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    kinari_random

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    kinari_random

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    ラブイジワンドロ
    第4回お題『決め事』

    対人関係において柔軟性の高い彼との間に、約束やルールなんてものは厄介なだけだ。答えが日替わりしかねない己の性根をよく理解しているからこそ、かえって窮屈さを生むだろうと。実際、そのように『大層な決め事はない』という取り決めによって、日々はとても順調に過ぎていた。
    ひとつだけやんわりと確かめたのは、先約は可能な限り優先するという作法だ。円滑な交遊を保つために設けたひとつきりのそれを、お互い悪意をもって侵すことはなかった。だから安心していたというのは怠慢と言うべきか、不覚と評するべきか。
    自分のことを、年齢の割には物分かりのいい人間だと思っていた。そのように扱われることに喜びと自信さえ持ち合わせていたというのに。
    「……ダメとは、言わないけどさ」
    今夜の予定をずらすことは出来るかという問いかけに、自分でも驚くほどうろたえてしまったのは何故だろう。予定はあくまで予定であって、日付が動かなくとも人間は日々生きているのだからブレが生じるのも当然だ。
    相手から問われることも、さらにいえば自分から問うことも初めてではない。残念だけど仕方ない、と返すだけ。物分かり良くあろうとするとかではなく、フェイスにとっては今まで自然に口をついていたことだった。
    年に一度きりの記念日ですらない、つい数日前にも同じような約束をして果たされたばかりだ。改めて別の日を求めることがまったく難しくはない関係だからこそ、否定に指先をかけることすらなかったはずで。
    (ましてや、そうしても良いかと先に尋ねてくれている)
    嫌だ、俺を優先してくれ、なんておくびにも出したことはない……はずだ。健気に隠していたわけではなく、本当に心から思ったことだったから平気だった。彼もそれを察して、じゃあ穴埋めはいつにしようか、とすぐに明るい声で返してくれていた。
    「本当か? フェイスはいつも気を使ってくれてるみたいだから」
    「それは……お互いさまなんじゃないの」
    でも本当は、と思考の隅に転がっていた憂鬱が顔を出す。一度でも俺が許さなかったときに、優しいこの人がどうなってしまうか分からなかったから。あんたの大切なおじいちゃんとおばあちゃんにたった一日の予定を合わせようとしたとき、それが先約と重なってしまったとき。俺が拒む選択肢を知っている彼が、何も伝えることなく諦めるかもしれない可能性を思ったら。
    そんな無粋な人間だと評価されているつもりはないし、ディノだって……黙って知らせぬまま過ごす人間だなんて思っていない。だとしても、あり得ない可能性だろうと、彼の言葉を鈍らせる要素はひとつだって与えたくなかった。
    それが今はどうだ。替えの効かない予定ではない、いつもどおりの食事とほんの少しだけゆっくりと外を歩いて帰ってくる、それだけのこと。明日でも明後日でもやれること、だというのに。
    「フェイス。……ね、言って」
    「残念だなってのは本当、だけど……行くなとまでは思ってないよ」
    「ふふ、そっか。俺も残念だな、今夜のこと楽しみにしてた」
    「……それでも聞いてきたってことは理由があるんでしょ。そこを否定したくない」
    ほんの少し、いつもより今夜を楽しみにしていた。ほんの少し、最近の仕事は忙しくて、プライベートでもいざこざがあった。ほんの少し……いつもと変わりないはずの心に、融通の利かない子供が棲みついてしまっただけ。用事を終えて帰ってきてからなだめてくれたらそれでいいよ。いつもより手間をかけてしまうかもしれないけど、あんたをライナスの毛布にする予定なんか無い。
    だからこそ愛情を振りまくのが上手で、片道でも満たされた顔をするあんたに抱え込みたいものがあるのか今も半信半疑だよ。それでも、心を寄せられたことに笑ってくれる人で良かったと安堵するのだ。
    問いかけてくれること自体が、俺のことを尊重しているのだと証明している。縁を切りたいわけじゃないという彼の答えに他ならない。だから今日は本当に少しばかりぐずっているだけ。潰えた予定にあんたが寂しい顔をしてくれるだけで、どうでもよくなってしまう……たったそれくらいの焦燥だ。
    「じゃあ、そうだな……今度から嫌なときは嫌だって伝えてほしい」
    「それで?」
    「理由を話して納得してもらう」
    「……ふ、アハ。それなら安心かなぁ」
    決め事なんて己の首を絞めるだけのものだと思っていた。だというのに、こうして彼がひとつ明言したことによって俺の不安はひとつ消えてしまった。躊躇しなくて良いのか、伝えても彼は恐れないのか。ああ、こうやって共用する価値観が増えていくのは悪くない。朝のルーチンも、思考の一端も、口癖や食べ物や興味を引く店に、寝付けない夜の過ごし方。それぞれに引かれるであろう境界線の存在さえ、今は少しばかり楽しみだ。
    だから今日はもう駄々っ子は寝かしつけて、見送ってあげるね。
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    Replies from the creator

    kinari_random

    DONEヌヴィリオ。カプと言いつつ+も同然です。
    キャラストや伝説任務もろもろのネタバレを含みます。
    「濾過の果て」俺が望む”正解”は存在しないかもしれない、そんな無知ゆえの諦念を一瞬で奪い去っていった男がいた。己を……いや、水の国におけるすべての罪を裁定する者。存在だけは耳にしていたその象徴を目に映したのは、あの場所に立たされたときが最初だった。証言台に立つには不釣り合いな背格好に対して、なんとも形容しづらい悲嘆と畏怖がさざなみのように注がれたのを覚えている。ゆえに……拙い物語の主役として祀りあげられてしまったのだから、役割をまっとうするしかないと考えたのは本音だ。
    それはカーテンコールまでここに立ち続けてやろう、という意味でしかなかったが。残念なことに、歌劇には一流の作品もあれば三流以下の作品だって存在する。愉快さも滑稽さも足りない、ただ事実だけを読み上げる朗読劇を果たして観客たちがどう感じたか……それはもちろん、推して知るべし。テコ入れをしようとした彼らの雑音を薙ぎ払ったのは、澄み切ったひとつの声だ。最高審判官と諭示機が答え合わせをして、そうして下された結論によって裁判はつつがなく終幕を迎えた。惜しみない拍手を送ってやりたかったよ、だって彼が、あんまりにも考え込んでいる様子だったから。たとえば長い一曲のなか、たった一音の素晴らしい演奏をした者に送られるべき称賛のように。
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    kinari_random

    DONEフェイディノ未満、一瞬だけ嘔吐ぽい要素。ほぼ医務室で話してるだけ。
    ディノの耳の良さ(仮定)と西ルーキーの音系攻撃って相性悪くない?という発想から練ったお話。
    【倣いごと】



    身を投げ打つ予定なんてものは己の中に存在していない。つい数ヶ月前にやった行動はなんだ、と過去が囁くのを一笑に付しながら思う。あのときはまだ生きていくことを想像していなかったせいだ、と簡潔な答えを添えてしまえばすべて解決する。
    だからみんなと共に歩んでいくと約束した今になって、そんな手段を選ぶことはないと。そんな悪行は棄て置いたつもりで、けれど……と思考がつんのめる。頭のどこかで、それをきちんと理解していないような酩酊が泳ぐ。いざとなれば許されるのではないかという甘えが、果たしてつま先ほどにも残ってはいなかったかと。
    「──ディノ!前に出んな!」
    友人が珍しくも鋭く叫んだ言葉に、こういった場面において本当に的確な指示が出来るやつだ、と感心した。それに反応が遅れてしまったのは、ひとえにこちらの不足でしかない。距離感が速度か、あるいは能力自体の把握か。自身のそれもルーキーたちのそれも知っているつもりだった。そんな慢心から生まれた状況が、決して致命的ではないというのも瞬時に察せてしまった。それもまた油断に他ならないと、もう一人の友人なら口を挟んでくるかもしれないな。
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