Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kinari_random

    すべてにおいてらくがきばかり

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍫 🍕 💯 💴
    POIPOI 15

    kinari_random

    ☆quiet follow

    アシュビリワンドロ
    最終回お題『花束』

    声に出してねだったもの以上を受け取ることが出来ない、変に理性的な子供の存在を知っていた。足りない生活を知っているくせに贅沢な話だ、と思わなかったわけでもない。等価を前提に少しばかり自分に得のある話をするのは、まあ商売人ならば褒めてやってもいい性質だろうか。
    だからこそ近しい距離に置かれた類似対象へ自然と目が向いた。リスクのない不意の利益に、戸惑いを浮かべた男の考えが気になった。よく回る口と同じだけ働きは悪くない頭で、惜しみなく損得勘定を行なっているはずの相手が、だ。報酬に色をつける、なんて珍しくもないことだろうに。まあ、俺とお前において対等なんてものは無いに等しく、だからこそ己の優位性をひけらかしてやっているのだが。
    6の取り分は求めても10を貰うのは怯む、それがひたすら生存に特化したがゆえの身の振り方だと分かっていても。結局のところ、必要ないとすげなく答えを出されるのが癪だったからこそ、今に至るまで取ることのない手段だったのだ。
    「……どうしたの、ウィルソン氏からお礼でももらった?」
    「庶民が差し出せるようなモンに見えるか」
    「そう? 俺っちでもよく知ってる花に見えるけど」
    「質が違ェんだよ」
    そうなんだ、と首を傾げながらもまじまじと手元の花束を眺める目は好奇心に満ちている。花つきの良さ、色の濃淡、すんなりと伸びた茎に青々とした葉。無論、言葉にしたように質も管理もいっとう厳しい店から直接買い付けたものだ。その差を理解しようとする目は、まあ嫌いではなかった。
    手元にある花束は大きさこそ1000円そこらで手に入るものだが、実際は1本で2000円近くするものも含まれている……らしい。値段に対して触れる必要がないのは承知の上だと前置きしつつ、良いものだからこそ手入れは適切にしてほしい、というのが店主の弁だった。これを手にする人間が、花に対して二時間ほどの賑やかしを堪能したらゴミ箱に放る相手でなければ尚更、と。
    (捨てはしないだろうが、どうだろうな)
    傲慢と謗られようが無知ではない、それが己への評価だった。金がない暮らしへの経験も理解もないが、知識はある。とりわけ富裕層が嗜好品を好むのも『生存する』ためには必要がないから。裏を返せば、生きるために手に入れるべき必需品ではない、ということだ。宝飾品も、贅沢品も、数日で枯れて腐り落ちてしまうこの花も。
    「高けりゃ花にも興味はあんのか」
    持っている側が施しで与えるでもなく、恩着せがましく押し付けるでもない。ただ余ったから置いただけ、必要であると感じたから渡しただけ。持たざる者がおこぼれにあやかるのは当然のことだ、恥じるまでもない。使われてやるつもりなどないが、それでも意気があるならば使えばいいと思っただけだ。オルブライトの名におもねることで得られる利益と、矜持を天秤にかけられるのならば。
    「Hmm……もしかしてボクちんがお金大好きってハナシ?」
    「残念ながらカネにはならねぇがな」
    「まあネ、その点お金は何にでも成れる!……ああ、人の心は買えないのが定説だっけ」
    「いいや買える。まあそれは今は関係ねぇ」
    買えなくはない、手に入ったような顔を出来なくはない。何にでも成れる、それは確かにそうだ。だからこそ自分は金銭に応じて手に入るものであれば惜しまずに払ってきた。今だって……そのまま渡してやるのが一番喜ぶだろうかと思いながら、甘ったれた希望を見出そうとしている。
    お前が、心なんて実利のないものをほんの少し富ませるために、これを受け入れるのかどうか。花という形をとった情を、こんな品になっていなければ向こう三日は空腹を抱えることもない値段のこれを。だから憐れみではなく親愛として、あるいはお前がこれを蔑ろにしないという俺の信頼を捨ててくれるなよ。
    「テメェにやる」
    「……俺っちに、花? なんで?」
    「いらねぇなら俺が捨ててやるから安心しろよ」
    「パイセンそれ優しさのつもり!? ぜ〜ったい脅しデショ!」
    もらうけど……と呆れ混じりの声と共に差し出された手が、小さな花束を受け取る。とりどりの花が映り込んだゴーグル、その奥にある目はじっと花の形を追っている。ややあって、すん、と匂いをかいだあと目を細める仕草をしたことに満足がいった。
    ビリー、お前のことをひとりの人間として認識するための手段だった。こんな小道具を用意してまで、柄にもなく歩み寄りを試みたのだ。
    花を惜しむだけの心があることに安心したなんて、保護者ヅラが過ぎて笑えてくる。だが、そのまんまの意味だ……人として生きろよ。そうじゃなきゃ最悪の先で、本当にパンだけを求めて生きることになっちまうぞ。つまんねぇだろ、そんなのは。
    「……人にあげてもいい?」
    「好きにしろ」
    誰のもとに、なんて聞くのは野暮だろう。だから許してやる。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🙏🙏🙏💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    kinari_random

    DONEヌヴィリオ。カプと言いつつ+も同然です。
    キャラストや伝説任務もろもろのネタバレを含みます。
    「濾過の果て」俺が望む”正解”は存在しないかもしれない、そんな無知ゆえの諦念を一瞬で奪い去っていった男がいた。己を……いや、水の国におけるすべての罪を裁定する者。存在だけは耳にしていたその象徴を目に映したのは、あの場所に立たされたときが最初だった。証言台に立つには不釣り合いな背格好に対して、なんとも形容しづらい悲嘆と畏怖がさざなみのように注がれたのを覚えている。ゆえに……拙い物語の主役として祀りあげられてしまったのだから、役割をまっとうするしかないと考えたのは本音だ。
    それはカーテンコールまでここに立ち続けてやろう、という意味でしかなかったが。残念なことに、歌劇には一流の作品もあれば三流以下の作品だって存在する。愉快さも滑稽さも足りない、ただ事実だけを読み上げる朗読劇を果たして観客たちがどう感じたか……それはもちろん、推して知るべし。テコ入れをしようとした彼らの雑音を薙ぎ払ったのは、澄み切ったひとつの声だ。最高審判官と諭示機が答え合わせをして、そうして下された結論によって裁判はつつがなく終幕を迎えた。惜しみない拍手を送ってやりたかったよ、だって彼が、あんまりにも考え込んでいる様子だったから。たとえば長い一曲のなか、たった一音の素晴らしい演奏をした者に送られるべき称賛のように。
    5748

    kinari_random

    DONEフェイディノ未満、一瞬だけ嘔吐ぽい要素。ほぼ医務室で話してるだけ。
    ディノの耳の良さ(仮定)と西ルーキーの音系攻撃って相性悪くない?という発想から練ったお話。
    【倣いごと】



    身を投げ打つ予定なんてものは己の中に存在していない。つい数ヶ月前にやった行動はなんだ、と過去が囁くのを一笑に付しながら思う。あのときはまだ生きていくことを想像していなかったせいだ、と簡潔な答えを添えてしまえばすべて解決する。
    だからみんなと共に歩んでいくと約束した今になって、そんな手段を選ぶことはないと。そんな悪行は棄て置いたつもりで、けれど……と思考がつんのめる。頭のどこかで、それをきちんと理解していないような酩酊が泳ぐ。いざとなれば許されるのではないかという甘えが、果たしてつま先ほどにも残ってはいなかったかと。
    「──ディノ!前に出んな!」
    友人が珍しくも鋭く叫んだ言葉に、こういった場面において本当に的確な指示が出来るやつだ、と感心した。それに反応が遅れてしまったのは、ひとえにこちらの不足でしかない。距離感が速度か、あるいは能力自体の把握か。自身のそれもルーキーたちのそれも知っているつもりだった。そんな慢心から生まれた状況が、決して致命的ではないというのも瞬時に察せてしまった。それもまた油断に他ならないと、もう一人の友人なら口を挟んでくるかもしれないな。
    6303

    recommended works