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    kinari_random

    すべてにおいてらくがきばかり

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    kinari_random

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    ヌヴィリオ。カプと言いつつ+も同然です。
    キャラストや伝説任務もろもろのネタバレを含みます。

    「濾過の果て」俺が望む”正解”は存在しないかもしれない、そんな無知ゆえの諦念を一瞬で奪い去っていった男がいた。己を……いや、水の国におけるすべての罪を裁定する者。存在だけは耳にしていたその象徴を目に映したのは、あの場所に立たされたときが最初だった。証言台に立つには不釣り合いな背格好に対して、なんとも形容しづらい悲嘆と畏怖がさざなみのように注がれたのを覚えている。ゆえに……拙い物語の主役として祀りあげられてしまったのだから、役割をまっとうするしかないと考えたのは本音だ。
    それはカーテンコールまでここに立ち続けてやろう、という意味でしかなかったが。残念なことに、歌劇には一流の作品もあれば三流以下の作品だって存在する。愉快さも滑稽さも足りない、ただ事実だけを読み上げる朗読劇を果たして観客たちがどう感じたか……それはもちろん、推して知るべし。テコ入れをしようとした彼らの雑音を薙ぎ払ったのは、澄み切ったひとつの声だ。最高審判官と諭示機が答え合わせをして、そうして下された結論によって裁判はつつがなく終幕を迎えた。惜しみない拍手を送ってやりたかったよ、だって彼が、あんまりにも考え込んでいる様子だったから。たとえば長い一曲のなか、たった一音の素晴らしい演奏をした者に送られるべき称賛のように。
    どこまでも正しい人、どうか目を伏せて俺を視界になんて入れないでくれ、なんてな。これは卑下ではない、ましてや悲観でもない。俺が背筋を伸ばして生きるためにあんたがまわりに対して睥睨する必要はない、そういうもんだろう。

    そんなふうに、文字通り『仰ぎ見て』いた相手と向かい合ってティータイムをするほどの関係になろうとは。向こうからすれば全ての段階が必然で、なるようになった形なのかもしれないが。いや、どうだろうな……この人はいつまでたっても、フォンテーヌの営みを見ては疑問げな顔を覗かせる。まだ分からないことが沢山あると言わんばかりに。
    二、三ほど業務に関する簡素な報告をしている途中、まるい作りの、おおよそカップを扱うには適さなそうな両手が危なげなくティーセット一式をそれぞれの前に置いた。ちらりと視線を向ければ、これまたまるく柔らかな造形をした顔がこちらをじっと見つめたあと、にこりと笑う。
    「どうぞ、公爵さま!私は手前の部屋に控えておりますので、ご用があればおっしゃってくださいね」
    「ああ、ありがとう」
    適切な茶葉の量、水の温度、蒸らし。それらすべてを頼まれたとおりこなしてくれたであろうメリュジーヌに礼を告げ、水の下であれば取り合いになるだろう瀟洒な椅子の上で姿勢を正す。紅茶こそ温かいものだが、ポピュラーな焼き菓子のほかに本日のメインとして鎮座しているのは冷気をはらんだ半円だ。すぐにスプーンを手に取ったこちらとは反対に、ヌヴィレットは黙り込んだまま、整った涼しげな目を器にまっすぐ向けている。
    「今日は少し暑いからな。道すがら見かけたこいつを土産にしてみたんだが……あまりお気に召さなかったか」
    「気遣いに感謝する。どちらかといえば好ましい品物だ」
    「なるほど、熱心に眺めてもらって光栄だが……溶けきるまでほっとくつもりかい?」
    これまた繊細な作りのグラスに乗せられた山が平らになれば、残るのはうっすらと冷たいだけの甘い水だ。甘露には違いないしその点も本人がいいなら構わない、もてなしの気持ちとはそういうものだろう。マナー違反を論ずるような間柄でもない、これ以上問答するつもりはなかった。そのままたっぷり10秒、開かれた窓から吹き込んだ風が頬を撫でたタイミングで彼……ヌヴィレットはようやく脇にあるスプーンへと手を伸ばす。
    「それもいいだろうが、この冷菓にふさわしい行いではない。いただくとしよう」
    「ついでにいい感想が貰えたらカフェの方に伝えておく……ああいや、あんたが直接言ってやるといい。喜びのあまりその日は休業日になっちまうかもな」
    「……それは私が出向かない方が良いのではないか?」
    「冗談だよ。喜ぶ、って部分は本気だがな」
    腑に落ちないという雰囲気を纏いながらも、否定する気はないのだろう。それはくだんの店主に対する情報の不足と、過大評価でないといいんだが俺個人の発言に対する信用もあるはずだ。無益な嘘をわざわざ選び取ることはしない、少なくともそれくらいの認識が彼の目に映る『リオセスリ』だと。どこまでも公平でなだらかな視線がまさに、彼が神ではない証拠のように思えてならない。なんて世間話はさすがに象徴たる水神さまに不敬か。
    フォンテーヌが誇る絶対的な公正機関……そう、まるでマシナリーのような。あくまで比喩であり、本気でこの人が機械仕掛けのなんたるかであるとは思っていない。血肉の通っているだけの凡庸な人間とも言いがたいが、かといって思考を手放した機械ではない。ただひとつ、この存在は決して真実を裏切らないということ。
    まだ"幼い"と値踏みされる年頃の自分から見ても、その男は生まれながらにそういった性質をした個体なのだと思っていた。立派な体躯と老獪とも言える賢しさを手に入れた今になっても、さほど評価は変わっていない。彼の誠実は、時間によって手に入れたものが少なくないことも……あと明確になったことといえば外見による情報くらいか。己の手のひらの大きさが変わるほどの年月を経ても、彼の見目は少しの揺らぎもなかったのだから。となれば、どれほど鈍いやつだろうと気付くってもんだろう?
    メリュジーヌという善き隣人のように、とんでもなく老化が遅いだけの個性って可能性も一応あったが。その点に関して、枠組みから外れた生態を本人がまったく隠そうとしていないのも笑っちまう。……それこそ今更、か。何百年も”最高審判官”を務める存在を、誰も純粋な人間だとは思っちゃいないだろうな。
    先のメリュジーヌに対する脅迫事件について話した時なんかがそうだ。あまりにも結論以上を深追いしたがるものだから、こちらの与り知らぬ裏話があるのかと。そうして文字の上では目にした迫害の歴史を、それにまつわる人々の怨嗟の在り処を感じ取らされた。
    「店主曰く、これは最近改良された機械でこしらえたらしい。あー、謳い文句は……『果汁そのものを閉じ込めたような味』だったか」
    「確かにフォンテーヌにおける技術の躍進は素晴らしい。すべてが民の喜びに繋がるのならば、尚いいのだが」
    ──そう、良いことも悪いことも、長い時間を経たらすべてが変わってしまうものだ。彼を悩ませ続けていた悲劇が一体いつのことかと尋ねてみれば、言うに事欠いて400年以上も前だと言うじゃないか。そんなもの……そんなのはさ、たとえ血筋で口伝されたとて薄らいでしまう長さだ。
    あんたは今になっても当事者なんだろうが、俺を含めた常人にとって過去の人間の感情なんて、どうしようもなく他人事になる。そもそもあんたが裁いた人間の憎しみだって見当違いだった可能性がある……だとか、笑い話にもならないか。罪人となった彼の心を推し量る手段はもうない、だから告げたのは己の主観と記録のすり合わせに過ぎないのだが。自分以外の者のために手を下し、自分自身のためでこそあると嘯き、そうして審判を受けた。有罪を、人殺しが罪であるというあまりにも当然の答えを澱みなく与えられた者として。
    紙の上にあった事実に彼の記憶が合わさることで理解したが、あんたの部下は随分と演技派だったようで。その点もまた少しばかり共感できなくもない、それなら……俺もまた、数百年後に至ったとき彼の心に残る贅沢を許されるだろうか。ヌヴィレットさんが今になっても手元に残していた男の記憶は、なにも愛すべきメリュジーヌに付随していたからってだけではないはずだ。信頼していたからこそ彼の声がずっと脳裏に張り付いていたのだろうし、真意を知りたがった……そのはずだろう?
    「……ふむ。バブルオレンジの風味だろうか、爽やかだ」
    「ご明察。ディナーでの口直しならリキュールを含ませたりするみたいだが、まだお互い仕事中だからな」
    「君にとってこの茶会が仕事の一環であるならば、今後は控えよう」
    「ふ、っくく……意地が悪いな、ヌヴィレットさん」
    スプーンを運ぶ手に戸惑いは見られない、どうやらリップサービスということもなく本心からお気に召したようだ。そんなつまらない嘘をつくなんて微塵も疑ってはいなかったが、後に続いた言葉が随分と人間らしく……いいや、言葉を選ばずにいうならば”俗っぽい”振る舞いだからつい、笑ってしまう。たとえば百年、二百年、それくらい前ならば彼の言葉はそのままの意味で使われていたかもしれない。俺のために、茶会は実際取りやめになっていただろう。けれど今ここにある言葉は違う、俺を煽っている。自覚があるかどうかは別として、こちらが否と答えるのを待っている気配がするのだ。
    「私は善意のつもりで提案をしたのだが」
    「それなら聞くが、看護師長から『忙しいみたいだし顔を見せて挨拶するのは控える』なんて言われたらあんた、喜べるのか?」
    「それは正しい比喩なのだろうか、リオセスリ殿。意味を照らし合わせるとするならばまるで……」
    「ああ、誤解のないように言っておこう。俺はあんたとの茶会が好きだ、おいそれと奪わないでくれよ?」
    「……承知した。覚えておこう」
    ふ、と綻んだ表情と声音には覚えがあった。メリュジーヌに対しては時折向けられているものだが、俺自身にとなるとそれは随分と久しい。公爵の肩書きを得るためにはどうしようもない最小の手間、ひとつの直筆サイン。過去、それを行うために訪れたパレ・メルモニアでこの人が覗かせたものによく似ていた。微笑みそのものはいつもと変わらずそつがなく、けれど人外であろうとも彼もまた生命体の枠外へは至れないらしい。
    声は息を孕み、必然的に熱が乗る。感情が混ぜ込まれてしまう。どれだけ制御を試みようとも、虚勢を張るべき相手が目の前にいないのならば尚更だろう。……いや、最高審判官をもってして”虚勢”は見当違いな表現だったか。ここはひっくり返して考えよう、彼が好意を詳らかにしても憂いない相手が己である、という自負に。
    「……ついでに、ひとつ尋ねておきたいことがあるんだが」
    「聞こう」
    即答かよと吹き出しそうになり、不自然にならないよう口元を軽く押さえる。新聞記者への対応でもそうだったが、とりあえず質問されること自体を忌避する感覚はないようだ。あるいは……問いかけに答えることで自身の輪郭をなぞろうとしているのかもしれない。人間社会で生きている限り外側も内側も関係なく、他者の目は自分よりもずっと自分の姿を見ている。あんたの痛くもない腹を探ろうなんてつもり、俺にはないけれど。
    「──神の視線は、実際のところ憐れみなんだろうか」
    「どの立場で語ることを望んでいるのか明確にするべきだ。それを煙に巻くのならば、こちらは曖昧に答えざるを得ない」
    「ふぅ、そいつは俺の手落ちだな。単純に、肩書きもなにもないあんた個人の意見で頼むよ」
    「あれらが憐れみを持つとは思わない。……仮に、龍王であっても同じことだ」
    「ほう……それは良いことを聞いた。心が弾むな」
    やっぱり、やっぱりだ!うっすらと高揚する意識に比例して、指先に熱が集まるのがわかる。頬が赤らんでいなければいいが……そうなったら薄まった原始胎海に触れてしまったのかも、なんて誤魔化してみるか。いや、フォンテーヌという国そのものを今まさに抱え込んで守ろうと尽力している相手に対して、この冗談はタチが悪すぎる。乾いた喉を潤すために、最初よりも飲みやすい温度になった紅茶のカップへと手を伸ばす。
    願いの発露に理由があるとするならば、それはきっと、あんたが俺を裁いてくれたからだ。悪いことをしたのだから、悪いと言ってほしかった。を殺した俺が罪を問われなかったなら、子供たちを殺した両親の罪もなくなってしまうのではないかと。それに対して余剰も不足もなく罪をあてがってくれた存在……かの最高審判官さま。ただのひとことも、口を挟むことなく終えられた。たったひとつの憐れみだって向けることなく。俺を可哀想だと言わなかった、その口や目が、どうにも愛おしく思えたよ。
    “正解”は存在した、水の上に確かに。だから願いを抱くことが出来た、足掻くことが出来た、明日の先を想像しても絶望をせずにすんだ。あのまま水の下が終の住処となろうとも、俺の存在ではなく罪だけを裁いてくれたことが全てだと思った。
    「賜物ではあったさ、神の目は……俺の誕生を祝うために寄越されたんだろう。ああもちろん、勝手にそう考えているだけだ」
    「……そうか」
    「ふ、気になることがあんなら口にしてくれよ?こっちは言葉にしてくれなきゃなんにも悟れない一般人なんだからさぁ」
    「無能を装うには君の視野はいくらか広すぎるようだ」
    「おっと、大層な褒め言葉をいただいてしまったな」
    囚人として踏み入ったメロピデ要塞の入口で、受付の彼女にだけ共有された神の視線たる結晶は、まだ石ころだったに違いない。輝かせ方を知らない、でも日の目を見るならまさに、本物の日の光の下であるべきだと思っていた。だからあの日を選んで、心のありかを晒したのだ。あんたならきっと悪く言いはしないだろうという打算が……いや、信頼があったから。
    「あんたも祝ってくれただろう。……嬉しかったよ」
    「私の振る舞いが君の心を晴らしたのであれば、幸いだ」
    手に入らなかったものに羨望の眼差しを向けることは、この先も抑えるつもりはない。他者から羨まれて初めて、その価値を知ることだってあるだろう。俺はそれをいくらだって伝えていいと思っている。ああなんて素晴らしいものを持っているんだ、素敵な人生へのピースになるだろう、ぜひ大切にしてくれ。
    俺も、この手に残ったものは是が非でも大切にする。誰かに羨まれるくらいに胸を張って、そうしたら……きっとあの日の子供が、笑ってくれるはずなんだよ。だからあんたとの茶会も絶対に失くさせない、それだけだ。
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    kinari_random

    DONEヌヴィリオ。カプと言いつつ+も同然です。
    キャラストや伝説任務もろもろのネタバレを含みます。
    「濾過の果て」俺が望む”正解”は存在しないかもしれない、そんな無知ゆえの諦念を一瞬で奪い去っていった男がいた。己を……いや、水の国におけるすべての罪を裁定する者。存在だけは耳にしていたその象徴を目に映したのは、あの場所に立たされたときが最初だった。証言台に立つには不釣り合いな背格好に対して、なんとも形容しづらい悲嘆と畏怖がさざなみのように注がれたのを覚えている。ゆえに……拙い物語の主役として祀りあげられてしまったのだから、役割をまっとうするしかないと考えたのは本音だ。
    それはカーテンコールまでここに立ち続けてやろう、という意味でしかなかったが。残念なことに、歌劇には一流の作品もあれば三流以下の作品だって存在する。愉快さも滑稽さも足りない、ただ事実だけを読み上げる朗読劇を果たして観客たちがどう感じたか……それはもちろん、推して知るべし。テコ入れをしようとした彼らの雑音を薙ぎ払ったのは、澄み切ったひとつの声だ。最高審判官と諭示機が答え合わせをして、そうして下された結論によって裁判はつつがなく終幕を迎えた。惜しみない拍手を送ってやりたかったよ、だって彼が、あんまりにも考え込んでいる様子だったから。たとえば長い一曲のなか、たった一音の素晴らしい演奏をした者に送られるべき称賛のように。
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    kinari_random

    DONEフェイディノ未満、一瞬だけ嘔吐ぽい要素。ほぼ医務室で話してるだけ。
    ディノの耳の良さ(仮定)と西ルーキーの音系攻撃って相性悪くない?という発想から練ったお話。
    【倣いごと】



    身を投げ打つ予定なんてものは己の中に存在していない。つい数ヶ月前にやった行動はなんだ、と過去が囁くのを一笑に付しながら思う。あのときはまだ生きていくことを想像していなかったせいだ、と簡潔な答えを添えてしまえばすべて解決する。
    だからみんなと共に歩んでいくと約束した今になって、そんな手段を選ぶことはないと。そんな悪行は棄て置いたつもりで、けれど……と思考がつんのめる。頭のどこかで、それをきちんと理解していないような酩酊が泳ぐ。いざとなれば許されるのではないかという甘えが、果たしてつま先ほどにも残ってはいなかったかと。
    「──ディノ!前に出んな!」
    友人が珍しくも鋭く叫んだ言葉に、こういった場面において本当に的確な指示が出来るやつだ、と感心した。それに反応が遅れてしまったのは、ひとえにこちらの不足でしかない。距離感が速度か、あるいは能力自体の把握か。自身のそれもルーキーたちのそれも知っているつもりだった。そんな慢心から生まれた状況が、決して致命的ではないというのも瞬時に察せてしまった。それもまた油断に他ならないと、もう一人の友人なら口を挟んでくるかもしれないな。
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