのは本音だ。
    それはカーテンコールまでここに立ち続けてやろう、という意味でしかなかったが。残念なことに、歌劇には一流の作品もあれば三流以下の作品だって存在する。愉快さも滑稽さも足りない、ただ事実だけを読み上げる朗読劇を果たして観客たちがどう感じたか……それはもちろん、推して知るべし。テコ入れをしようとした彼らの雑音を薙ぎ払ったのは、澄み切ったひとつの声だ。最高審判官と諭示機が答え合わせをして、そうして下された結論によって裁判はつつがなく終幕を迎えた。惜しみない拍手を送ってやりたかったよ、だって彼が、あんまりにも考え込んでいる様子だったから。たとえば長い一曲のなか、たった一音の素晴らしい演奏をした者に送られるべき称賛のように。
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    kinari_random

    DONEフェイディノ未満、一瞬だけ嘔吐ぽい要素。ほぼ医務室で話してるだけ。
    ディノの耳の良さ(仮定)と西ルーキーの音系攻撃って相性悪くない?という発想から練ったお話。
    【倣いごと】



    身を投げ打つ予定なんてものは己の中に存在していない。つい数ヶ月前にやった行動はなんだ、と過去が囁くのを一笑に付しながら思う。あのときはまだ生きていくことを想像していなかったせいだ、と簡潔な答えを添えてしまえばすべて解決する。
    だからみんなと共に歩んでいくと約束した今になって、そんな手段を選ぶことはないと。そんな悪行は棄て置いたつもりで、けれど……と思考がつんのめる。頭のどこかで、それをきちんと理解していないような酩酊が泳ぐ。いざとなれば許されるのではないかという甘えが、果たしてつま先ほどにも残ってはいなかったかと。
    「──ディノ!前に出んな!」
    友人が珍しくも鋭く叫んだ言葉に、こういった場面において本当に的確な指示が出来るやつだ、と感心した。それに反応が遅れてしまったのは、ひとえにこちらの不足でしかない。距離感が速度か、あるいは能力自体の把握か。自身のそれもルーキーたちのそれも知っているつもりだった。そんな慢心から生まれた状況が、決して致命的ではないというのも瞬時に察せてしまった。それもまた油断に他ならないと、もう一人の友人なら口を挟んでくるかもしれないな。
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